第3話 自分にとっての幸せな瞬間
ファミレスにいると自然と気が楽になってくる。
一先ず学校から離れた事で、
真玄は店内のソファに座り、他の二人と会話していた。
「こちらがご注文のハンバーグになります」
真玄の前にハンバーグが置かれた。
専門店だけあってボリュームがあり、視覚的にも美味しさを堪能できるほどだ。
その匂いが鼻孔を擽る。
「では、ごゆっくりとどうぞ」
女性店員は立ち去って行く。
真玄は箸を持ち、ハンバーグの一部を取り、口に頬張る。
普通に美味しかった。
夕暮れ時の空腹感を程よく満たしてくれるのだ。
「真玄が頼んだハンバーグって美味しい?」
「普通に美味しいし、優芽も食べてみる?」
「うん」
「美味しい!」
優芽は幸せそうな表情で、そのハンバーグの味を堪能していた。
「私も、それを頼めばよかったかも」
「だったら、今からでも頼めばいいんじゃない?」
「そうだね。その方が家に帰ってから夕食を食べなくてもいいもんね。んー、でも」
「どうした?」
「今更追加注文するより、真玄のハンバーグを少しだけ食べればいいかな」
「え、なんで? 美味しかったんだろ?」
「そうなんだけど、あまり食べると太るし」
「そういう事って気にするものなの?」
「そうなの! 気にするよ、それくらい。咲間さんも気にしますよね?」
優芽は、対面上のソファ席に座っている
「そうね。私も食事に関しては気にするわ。太ると後々困るからね」
「ですよね。ほら、咲間さんもそう言ってるんだし」
「そうなのか。俺の発言がよくなったな」
女の子に対する接し方が間違っていたと気づき、真玄は申し訳なく言う。
「そういえば、咲間さんはそれでよかったの?」
「ええ。私はこれくらいが丁度いいの」
留美が注文していたのはハンバーグではなく、パフェだった。
チョコとバナナをメインにした外見。クリームにチョコソースが入り混じっており、クッキーとバナナなどが添えられたデザートである。
見た目からして美味しそうな雰囲気が漂っていた。
「私、ここのお店のパフェが好きで。いつも注文してるの。ハンバーグ専門店なのに、ハンバーグは食べた事が無いの」
「え、そうなの? 珍しいね」
「そういわれるわ。でも、ここのお店のパフェは一番美味しいから」
「そうなの?」
「私、色々なお店をめぐってパフェを食べてるんだけど。ここが一番かも」
「へえ、良く調べたね」
「うん。私、料理とか、お菓子作りが好きだからね」
そう言いながら、留美はスプーンでパフェを頬張っていたのだ。
「そういえば、真玄ってさ。どういう経緯で咲間さんと出会ったの?」
「さっきだよ」
「え? さっき?」
優芽はきょとんとした顔をしていた。
信じてない表情である。
「本当に帰り際に話しかけられて、それで友達として関わる事になったっていうか」
「へえ、そうなんだ。本当にさっきの出来事なんですか、咲間さん」
優芽は目を点にしたまま、目の前にいる彼女に話しかけていた。
「ええ、竹内さんが言ってることは本当の事よ。でも……」
「え? 何かあったんですか?」
「いいえ、なんでもないわ」
優芽の問いかけに、留美はなんでもないと、苦笑いを浮かべている。
優芽は首を傾げているだけだった。
「まあ、それにしても、咲間さんがここのハンバーグ店のパフェを評価してるって事は、相当完成度が高いんですよね」
「そうね。私が食べた中では一番ね」
留美は二口目をスプーンで口元に運び、それを食べて美味しそうに微笑んでいたのだ。
「真玄は知ってる? 咲間さんって、かなりの料理の腕前らしいの」
「そうなのか? 知らなかった」
真玄からしたら初耳だった。
「真玄は知らなすぎるよ。咲間さんは、料理の腕前が優れてるから、学園の美少女の一人に選ばれたんです。そうですよね、咲間さん」
「ええ、でも、他人から直接評価を聞くと、少し恥ずかしいかも」
彼女は照れ臭そうに、はにかんでいた。
「咲間さんは、家庭科の時間にも、プロ並みの料理をしてたんですよ? 私、知ってます!」
「ありがと。でも、料理が出来るくらいで学園の美少女に選ばれたのも実感が湧かないというか。私なんかが、そういう称号を得てもいいのかなって。ちょっと不安なの」
学園の美少女の称号を得たのは、つい最近の事であり、留美は他人から美少女だと評価される事にまだ抵抗感があるらしい。
「自信を持っても大丈夫ですからね! 私も学園の美少女に選ばれたかったなぁ」
優芽は、窓から見える景色を眺めながら黄昏ている感じだ。
「んー」
「なに、真玄」
優芽が隣にいる真玄へ視線を移す。
「なんでもないよ。でも、優芽もいずれかは選ばれるんじゃないか?」
「真玄、そう思ってないくせに。というか、なるにしても来年の五月しかないよ。在学中にしか選ばれないし。今年はもう決まってるしさ」
優芽は残念そうにため息をはいていた。
「お二人は仲がよろしいんですね」
留美は二人の事を見ていたのだ。
「まあ、兄妹っていうか。私が双子の妹で。こっちの方が兄なの。でも、私の方が早く生まれていれば姉になって、真玄の方が弟だったかも。妹より、姉の方が響き良く聞こえるのよね。でも、妹の方が楽できる事もあるし、どっちでもいいかもね」
優芽は色々と話していたが、そこまで気にしている様子はない。
「竹内さんは、どうなの? 双子の兄で良かったのかな?」
優芽の様子を伺い、留美は真玄にも問いかけていた。
「まあ、少し責任感が重く感じる事はあるね。でも、まあ、慣れてくればそんなんでもないかなって」
双子だからこそ相談したい時に相談できるし、意外と仲の良い関係を維持できていたのだ。
どっちが上だとか下だとか、高校生になった今ではそこまで気にする事はなくなっていた。
「咲間さんは、学園の美少女として頑張ってくださいね!」
「う、うん……でも、ちょっと荷が重いかも」
留美は表情を少しだけ曇らせていた。
学園の美少女として選ばれること自体は凄い事ではある。
けれど、一人によっては負担になる事もあるのだ。
留美は学園の美少女の称号を得ているのに、見る限り、彼女からは嬉しそうな雰囲気を感じられない。
真玄は、留美がパフェを食べているところを見つめていた。
留美はデザートを食べるのが好きなようで、学校にいる時よりも、今、この瞬間の方が幸せそうに見える。
人によっての幸せの定義は違うのだ。
そう考えながら、信玄は温かい内にハンバーグを食べ始める。
箸を使い、ハンバーグの次にライスを頬張ると、その二つが上手くマッチしており、物凄くからだ全体で幸せを感じられるのだ。
食べる事でしか得られない幸福もある。
真玄は二人と共に食事をし、楽しい時間を過ごしている内に、心にのしかかっていた杏奈からフラれた苦しみが緩和されていくようだった。
「私、やっぱり、パフェ食べたいし、注文する!」
「え? でも注文しないって」
「デザートは別腹なの! そういうこと!」
優芽は食べ過ぎると太ると言っていたのに、謎理論を展開してメニュー表を見ていたのだ。
留美がパフェを食べていた事で、どうしても食べたくなったらしい。
注文したいパフェが決まった瞬間に、優芽は呼び出しボタンを押すのだった。
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