第4話「道中」

 結局、俺は二人が拠点にしているという町「ルゼアタウン」を訪れることになった。


「先生。ご迷惑をおかけして大変恐縮ですが……」


 馬車の中で正面に座ったクラーラは謝る。

 

「いや、過ぎたことだし、もういいよ。君たちが困っているのは本当だろうし」

 

 困惑は舌が、べつに怒っているわけじゃない。


「で、でも、先生はすごいんだって、みんなに知ってもらうチャンスだし!」


 とクリスタは何か言っている。

 俺がすごい?


 いまはもうこの二人のほうがすごいんじゃないかな?


「たしかにそれはチャンスよね。先生ほどの人が世界に知られていないなんて、そんなの間違っているもの」


 クラーラはすごい大げさなことを言う。

 俺ていどの実力なんて探せばいるだろうに。

 

 あ、いま向かっている「ルゼアタウン」にはいないかもしれないのか。


 ルゼアタウンは馬車に揺られて五日ほどで到着した。

 町としてはそこそこの規模と言えそうだ。


「先生、町に来るのは初めて?」


 とクリスタがニヤニヤしながら聞いてくる。


「失礼な。いくら俺が辺境の田舎者だと言っても、この規模の町なら見たことくらいあるよ」


 と答えておく。

 大人をからかうなと注意すると、彼女は「てへっ」と笑う。


 無邪気で憎めない性格の彼女らしい反応だ。

 村でも年の近い男子たちから人気だったな。


「このあとの予定はどうなっているんだ?」


 俺はクラーラに問う。

 段取りをしっかりやっているとしたら、まじめなクラーラのほうだ。


「まず『ハンター組合』に行って、先生のことを紹介します。それから拠点探しですね」


 と彼女は答える。

 『ハンター組合』は『ハンター』たちのための組織らしい。


 商人や鍛冶師たちもやっている職業組合みたいなものだろう。 


「そうだな。どこか安宿でも借りれたらいいな」


 宿代が高くないといいんだが。


「えー。あたしたちと同じ宿に泊まればいいじゃん? ねー?」


 クリスタが心外そうに声をあげる。

 「ねー?」と言われたクラーラは何度もうなずいて、


「何ならわたしたちと同じ部屋にしますか?」


 と真剣な面持ちで聞いてきた。


「ダメだろ、それは」


 きっぱりと断っておく。

 十年前なら保護者として同じ部屋に寝たかもしれない。


 だが、いまや彼女たちはれっきとして成人した大人の女性だ。

 俺みたいな男が同じ部屋に泊まっていいはずがない。


「ここに来るまでに何度も断ってるのに」


 クラーラもクリスタもまだあきらめていないらしい。

 

「仕方ない。ここは引き下がりましょう」


 とクラーラが言うと、


「そうだね。先生だっていつかは油断するだろうし」


 クリスタが小声でささやく。

 何の相談をしているんだ?


 

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