第2話 留美の友達として

 高校二年の春は過ぎ去り、今は六月の上旬辺り。

 竹内真玄たけうち/しんげんは数か月ほど付き合っていた彼女にフラれたが、今では同学年の咲間留美さくま/るみと友達になっていた。

 まだ正式な彼女を作る事には抵抗があり、留美とは友達という間柄で関わり始めたのである。


 二人は放課後に、街中までやって来ていた。

 今は街中のアーケード通りを歩いて、目的地であるファミレスまで移動している最中だ。


「竹内さんって、一人でいる時はどんな過ごし方をしてるの?」


 隣を歩いている彼女から質問された。


「一人の時は漫画を読んだりしてるけど」

「漫画? どんな漫画かな?」

「青年雑誌に掲載されている感じのやつだけど」

「少年雑誌ではなく、青年誌?」

「そう、青年誌ね」

「そうなんだ。私は少年雑誌とかだったらたまに読んでるよ」


 咲間留美は横にいる真玄へ視線を向けながら、はにかんだ表情で話していた。


「咲間さんも漫画って読むんだね」

「それくらいは読んでるわ。そうね、雰囲気的にそんなイメージはないみたいだけどね」

「確かに、それはわかるよ」

「やっぱり、私にはそういうイメージが無いのかな? じゃあ、竹内さん的に私はどんなイメージに見えるかな?」

「んー、そうだね。普通に女の子らしい雑誌とか恋愛小説を読んでそうな感じかな? 多分」


 真玄はそこまで彼女の事は知らないが、外見的な特徴や雰囲気を踏まえて発言していた。


「私って、そういうイメージがあるんだね。でも、恋愛小説はたまに読んでるから、ある程度合ってるかもね」

「本当に読んでたんだ」


 軽い感じに言ったことが当たっていて、真玄は正直驚いていた。


「でも、たまにね。学校に通学している時とか」

「そうなんだ」


 真玄は相槌を打っていた。


「それでなんだけど、竹内さんって、ちなみにどんな漫画を読んでるのかな?」

「今はトレーニング系の漫画かな」

「え? どういう内容なの?」


 隣にいる彼女は、真玄の趣味に食いついてくる。


「物語に登場するキャラクターは高校生で、筋トレ部に入部してトレーングする感じの内容なんだけどね」

「へえ、そういう漫画があるんだね。そうなんだ……前々から思っていたけど、竹内さんって、結構鍛えてる感じなの?」


 留美は真玄の方をまじまじと見つめていたのだ。


「ある程度はね」


 まじまじと見つめられると逆に緊張する。


「そうなんだ。見た感じ、しっかりした体つきだと思って」

「そうかな? 俺、部活に入ってないし、他の人と比べても普通だと思うよ」

「私は、竹内さんくらいの体系が好きだったから。本気で運動しているわけではないけど、毎日トレーニングをしてる感じの人が良く見えるの。普通であれば、運動部に所属している人がいいと思うんだけど。私、ちょっと変わってるのかも」

「そんな事はないんじゃない?」


 真玄は彼女を気遣うように返答していた。


「でも、人によって好きな事は違うし、それはそれでいいと思うよ」


 真玄は考えながら、続けて言った。


「ありがと。そういう風に言って貰えて。あまり理解されない時もあるから、私、人前では本当の事は話さないようにしてるの。昔、言われたことがあるんだけど。私って普通にしていれば良く見えるって」


 留美は気まずそうに話している。


「そうなんだ。でも、自分を押し殺して生活しても辛い事ってあるんじゃない?」

「う、うん。あるよ。でも、人の目とか気になるし。余計な事を話さない方がいい時もあるから」


 彼女は何かを悟った感じの顔つきを見せていたのだ。


「それは確かに。わかる気がする」


 真玄は中学時代の頃を振り返っていた。

 自分の趣味を晒してしまい、変だとかキモいとか言われたことがあったからだ。

 そういった過去を経験しており、自身の意見をハッキリと言わなくなった事で、今のような陰キャになってしまったのだろう。


 素の自分を晒しても、隠したとしても生きづらさを感じる事は学校生活において結構ある。

 人生というのは、難しいものだ。

 自分らしく生きるというのはかなりハードルが高いのだと思う。


「私も本当は学園の美少女とかじゃないし」

「え?」

「んん、なんでもないよ。今のままでいいのかなって。少し不安なところがあるの。ただそれだけのこと。竹内さんはそんな事は気にしなくてもいいからね」


 留美はぎこちない笑みを見せていた。


「言いたい事があるなら。俺、話を聞くよ。ちゃんと相談にのってあげられるかわからないけど。何か話せばすっきりするかも」


 真玄は曖昧な話し方ではあったが、彼女の事を心配しての発言だった。


「ありがと。でも、いいよ。私、竹内さんには迷惑はかけられないから」


 留美は申し訳なさそうに首を横に振っていた。


「けど……むしろ、友達なら心配だから。俺は友達として少しでも話を――」

「ごめんね、そういう事については私の心に決心がついてからでもいいかな?」

「……わかった、そういう事なら無理強いはしないよ」


 真玄は彼女の事を思い、それ以上踏み入った話をする事はしなかった。

 でも、彼女は多くの悩みを抱えてそうに見える。

 真玄も昔、色々と悩んでいたことがあったからこそ、何となく彼女の気持ちを理解できるのだ。

 ゆえに、これ以上問いかけても、彼女が本心を話してくれない事も察する事が出来ていた。




「竹内さん、ここよ」


 留美が指さすところには、ハンバーグ専門店と記された看板が設置されたファミレスがあった。

 そのハンバーグ店は専門店だけあって味に拘りを持っており、鉄板焼きをメインとした調理方法を得意としている。


 二人が、そのファミレスに入店すると、店内の奥からハンバーグの匂いが漂ってくるのだ。少々お腹が減っている今、さらに食欲が刺激される。


「いらっしゃいませ。お客様は、二名様ですね」


 二人は女性店員から話しかけられ、案内されるがままに店の奥まで向かう。

 女性店員の後ろを歩いている際、真玄は窓際の席に見知った子がいる事に気づいた。


「優芽?」

「真玄?」


 二人の声がハモる。


 双子の妹である竹内優芽たけうち/ゆめは、窓際の席に座ってジュースを飲んでいる最中であった。

 優芽はポニーテイル風のヘアスタイルで、真玄は背後からでも彼女の存在に気づいたのだ。


「こちらのお客様とはお知り合いでしょうか?」


 女性店員から問われる。


「はい、そうです」

「でしたら、こちらの席に致しましょうか?」

「はい、お願いします。咲間さんもいいよね?」

「ええ、私はどっちでもいいわ」


 真玄が留美に確認を取った後、女性店員から優芽がすでに利用していた席へ案内されたのだ。


 真玄は優芽の隣に座り、留美は向き合うような形で座る。


「では、メニュー表はそちらに立て掛けてあります。お決まりになりましたら、呼び出しボタンを押して頂ければ、ご注文を承りますので。ごゆっくりどうぞ」


 女性店員は一礼してから、三人が座っている席から立ち去って行く。


 優芽は食事をする手を止めると、メニュー表を真玄と留美の前に置いてくれるのだった。

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