第3話 集合
後から来たウッチーとオグさんを合わせ、4人で居酒屋巡り。とは言え、特に何かを食べたい訳じゃない。そんな野暮な事はどうでもよく、とにかく気の知れた仲で集まってやんややんやしたいだけなのだ。週末ということもあり、なかなか空いているお店がない。雨なのに皆よく出てるなぁとどしゃ降りのなか右往左往する中年4人。
さすがに雨の勢いも強くなってきたので、テキトーな、行ったこともない店で時間を潰そうとなった。
大通りから灯りが少ない通りに出て、人通りが見えなくなる場所に一軒、目に見えて人が入らないだろう店があった。この際何処でもよい、とにかく雨宿りしたい。この時既に、帰宅後の即寝は諦めていた。
いらっしゃい。
入って左側の小上がりで天井近くに付けられた小さなモニター程のテレビを呆然と眺めていた女将がそう言って小上がりを空けた。しかし、もはやどしゃ降りで靴の中までぐしゃぐしゃになっている。もし今小上がりに上がれば靴下を乾かしたい。この状態で小上がりに上がるということは、ぐしゃぐしゃに濡れた足をぐしゃぐしゃに濡れた靴に再度入れることを意味する。その意味を知らぬ気を利かせた女将がせっかく空けてくれた小上がりだが、我々4人はなにも言わずアイコンタクトもなしにカウンター席に座る。怪訝な顔をするかと思いきや女将はそっとおしぼりを用意してくれた。女将の人の善さが分かる。
何にする?
全員初めてのお店である。大抵、お店に入る時はあれが食べたいからここに入る、または、店員が知り合いだったり居心地が良い等、目的、過去の体験等からお店を選ぶことが社会通年上普通であろうが、この中年4人はそれが欠如した状態で呆けて雨の中集合しただけである。屋根があり飯と酒があればそれで良いのだ。
そんなだから、女将の単純な当然予想された問いに対して、う~んと考え込む羽目になるのだ。女将もそれを察したのか、決まったら声かけてってぐらいで小上がりに座ってまたテレビに目を向けた。
とりあえず、瓶ビールと刺盛り3人前
はいよ。
さんざん悩んだ挙げ句、お店のお勧めも聞かず普通の注文をしてしまった。こんなことなら悩む必要もなかろうに何をアホみたいに悩んでいたのか。と女将に思われていないかと思ったが、女将も流石に慣れているのだろう。気にする様子もなく作業に取りかかる。
瓶ビールを開けとりあえず乾杯。お通しの鶏皮ポン酢をつまむ。
3人前のお造りが2人前しかないということで、それとは別に煮しめを注文。一軒目なのでこの程度で充分だろう。瓶ビールをお代わりし、一軒目はそそくさとお愛想。とりわけこれと言って特徴があるわけではないが、こういうお店から始まるのもまたいいものである。
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