2 幸せの絶頂期

付き合ってそれからと言うもの、ことある事に話した。学校行くちょっと前に、今日も頑張ってねと、学校終わるくらいの時間にお疲れ様と、寝る前くらいの時間に、今日も一日頑張ったねと、そうして相手が時間ある時には通話もした。ことある事に「好きだよ」って言って相手を恥ずかしがらせた、その可愛らしい反応を見るのが好きだった。


一緒にコミュニティの通話に行けば、いつか自分がしていたように、めちゃめちゃイジられる始末、恥ずかしいんだけど、どこか満更でもないような、嬉しいような、そんな感覚があった。それまで自分がイジりまくっていた人がここぞとばかりにイジってきて、

「今までのお返しや!」

とめちゃめちゃに恥ずかしがらせに来たのだが、相手側からすればあんまり反応が芳しくなかったらしく、すぐにその対象が彼女のほうに移っていった。俺と違って彼女はそのようなことに耐性がなく、純粋ですぐに恥ずかしがってしまう。だからイジりがいがあったのだろう。実際可愛かったし。


あまり話をする時に「愛してるよ」と言う言葉を使わなかった。理由は、愛してるという言葉の重さを理解していたこと、もうひとつは、何回も何回も使って、その1つの言葉の価値が下がってしまうことを危惧したから。でも代わりに大好きって言葉は沢山使った。単純に褒めるんじゃなく、こういう所が好き、君のこういう所で好きになったみたいな話をたくさんした。どういう所が好きなのって聞かれたら、相手の頭がパンクするくらいの長文で送ってあげた、そうして、恥ずかしがるあの子を見るのが好きだった。たまにあの子が俺を恥ずかしがらせようと攻撃を仕掛けてきた時、だいたいカウンターでそれ以上に恥ずかしがらせていた。そのせいかそのうちあの子の方から俺に仕掛けてくることが無くなってしまったのが悲しいところだけど。

「仕掛けたほうがダメージ喰らうっておかしいんだよぉー!」

と嘆いていたが俺は知りませんねぇ〜。


あ、あと年越しの時にはお互いの言葉を込めたボイスメッセージを送りあった。あの子の声を聞いてるだけで幸せだった。相手からも落ち着く、ずっと聞いていたい声って言ってもらって、それまでクソだと思っていた自分の声も、そんなに悪くないのかなとも思えた。どんな時でも一緒にいれば、辛いことも乗り越えていけると思っていた。


そんな幸せな日々の最中、あの子がこんなことを言ってきた。


「ねぇ、春休みにもし予定があったら…いや、予定合わせて会わない?」、と


ずっと話していたけど彼女が居るのはいつも画面の奥、話を聞いてる時も、遠いどこかで話を聞いている、物理的な距離はどうしても埋められない、そう思っていた中で会おうと言ってくれた。もちろん行く、会いたい、と俺は言った。空いてる日、予定を合わせて、夜行バスを予約して、約束の日が来るまで長い時を待つことになった。


その間にも色んなことがあった。お互いが辛くなることもあった。そんな時でも(精神的な意味で)傍にいてあげて、声を聞かせてあげた、あの子が落ち着くように。思い詰めないように。安心してくれるように。


俺が辛くなった時も、あの子は話を聞いて慰めて、優しく言葉をかけてくれた、何度救われたか分からない程に。

そんな中であの子が教えてくれた大切なこと。ちょっとあの子が言ったこととは違うけど、いつか来るかもしれない辛い未来に怯えて落ち込むより、今ある幸せ大切なものを大事にして生きていこうってね。今を大事に、いい言葉だよね。


でも、双方が辛くなってしまう事もあった。

一番、大変だったのは1月1日、能登半島で起きた巨大地震、あの子の仲のいいネッ友が震度の大きかった地域の近く住んでいたらしく、あの子は人を心配するあまり精神が不安定になってしまった。だから話を聞いてあげて、一旦周囲の情報を遮断してテレビが見えない、また音も遮断出来るようにして、ゆっくり休むことを提案した。そうしたら彼女は落ち着いてくれた。


また同時に自分の家の方でも大変なことが起こっていた。すこし遠くに住む祖母が倒れて救急車で運ばれ、ちょっと危ない状態になったと聞いて向かっていたのだ。そんな中地震で友達の身に何かあったらどうしようと心配で泣いていたあの子の話を聞いていると、自分も周りの人が居なくなったらどうなってしまうんだろ。もしあの子が居なくなってしまったら一体どうなるだろうと考えてしまい、自分の精神まで不安定になってしまった。次の日あの子が話を聞いてくれて収まったけど、前日に地震の事で心労を抱えていたあの子に申し訳がなかったと今でも思う。


そこに行き着くまでたくさんの楽しいこと、辛いこと、心が休まったこと、色々会ったけど。無事に関係は続いていって春休み、やっとあの子に会える前日、期待に胸を膨らませながら、俺は横浜に行く夜行バスに乗るべく入念に準備した荷物を携え、家を出るのであった。

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