ループ能力でエンディングを書き換えるに至る話

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 私は、ループ能力で助けられていたらしい。

 幼馴染の男の子が今まで、人知れず奮闘していたようだ。

 正直、最初は信じられなかったけれど、彼は何度も未来を言い当てた。

 だから信じるしかなかった。


 彼は今までに私のピンチを10回ほど助けてきたらしい。

 どうしてそこまでするのだろうか。

 きっと私にはその理由を教えてくれないだろう。

 その理由を教えたら、とても大切なものを蔑ろにしてしまうと言ったから。

 全てが終わるまでは、きっと何も言わないはずだ。

 彼は変なところで頑固だから、こうと決めたことを曲げたりはしないだろう。


 彼は器用で、とても強い人だ。

 色々な事をやり遂げて、多くの人から賞賛されている。

 だから、ループ能力を持っていても、活用できたし、いつも難なく乗り越えられた。


 7回目までは一人きりで頑張る事ができた。


 けれど、7回目から彼は躓くようになった。

 代償として、彼の力ーーステータスが低下するようになったからだ。

 この世には、無限に使える便利な力などない。


 彼が持つような特殊能力は、たまに歴史の中に、その存在が刻まれる事になる。

 けれど、そのどれもが使いすぎには代償があった。

 彼も例外ではなかったという事だろう。


 それでも、彼は頑張り続けた。


 そして、11回目で限界が来た。

 今まで黙っていたのに、突然私に自分の力を打ち明けたのだ。


 私は信じ、そして彼を責めた。


 どうして私に今まで教えてくれなかったのか、と。

 私は彼の力になれなかった事を悔いて、何も知らなかった自分に怒りを抱いた。


 頼ってくれたら良かったのにと、自分の不甲斐なさも呪った。


 けれど、彼にはそれをしてはいけない理由があったみたいだから。

 私はきっと、最後まで、彼が私を頼ってくれなかった理由を知る事ができないのだろう。


 そんな事は、今は後回し。


 ループする原因は私達の前に立ちはだかり、時間も容赦なく過ぎていくのだから。


 私は彼と共に立ち向かう事にした。

 11回目のループの原因となる惨劇に。

 たくさんの人の死に。

 未来の消滅に。

 私は、毎回その中の一人として死亡するようだ。


 だから彼は、私を助けるために11回目のループを何度も挑戦した。


 この惨劇を切り抜ける切り札は、同時攻略が必要らしい。

 今、私達がいる町にはたくさんの爆弾が仕掛けられていて、同時に二か所の地点で爆弾を解除しなくちゃいけない。

 そうしないと、連鎖的に爆発が起きて、街の隅々にあった爆薬が全て吹っ飛んでしまう。


 私は、彼の知識を頼りに、爆弾のある場所へ向かい、解除を行った。

 そのループの中、私は彼を信じて、いつも行動していた。


 疑うなんてできるわけがない。

 幼い頃から彼の事をずっと見てきたのだから、彼の事は知っている。

 疑いたくないという思い以上に、彼が誰かを貶める事などありえないと知っていたからだ。


 そうして乗り越えた11回目の惨劇。彼のループ。

 そこで全てが終わるはずだった。


 私はもう、彼に助けられる存在ではなくなるはずだったらしい。


 死の運命から解放されたらしい。

 私には分からない事だけれど、彼は私の詩の運命を知っていたようだ。


 これで私は死なない。

 けれどその事実も、彼が楽になる事が嬉しかった。


 なのに、色々な者達が彼を放っておかなかった。


 彼にその力を与えた、5つの傷害が、彼を縛り付ける。


 歴史書の中では、特殊能力は自然に預かるものだとかかれていた。


 しかし真実は違った。

 誰かの欲望が形になり、誰かに押し付けられたのがその特殊能力だった。

 普通は欲望の主は、特殊能力が誰の手に渡ったか分からないらしい。


 しかし彼は、1回から3回目のループの問題を解決するために、目立ち過ぎた。

 それで、欲望の主に、目をつけられてしまったのだ。


 例えばそれは、とある国の王様。

 国の危機を救う為に彼を利用し、どこかのループで私を死なせて、巻き込んだ。


 例えばそれは、とある美しい女神様。

 世界の危機を救う為に、どこかのループで私を死なせて、巻き込んだ。

 だから、彼は私を助けるために、世界も救った。


 例えばそれは、とある賢い魔法使い。

 死んだ者達を救う為に、この世界を覆う異常を正常に戻すために。

 どこかのループの私を死なせて、彼を巻き込んだ。

 彼は当然、人知を超えた戦いに挑まされた。


 例えばそれは、とある腹黒い妖精。

 本心を何も言わず、誰も信じない妖精。

 同族たちを覆う呪いを解除するために、彼の力を借りるために、どこかのループの私を巻き込んで死なせた。

 彼は怒って、ループの何度かの中、彼らを滅ぼそうとした。

 でも結局、私を助けるために、彼ら妖精も助けた。


 例えばそれはとある、過去の邪竜。

 次元を超えて現代に復活した悪しき竜。

 宇宙に存在するすべての時空を、生命を、世界を滅ぼすために彼の力を奪おうとした。

 その最中にどこかのループの私は巻き込まれて死んだ。

 だから彼は、瀕死の重傷になりながらも、邪竜を倒した。


 彼が乗り越えた、主要な五つの困難。

 それらは彼に呪いを残した。


 彼は幸せにはなれない。

 私は永遠に死の運命に取り込まれる。

 彼は私と幸福になれない。

 私はどんな人生をたどっても、長くは生きられない。

 私達は来世からは、永遠に出会えない。


 彼は私に関係する呪いだけ解いて、自分の生を終わらせた。


 彼は幸せにはなれないけれど、

 私は死の運命から解放される。

 彼は私と幸福にはなれないけれど、

 私は長く生きられる。


 けれど、彼はこれから先生まれ変わっても、決して私とは出会えない。


 正直に言うと、私は彼を好いていた。

 彼も同じ気持ちだったと思う。


 なのに、この呪いはあんまりだ。


 こんな結末になるから、彼は私に何も言わなかったのだろう。

 私は何も知らなかった事を激しく後悔した。


 私の人生は、助けられて、助けられるだけだった。

 私が彼を助けた事なんて、たった一度しかない。


 こんなので救ったつもりになるなんて、彼は。

 彼はなんて酷い人なのだろう。


 傷を負う彼に何もしてあげられなかった、傷を負わなかった私。


 そんな私の心の傷なんて、どうでも良いという事なのだろう。


 




 私は、だけど、あきらめない。

 彼のようには上手くやれないけれども、方法ならあるともう知っているから。





 誰かの欲望が、誰かに力を与えるのなら。

 多くの者達に、その欲望を抱いてもらえばよい。


 私は世界中の者達にお願いをした。


 酷い自己満足になるかもしれないけれど。

 彼を助けたいと言い、彼を助けたいと願ってほしいと。


 それはひどく分の悪い賭けで、願った通りの形になるかどうかわからない。


 けれど、やらなければ後悔すると思ったから。




 

 やがて、私の行いの結果が訪れる。


 欲望は力を生み、誰かの体に特殊能力として宿った。


 その人物は、力を行使する。


 たった一人が不幸になり、多くの者達が幸福になるビターエンドを、


 たった一人も不幸にならない、全ての人たちが幸福になるハッピーエンドに書き換えるために。


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