第3話 なんてこったい四天王捜索タイム

「どれにしようかしら……。最後の四天王は私と勇者で良いとして、他の二人のアテはないのよね。あの四天王達、相当な実力だったのよね。冥府が倒れない無限の軍隊、理想郷が偵察、龍谷が届く範囲の攻撃無効。私が提案したし、あれを上回る者を用意しないとダメよね」


けどなぁ……魔界での実力者を持ってくるのがキツいんだよ。

大体の実力者はまう取られているし、残っているのは癖が100ぐらい付いているヤベェヤツだけだ。

その実力者を採用した場合、俺の腹ん中に鉛玉ぶち込まれたみたいに穴が開くのは想像に難くない。


あっちがクソで上司を呼んだ訳ですし、さすがに二回目は使えない。

だが、いつまでも迷っているようじゃダメなんだよな。

まだ誤魔化せているが、四天王が存在しない状況が長続きしているのはまずい。

他の魔国に舐められる可能性が出てくるからだ。


「どうしようもない状況な気がしてきたわね。腹を括って変癖実力者連中を誘おうかしら」

「その前に気分転換ね。適当な店へ飲みに行きましょう。こういう疲れた時にはお酒を飲むのが一番効果的よ」


***


「フードで身を纏った事だし、行きましょうか。さてさて、ワタシはどこに行くべきか。表の街じゃ正体がバレる可能性があるのよねぇ…。大事な時期に何をやっているんだって魔王様に言われるのは嫌よ。なら、裏の街しかないわね」


裏の街……スラム街と言われる類の街は、基本的に危険である。

整備されていない街である為、魔力が変に濃い場所があったり、荒くれ者が多かったり。

表の街に住んでいる住民が裏の街に行くのがオススメされないのは、そんな様々な要素があるからだ。


「まあ、ワタシのような実力者が相手なら問題ないのだけれど」


適当に魔力圧を発しつつ、手頃な店を探す。

騒がしい店の気分じゃねぇんだよな。バカに絡まれたらストレスで拳が出てしまいそうだし、落ち着いた店に行きたいものだ。

まあ、それは無理ゲーのようなものだが。スラム街で探すなんて無茶な話。

そういう店を探すのも楽しみの醍醐味だ。


見つからなかったら……表の街に行くか。


「そんなことを言っていれば……良い店があるじゃない。スナック…ふふ、何故だか楽しく飲めそうね」


瞳に静かに映った『スナック』の店に微笑みつつ、扉を開く。

人があまり来てないのだろうか。扉の魔力が錆び付いていた。

引っ掛かって中々開けにくかった扉の先には、そんな扉とは比較にならない輝かしい部屋が待っていた。


「お久しぶりのお客様ですね。お席にどうぞ」

「これはご丁寧にどうも。店員はアナタ一人かしら?」

「えぇ。ワタシを雇った人は殺されまして。私一人で運営しています」

「そうなの…」

「そうなんです。……さて、お客様はどのお酒をお飲みになられますか?」

「ではクリエットを一つ」

「了解しました」


スナックの推定ママは、注文を聞いた途端、プロとしか思えない速度で用意を作る。

客が来ていなかった店の店員とは思えない速度。

趣味で作ったり……はないな。趣味ならもっとゆっくりやっても許される。

という事は、このママさんは練習してここまで。

見えていない目標に対してよくやるよ。ちょっと尊敬する。


「はい、どうぞ。クリエットです」

「かなりの手際ね。想像していたよりも何倍も上よ」

「ありがとうございます」


クリエットという度数が高いお酒が注がれたグラスに口をつけ、喉奥に少量のクリエットを流し込む。

緩やかに沸るような、魔力が沸々と活性化しているような感覚が襲い、ほんのりとした酔いが回ってきた。

ほんと、この酒は度数が高いな。酒に強い魔族でもすぐに酔いが回る。


前飲んだ時にも思ったが、こいつウイスキーに似てるよな。

度数は違うが、風味はそっくりだ。うむむ、こういう時は燻製チーズが食べたいな。

そんな欲求を抱きつつ、クリエットを喉に当てていれば、ママさんからは燻製チーズが飛んでくる。

おぉ、そこまで見通せるのですか、ママさん。


「あら、美味しいじゃない。アナタ、腕良いわね」

「四天王のユビル様からの言葉、光栄です」

「…私の事、知っていたの?」

「そのような特徴的な魔力は、ユビル様しかいらっしゃらないので。加えて、その姿でその口調は中々珍しいものですし」


ぐぬぬ、浮かれていて忘れていた。

部下連中から「外に出る時は魔力を抑えてください。特徴的な魔力なんですから」って言われてたの忘れてしまっていた。

もーう、マジでミスったって!


「ワタシらしくないミスをした、という事ね。最近忙しすぎて抜けていたかもね」

「他の四天王の方は…?」

「言っておくけど、それは国家機密になるわよ?」

「す、すみません…」

「そうねぇ、アナタが関わるというのであれば、考えてあげても良いけど」


はぁ…ダメだな。四天王が中々見つからないと言っても、こんな子を四天王として誘うなんて。

さっさと冗談と言わなきゃ。じゃないと、このママさんは硬直状態から抜け出せなくなる。


いや、待てよ。もしかしてこのママさん…。


「……アナタ、四天王になるつもりはない?今、ワタシ以外の他の四天王はクビになっているのよ。どう?ワタシと働くつもりはないかしら」

「私が、ユビル様と…?」

「えぇ、そうよ。好きに選びなさい」

「どうして、私なのですか」

「素質があるように感じた。それだけよ」

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