第5話 信玄は学園の美少女と付き合う事になった
授業終わりの昼休み。
階段を下り、教室がある校舎二階から一階へと移動する。
「なんか、騒がしいね」
「そうだな。なんだろ」
二人が購買部近くに到着した時、そこには
しかも、留美に対して、廊下で話しかけている男子生徒もいたのだ。
今まさに大勢の人がいる前で、公開告白が行われる瞬間であった。
「俺と付き合ってくれないか?」
容姿からして好感度の持てる男子生徒の方から、いきなり告白し始めたのだ。
留美は、その男子と向き合ったまま少し照れ臭そうにしていた。
真玄は少し離れたところをから、その光景を見ていると、まだ付き合っている間柄ではないものの不安になってきたのだ。
真玄は変にドギマギしていた。
男子生徒と留美のやり取りを見守る形で、周りには数一〇人もの人が集まっている。
どういう結末を迎えるのか、気になっているのだろう。
「君からの返事を聞きたいんだけど、どうかな?」
「私は……ちょっとお断りしているの」
「え? なぜ? 俺のどこがよくないんだ? 何か不満があるなら言ってくれないか?」
「それは、気になっている人がいて……」
「え? そ、そうなのか?」
その男子生徒は悔しそうな顔を浮かべていた。
容姿には自信を持っているようで、告白を断られた事に衝撃を受けている感じだ。
その二人のやり取りを見ている人らも、どういう風な人が好きなのかと、ざわめき始めていた。
「逆にどうしたら、俺と付き合ってくれるんだ?」
「それは、まだ難しいかも」
「そ、そうか……」
「でも、友達からならいいですよ」
「友達から⁉ それならいいのか?」
留美は頷いていた。
友達認定された事で、その男子生徒は元気を取り戻し始めていたのだ。
「じゃあ、今日から君とは友達という事で、よろしく。留美さん」
告白には失敗したものの、彼はすぐに気分を切り替え、友人らしい立ち振る舞いを見せていた。
「それと、これは君にプレゼントしておくよ」
留美は、その男子から一枚のチケットを貰っていた。
「今度、映画館に行こう。その時のために一応、君に渡しておくよ。行きたい日があれば、君の方から話しかけてくれれば、いつでも映画館には行けるからさ」
男子は爽やかな表情で、留美に話しかけていたのだ。
「まあ、今は失礼するよ」
男子生徒は気分よく立ち去って行く。
すると、周りにいた人らも各々やるべき事をやり始めるのだ。
留美は購買部前の廊下で、その映画館チケットを手にしたまま眺めていたのである。
廊下にいた人らは少なくなり、真玄と優芽は歩き始めた。
「咲間さん、さっきは凄かったね!」
優芽の方から留美に話しかけていた。
「う、うん」
「もしかして、さっきの人と付き合う感じ?」
「それはわからないけど。今は様子見ってところかな」
留美はどうしようかと悩んだ顔を見せているのだ。
「そう言えば、咲間さんは、いつも購買部で買ってるの?」
「そうだよ」
「意外と普通なんだね。学食でも使えばいいのに。学園の美少女っていう称号を持ってるなら半額で利用できるんでしょ?」
「そうなんだけど、やっぱり、普通に購買部で購入して、前と同じく一人で過ごしたいかなって。学食だと色々な人から話しかけられるし、ちょっと疲れるから」
「そうなんだ。利用しないのはちょっと勿体ない気もするけど」
優芽はうーんと唸っていた。
三人は一緒に食事する事となり、購買部でパンと飲み物をワンセットで購入した後、校舎の裏庭へ向かう。
この場所にはあまり誰も来ず、比較的ゆっくりと過ごせる空間が広がっているのだ。
留美は称号を得る前は、そこまで目立つ子ではなかった為、一人でのんびりと過ごす事が多かったらしい。
称号を得てからは他人と関わる事が増え、少し困っているようだ。
環境が変化すれば、生活水準を変えなければならない事もある。
急速な変化を経験すると、戸惑ってしまったり、調子に乗ってしまったり。色々あるのだ。
南沢杏奈の場合は昔と比べ変わってしまったが、留美は大きな変化を求めてはいないらしい。
三人は、優芽を中心としてベンチに座り、先ほど購入したイチゴクリームパンを食べる。
今は校舎の陰になっている場所にいて、お昼頃なのに物凄く薄暗い環境だ。
真玄はどんな環境であっても食事できる場所ならば、あまり気にしない。
いつも通りにパンを食べて咀嚼していた。
後は購入した紙パックのジュースを飲んで喉を潤していたのだ。
「咲間さんは、学園の美少女に選ばれてから、大きな変化ってあったんですか?」
「さっきのように告白される事は増えた気がするわ」
「それ以外には?」
「今まで関わった事のない男子生徒から話しかけられることが増えたとか。優しくされたりとか、そういう変化はありましたね」
「へえ、そうなんだ。でも、咲間さんなら、もっと人気になれると思うし、色々な事に挑戦してみるのはいいんじゃないかな?」
優芽は、彼女にアドバイスしていた。
「私はそんなに変化を求めてるわけじゃないし。今はいいかな」
「えー、そうなの? 私だったら、告白されたら一先ずは付き合ってみたりするかも。咲間さん的には、付き合ってみたい人っているの? さっき気になっている人がいるって言っていたけど」
「そ、それは」
留美は頬を紅潮させていた。何かを話そうとしていたが口ごもっていたのだ。
「まあ、それに関しては後でもいい?」
「どうして? 私、誰が好きなのか知りたいんだけどなぁ」
優芽は彼女から聞き出そうとしていた。
「それは、竹内さんの事なの?」
「え? 真玄のこと?」
優芽は瞳孔を広げていた。
「うん。でも、さっきは人前では何も言えなくて」
「そ、そうなんだ、真玄の事がねぇ、意外かも。咲間さんなら他にも色々な人と付き合えそうなのにね」
「そうかもしれないけど。私は普通でいいの」
「じゃあ、真玄は、咲間さんの事をどう思ってる?」
優芽は右隣にいる真玄に問いかけていたのだ。
「それは友達として関わって行きたいと思ってるけど」
「友達? この際出し、付き合ってもいいんじゃない? その方がお互いに楽じゃない?」
優芽は両隣にいる真玄と留美を見やっていた。
「でも、竹内さんはまだ友達の方がいいって」
「え? 真玄が断ったの? それはないよ、真玄。告白してきたんだから付き合ってあげないと」
優芽からは付き合うように促されたのだ。
真玄は留美の方を見やった。
留美の方は付き合う準備は出来ている感じらしい。
真玄も彼女と一緒なら、強引な振り方はしてこないと思い、付き合う事を決意したのだ。
留美となら、嫌な過去も乗り越えて行けると信じたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます