第2話 なんてこったいやる事いっぱい

「ワタシはっ!何をやってるのかしらっ!こんなに仕事が増えるって分かるならやらなかったわよ!」


今の俺を追い詰めているのは、研究が行き詰まっている事ではない。むしろ割と順調だ。

今俺が苦しんでいるのは、困っているのは……多すぎる労働に関してだ。

四人中の三人の四天王が消える事で、鬼王軍、亡霊軍、天鳥軍の三つの軍が俺の手に渡ってしまった。

俺は元々持ち合わせている軍が一つあるというのに……。


「しかし、鬼王軍、亡霊軍、天鳥軍…それには何故か聞き覚えがあるわね。ワタシはこの世界の事はあまり知らないはず。何かしらの感情による記憶操作かしら。けれど、ワタシの記憶にそれだけが入るものか…。」

「あ、思い出したわ。ワタシがどうして聞き覚えがあるのか。一回プレイしたゲームに存在していたわね」


『侵略防衛マスター』


時空的次元外既知壊滅生命体…通称ジジセイと呼ばれるモンスターから星を守り抜くタイプの戦略ゲーム。


公式からの説明文はそうだが、プレイヤー達の意見はそうではない。

操作を教えるチュートリアルの段階で、あるタイミングにあるボタンを押さなければ即死とかいう意味分からんクソゲーだ。

俺も最初はクソゲーだって投げようとしたが、最後までやり遂げたいという根性で最後までクリアした思い出の作品だ。


その作品で三つの軍団が登場したのは冒頭のシーンと中盤のシーン。

冒頭はどうでも良いからカットするとして、中盤はまずい。

仲間割れが起き、二つの派閥に分かれた。

それで主人公側に倒された二人目の四天王が俺ことユビル。


オカマキャラに対して扱いが悪すぎると荒れた気がする。


「待ちなさいよ、この世界があのゲームだとしても変わり過ぎでしょう。ワタシの憑依が始まる前にワタシは手を打っていた。ワタシが転生する前に誰かが仕掛けていた、という事よね。なら、一体誰が」

「……考えても無駄ね。今のワタシが答えを見出される案件じゃないわ。ワタシがするべき事なのは、ワタシが今できる最良をしなければ」


***


「新しい四天王探し、四軍の管理、全四天王の代理、元四天王達の研究、人間側の観察。…いつまで経ってもやる事多いわね。ワタシが引き起こしたのが原因と言えども、恨みがましく見てしまうわ。誰か代わりにやってくれる方はいないかしら」

「くく、探せばおるじゃろうて。他の四天王と比べ、貴様は人徳が中々高かろうて」

「あら、魔王様じゃないの。ワタシよりも多忙な魔王様が一体なんのようで?」


こんなに俺は嘆いてますけども、魔王様に至っては20時間労働が当たり前ですからね。

残った4時間は睡眠に充ててるから、趣味の時間が一つもないっていう。

およよ……いと哀しき、魔王様よ。


さてはて、そんな魔王様は何の要件で来てらっしゃったんですかね。

四天王が変わる時期なんて、魔王城が最も忙しくなる時間でしょう。


「中間結果を聞きに来た」

「どれかしら。全部一人で動かしているから、全て終わったのは無いわよ。あんな連中でも仕事はちゃんとやってくれたのね。仕事量が大違いだわ」

「部下に丸投げしていたらしいぞ」

「最低野郎じゃない」


途中で感心した俺の心を返していただきたいものだ。


「人間側の観察について、どうなっている」

「大国に関してはいつも通りね。魔界を警戒しつつ、大国同士で威嚇し合っているわ。それにワタシ達が警戒する必要はないのだけれど……建てられた新興国には警戒する必要があるかもね」

「新興国がか?」


確かに新興国は影響が低い。周囲には必ず大国が存在するようにできており、大体が属国となるのだ。

しかし、生き残るのはいる。大国の屈強な戦力に劣らず、大国が警戒態勢を取る戦略兵器チートが。


人間側では英雄と讃えられているが、魔界側からしてみれば単なる化け物なんだよなぁ。

原作の俺を殺したってのもあるかもしれん。


「新興国、ヘルゼニアの近くには大国が存在しているのよ。各国からは、出る杭叩きと呼ばれている国ね。そんな国が近くにいるのに、潰されない理由はコイツがいるから」

「…なるほど、勇者か。確かにそれならば手出しはできんよのぉ。古代の時代、魔王を打ち滅ぼした事例が幾つも存在しとるんじゃからな」

「それで?魔王様はどう出るのかしら。このまま勇者を放置しておくつもり?」

「そんなもの、決まっておる」


いや、ニヤァとコチラ見て笑われましても。俺は過去の貴方を知らないから反応のしようがないんですよね。


あ、頭置かないで。頭を掴まれると普通に痛いから。実力差を考えてくれませんかねえ!!


「勇者を最後の四天王として入れろ。初めてだろう?魔国の四天王が人間で、勇者など。今の段階では相応しくないようだから、ユビルちゃんが鍛えて意識を変えると良い。ククッ、楽しみにしておるぞ!!」


はは、はは……無理に決まってますよ?人間側に干渉するだけでも大ごとなのに、勇者をこちらに引き込めと?

無理だが?どう考えたらそれがオッケーされると思ってますの?

魔王様さあ、これを俺が受けると思ってんの?


「了解。できるだけ早く対処するわ」

「楽しみにしているぞ。ユビル・エビル・クリアターナよ」

「はいはい……まだ四天王一人も見つかっていないのだけれど…」

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