本当は嫌いだったと振った彼女。俺が学園の美少女と付き合い始めてから、本当は好きだったと言ってきたが、もう遅い
譲羽唯月
第1話 俺はその日、地獄と天国を経験した
「アンタとの関係はこれで終わり」
ある日の平日の放課後。
校舎の裏庭で、
杏南は黒髪のロングヘアスタイルで美少女然としている。
彼女は運動をしている事から容姿は完璧に整っており、内面を知らなかったら流れで付き合ってしまいそうになると思う。
「でも、どうして? こんなに急に」
真玄は彼女の顔を見て話す。
突然の出来事に、声を震わせていた。
「……元から、アンタの事なんて好きじゃなかったの。それだけのこと」
「え、だったら、どうして俺と付き合おうと思ったの? そういう事なら期待させないでほしかったんだけど……」
「な、何となくよ。ただの遊びだったの! この話はもういいでしょ! 今後の生活でアンタの存在が不要になっただけ。そもそも……アンタみたいな陰キャと付き合うわけないじゃない。バカじゃん、そういう風に思うとか」
杏奈から放たれる言葉は辛辣で、ぶっきら棒な言い方をしてくるのだ。
あまりにも自分勝手すぎると思った。
「遊びって……」
衝撃的な状況に困惑し、真玄の表情は青ざめ、声を失っていた。
昨日まで、ごく普通に彼女と学校生活を送れていたのだ。けれども今、それらの楽しい時間が、火の明かりが消えるかのように一瞬で消滅した。
「私、アンタと会話する事なんてもうないし。私はそれを伝える為にアンタをここに呼んだだけ。もう帰るから」
彼女は真玄に背を向け、その場から立ち去ろうとしていた。
「で、でも、俺からまだ何も話が終わっていないんだけど」
「……私からしたらもう終わったの」
杏奈はそれ以上、多くを語ってくれる事はなかった。
真玄はその場に一人取り残された感じになる。
絶望感と悲しみに襲われ、今までの彼女との時間はなんだったのかと頭を抱え始めていたのだ。
告白された時は普通に嬉しかった事を鮮明に覚えている。
でも、こんな結末を迎える事になるなんてと、自身の非力さと不在無さを身に染みて痛感していた。
本当は好きじゃなかったのかよ……。
俺、信じてたのに。
中庭にいた真玄は孤独感に苛まれ、表情を曇らせながらも、その場を後にする。
いつまでも立ち止まってもいられない。だから今日は帰る事にしたのだ。
一先ず帰りの仕度をしようと思い、校舎の方へ向かって歩き始めるのだった。
今までの事を考えると、何事も上手く行きすぎて不自然なことが多い。
その事に早めに気づくべきだったと、今になって真玄は思うようになっていた。
真玄は今、校舎二階の廊下を歩いており、その近くの窓から中庭を見ていたのだ。
今、中庭には誰もいない。
殆どの人が部活に行ったり、帰宅している人ばかり。
中には課題を提出していない者もおり、そういった人らは教室に残って課題と向き合っているのだ。
はあぁ……。
やっぱり、美少女とは付き合わない方がいいよな。
容姿が良い人には裏があると言ったもので、アンナもその一人だったのだろう。
後悔してばかりで、真玄の悩みは絶えなかった。
真玄がさっきまで付き合っていた彼女は、学園の中で美少女と呼ばれる四天王の一人。
いわゆる学園の美少女四天王と周りからは言われ、学園の生徒会役員に匹敵するほどの権力を持っているのだ。
だからといって、生徒会役員らと対峙している存在ではない。
生徒会が時間の都合上できない業務を代わりに行ったり、風紀委員のような立ち回りをすることが多かったのだ。
四天王になるメンバーは、一年に一度行われる選挙によって決まる。
ただ、適当に行われるわけではなく、過去に実績を残した経験のある人だけが選挙に選抜されるのだ。
選抜させるだけでも凄い確率であり、非凡な人はそもそも選ばれる事はないのである。
