第6話「試してやる」
「いいだろう、おっさんが本当に強いのか、俺が試してやらあ!」
フーゴーはこっちを見てわめく。
「えええ……」
俺は何も言ってないのに、腕を試されるのか?
「先生お願い!」
クリスタからも頼まれる。
「俺がやらなきゃいけないのか」
困惑を伝えてみた。
「身に着けた力は誰かの役に立てろとおっしゃったのは先生ですよね?」
するとクラーラから絶妙な切り返しをされて、
「うぐっ」
と言葉に詰まってしまう。
たしかにそんなことを俺は言ったと思う。
強くなるのは自分のためではなく、他人のため。
そうじゃないと戦闘力ってやつは簡単に「暴力」や「凶器」へと変貌してしまうからだ。
「先生の力はもっと大勢の人を助けるためにあるのではないでしょうか?」
クラーラは真剣な顔で言う。
そんなことはないと思うんだが、否定できる空気じゃない。
「とりあえずやるだけやってみるよ」
と答える。
俺自身のメンツはともかく、クラーラとクリスタのメンツ分もかかるとなると、ベストを尽くすしかない。
クラーラはホッとし、クリスタは無邪気な笑顔を見せる。
どちらも子どものころの面影と重なった。
「ならこっちに来いよ、おっさん!」
フーゴーに先導されて、二階へと上がる。
そこには広いスペースがあって、壁には武器(おそらく模造品)がいくつもかけられていた。
「ここは鍛錬場だよ、先生!」
「あと、簡単な腕比べもできます」
興味深く観察していると、クリスタとクラーラの二人が説明してくれる。
「気絶させるか、まいったと言わせたほうが勝ち。簡単だろ?」
「たしかにわかりやすいな」
フーゴーの言葉に同意した。
「じゃあ俺が審判をしてやろう」
と見上げるほどの大男が言う。
「あなたは?」
「三級ハンターのガイルだ。よろしくな。【双華】の先生」
問いにさわやかな笑顔で答えられる。
見た目はいかつい筋肉隆々の大男だが、気さくな性格らしい。
「ああ」
ガイルの言葉で、そう言えば名乗ってないなと思い出す。
ぞろぞろと物好きな連中が二十人ほどついてきて、壁際に並んでいる。
「どっちが勝つと思う?」
「普通に考えればフーゴーの圧勝だろ。相手は田舎のおっさんなんだぜ?」
小馬鹿にした声が聞こえてきて、クリスタとクラーラがムッとした。
「でもあの二人の先生なら強いかもしれないぞ」
誰か一人が言ったとき、
「では、一本勝負をはじめる!」
ガイルが大きく宣言する。
同時にフーゴーが両拳をかまえて、軽やかにステップを刻む。
「拳闘士か」
とつぶやく。
相手を削るためのスピードを重視したパンチと、相手を破壊・気絶させるための強打を使い分ける、徒手空拳の戦闘スタイルだ。
スピード、テクニック、パワーを備えていないと成立し得ない。
「へー、田舎者のくせに知ってんのか、おっさん」
フーゴーが意外そうに目を丸くする。
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