第2話 告白

「同じクラスの若松君だよね? 」


 中川さんが確認するように俺の名字を尋ねる。その何気ない言動も不思議と気品が見える。


「う、うん。そうだよ。俺、若松!! 」


 片思いの中川さんに名字を呼ばれてテンションの上がった俺は、自身の顔を指差しながら自身の存在をアピールする。


「よかった。間違っていたらどうしようかと思ったよ」


 中川さんは紺色のブレザーからも強調される豊満な胸を触るように胸を撫で下ろす。どうやら俺の名字が正しいか自信が無かったようだ。


 そんな名前もうろ覚えな陰キャの俺にも配慮ができる中川さんの優しさに魅力を感じる俺。好きな人間の言動は何事も良く見える。まるで美化されたかのように。


「それでどうしたの? 何か用があるのかな? 」


 中庭の桜の下に佇む中川さんは真っ直ぐな目で俺を見つめる。


 どうして俺達は中庭に居るかというと、告白のために中川さんに声を掛けて移動したためだ。


 中庭の桜の下を選んだ理由は、1年前(俺が高校1年生)の頃に話題になった四月は君の嘘に影響を受けて桜の咲く近くを告白場所に選んだわけだ。


 月がきれいの告白場所であった教室も選択肢に浮かんだが、中庭の方が好印象だったので選択した形だ。


「いきなり中庭まで来て貰ってごめん。実は中川さんに伝えたいことがあるんだ」


 俺は緊張から生唾を飲み込む。すぐに喉は乾く。


 緊張感を覚えながらも、目を逸らさないように中川さんを一直線に見つめる。


 中川さんも雰囲気の変化を感じたのか。先ほどよりも表情が真剣なものになる。


 俺は緊張で少なからず吐きそうになるが、勇気を振り絞って自身を奮い立たせる。


「俺は中川さんのことが好きだ!! だから付き合ってくれませんか!! 」


 俺は中川さんの耳に届くように大きな声で告白する。もしかしたら中庭の近くを通る生徒に告白が聞かれたかもしれない。


 俺の告白に反応するように、付近の桜の木が揺れ、花びらが散る。


「…」


 俺と中川さんの間に桜の花びらがヒラヒラと落下する。


「あの。まず告白してくれてありがとう。その気持ちは凄く嬉しい」


 中川さんは感謝の意を伝えるように軽く頭を下げる。


 その好意的な反応に俺の気分は少なからず高揚する。


 「でも。気持ちには答えられない。ごめんなさい」


 中川さんは俺の気分の高揚を裏切るように告白の返事をする。


 あれ。フラれた。もしかして俺って岡崎達に騙された感じ。だから俺の告白が中川さんにフラれたんだよね。そうだよね。そうに違いない。ダサッ。


 俺はフラれたことで多大な羞恥心を抱き、恥ずかしさを紛らわすように自身を責める。


「くっ」


 俺は空気に耐えられずに高速で踵を返し、その場を駆け足で立ち去る。


「あ、若松君…」


 中川さんは申し訳なさそうに俺に声を掛けようとする。制止を試みたのだろう。


 しかし、俺はそんな中川さんを無視して一目散に中庭から姿を消した。

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