実績などで選抜された後は、容姿や髪型、笑顔など。外見的な可愛らしさや美人であるかなどを色々な視点から判断されるのだ。
そして、その段階を経て、毎年の学園の美少女四天王が誕生する仕組みになっていた。
杏奈は、今年の五月に学園の美少女として選ばれてから性格が変わってしまった。
学園の美少女という肩書があるだけで色々な人から告白される事もあり、その結果、不都合になった真玄の事を振ったのだろう。
普通の人ならば、陰キャ寄りの真玄と、学園の美少女という称号を得てから付き合う事はしない。
別の人と付き合うに決まっている。
それは自然な形であり、真玄はため息をはきながら誰もいない教室に入った。
自身の席まで向かい、通学用のリュックの中身を確認した後で、それを背負う。
真玄は辺りを見渡す。
いつもは双子の妹である
優芽がいれば少しは心が楽だったと思うが、もう帰宅している時点で妹を頼る事も出来ないのだ。
いや……兄である俺の方がしっかりとしてないとダメなんだよな。
妹の優芽ばかりに頼ってはよくないと思う。
気分を強引に切り替えつつ、教室を後にしようとしたところで、丁度、教室前の廊下に誰かがいる事に気づいたのだ。
「えっと、竹内さんだよね」
「そ、そうだけど……」
「ねえ、今から時間ってあるかな?」
彼女は、真玄の様子を伺うように話しかけてきた。
目の前にいる彼女は
セミロング系の清楚系であり、大人しい反面、友達みたいな感じに話しかけてくるフレンドリーさを併せ持っているのだ。
「俺でいいの?」
「うん。そうだよ。あのね……簡単に言うと、私と付き合ってほしいの」
「……?」
付き合ってほしいという言葉を聞き、真玄はさっきの出来事が脳裏をよぎる。
「俺、今は誰とも付き合いたくないんだ」
普通に考えればチャンスである。
女の子の方から告白してきたからだ。
でも、真玄は断る事にした。
「どうして? 付き合っている子がいるとか、そういう理由なのかな?」
「そういうわけじゃないけど……」
「じゃあ、どうして?」
「……な、なんでもないよ」
真玄は少々俯き、彼女から離れるように廊下を歩き始める。
しかし、留美は追いかけてきたのだ。
真玄の隣を歩いていた。
「私、元から竹内さんと関わってみたいと思ってて」
「そうか」
「どうして、そんなに冷たいのかな?」
「俺……さっき、付き合っていた子に急にフラれて」
「そ、そう言う事なんだね。そういう事なら、急に話しかけてごめんね……」
留美は申し訳なさそうに言っていた。
「じゃ、じゃあ、付き合うとかじゃなくて、私と友達になってくれない? 付き合うかどうかは、竹内さんに任せるから」
「俺と友達に?」
「うん。ダメかな? 友達からならいいでしょ? 私、竹内さんの事をもっと知りたいし。付き合うってなったら、やっぱり昔の事を思い出してしまうでしょ?」
「……友達か。俺でいいなら、それでもいいけど」
廊下を歩いていた真玄は足を止め、その場に立ち止まる。
「ほんと! じゃあ、友達って事で!」
目の前にいる留美は、満面の笑みを見せてくれた。
その表情を見てしまうと、ドキッとする。
美少女には裏があるというのは確かだとは思うが、美少女からしか得る事の出来ない笑顔もあるのだ。
美少女というのは、いわゆる諸刃の剣のような存在なのだろう。
「竹内さん、今から友達としてファミレスに行かない? 友達なら放課後にファミレスに行くでしょ?」
表情豊かに、留美の方から誘ってくる。
「そ、そうだね」
真玄は頷き、彼女の意見を受け入れる事にした。
心が冷え切った時に、彼女は優しかったのだ。
そんな留美の存在に、今、心が救われた感じになっていたのは事実である。
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