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その瞬間……
「おい、渉! 俺にも見せろよ!」
俺は岳のいつものニヤけ顔を見て泣きそうになってしまった。
「どうした?なんでお前泣きそうになってんだよ?」
「ちげーよ!あくびしたからだよ」
「あー寝るまも惜しんで自家発電してたのか」
「うるせーよ。つか岳、うんこ。」
「一人で行けよ」
「いいからよ! 連れうんだよ!」
「キモいわ!」
「いつも言ってんだろ家でしてこいって」
「そんなことより。岳、俺さ美波に告るわ」
「え⁉︎ どこからその話になんの⁉︎」
「いやともかくさ、俺が美奈のこと好きだって学年中に噂流してくんね?」
「うん、なるほど。あーつまり。う、うん?」
「頼むわ!」
「おい! 渉! 意味わかんねーよ」
俺はそのままトイレを後にした。教室へ戻り美波を探す。
「あっいたいた!」
「居た居たじゃないよ!ちゃんとそう――」
久しぶりに美波の顔を見て、俺は純粋に思った。
「やっぱりだ」
「何が⁉︎」
「美波さ、やっぱり笑ってる方が可愛いぜ?」
無意識に出たその言葉に俺自身が一番恥ずかしかった。でも美波はまんざらでもなさそうに照れた顔をした。
「は、はぁ?あんた何言ってんの?」
「いや、だから笑ってる方が可愛いよって」
「そーゆーことじゃなくて!」
「え? お前日本語わかんねーの?」
「はぁ⁉︎ うざいんだけど!」
これじゃいつものパターンだな。
「冗談じゃん、あのさ今日放課後空いてる?」
「なんなのホント。うん、空いてるけどさ」
「おっけー!」
「ねーちょっと!」
放課後になり、ほとんどの生徒は帰っている。岳が俺に声をかけてきた。
「渉、帰ろうぜ」
「今日美波に告るから先帰って」
「今日かよ⁉︎ マジか。じゃぁどうなったか後で教えろよ」
「おう。あっお前さ泉屋に今日寄って帰れよ?」
「なんで?」
「だ、だって今日ガーリックフランス半額らしいよ」
「マジ⁉︎ 死ぬまで食う!」
「いや死ぬなよ。マジで!」
よし、これで岳は大丈夫だろ。
夕日が教室の窓ガラスから差し込み、風がカーテンを揺らし遊んでいる。
どこかへ行っていた美波が戻ってきた。
「ねぇ渉、それでどうしたの?」
「ちょっと付いてきて」
「うん」
俺は屋上へ向かった。結局屋上か。まさか今度は俺が告ることになるなんてな。まぁみんなを救う為だからな。
「美波。俺と付き合ってくれ」
「え?」
「これは運命なんだよ!俺とお前は結ばれる運命なんだ」
「ねぇ! もっとちゃんと言ってよ! 中二病丸出しなんだけど」
「結構マジで言ってんだけど!」
「はぁ……なんかムカつくけど。うん、いいよ」
「マジ⁉︎ っしゃー!」
美波は俺を見て笑った。俺も照れる様に釣られて笑った。
それから俺たちは時間を忘れて屋上で話した。いつぶりだろう。幼馴染だってのに気がついたら美波のこと何も知らなかった。というより、美波はもう大人の女性だった。そんな気がした。
気がつくと夕焼け空が少し暗くなりだしていた。
「チャリ使っていいよ」
「え?二人乗りすればよくない?」
「いやあぶねーだろ」
「えー時間かかるじゃん」
「いいだろ歩くのは俺なんだし」
「うーん……」
美波の家まではまだちょっとあるところで、突然美波が自転車から降りた。
下を向いて黙り込んでいる。
俺は自転所を挟んで美波のそばへ近づいて聞いた。
「どうした?」
すると、美波は黙ったまま、こちらを向き直し目を瞑った。
(え? マジ? 付き合った初日に⁉︎)
俺は彼女の唇に吸い寄せられた。目を瞑ろうとしたその瞬間。
耳が割れる様な金属の
クラクションが鳴り響く。
タイヤが悲鳴を上げてトラックが俺たちに突っ込んできた。
俺は反射的に右手で美波を突き飛ばした。
最後に覚えているのは美波の叫び声だった。
視界が真っ白になったと思って、瞬きをした瞬間。
あっ。美波。目の前に彼女が現れ、涙目になって今にも泣きそうな顔で俺を見つめている。
あれ? 俺死んだのか? なんだこの感触。
俺は右手で、美波の左胸を鷲掴みにしていた。俺は脊髄反射で言った。
「ブラジャーNo8。スカイブルー。」
その瞬間、左頬から何か衝撃を感じた。コンマ遅れて熱も感じる。あっ、ビンタだ。
「いてっ! 何すんだよ!」
美波が胸を抑えながら涙ながらに言った。
「それはこっちのセリフよ! 変態!」
「ごめんって。そんな泣く事じゃないだろ」
「そーゆー事じゃないし! サイッテー!」
美波は黙ったまま行ってしまった。その手にはカメラが握られていた。
「おい、カメラ返せよ!」
すると岳が言った。
「残念、ついに盗撮バレたな」
「うわーマジかー」
俺はショックで机に椅子にだらんと座り込んだ。
俺の盗撮コレクションが没収されてしまうなんて。
俺が
「にしても渉! お前やる時はやるんだな! どんな感触だった?」
「え?」
「だから我らが美波の
「いやつかさ、俺どーなってた?」
「え? 覚えてねーの? 美波がお前に何か言おうとして近づいて、そしたらお前が大声で美波の名前叫んだと思ったら、いきなり胸を掴んでたよ」
岳は笑いながら説明した。
「マジかよ」
「発狂してたな。ありゃテクノブレイクだな」
「いや、笑えねぇ」
と笑いながら俺は言った。
「てか早く、写真見せてくれよ」
「あー。つか全部やるよこれ」
「マジ⁉︎ お前はいいのかよ?」
「あぁ。俺はネガフィルムだけあれば――
歩
歩
「歩!」
「あっごめんごめん」
「お蕎麦、伸びちゃうよ?」
美奈が言った。
学は不思議そうに歩へ質問をした。
「お前、何書いてるの?」
「まぁ小説というか趣味でね」
「あぁ、昔も書いてたよな?」
「まぁな」
「なんでいきなりそんなの書いて」「はい、お待たせしましたー!」
店員が会話を遮って料理を置いた。
再び美奈が二人に向かって言った。
「休憩時間終わっちゃうから早く食べなさいよ!」
「「はいはい」」
学が笑いながら、二人に言った。
「お前ら夫婦みたいだな」
「いやなんならそこらへんの夫婦より付き合い長いわ」
歩は箸でそばを挟んだまま言った。
「ほんと嫌になっちゃう、もっとイケメンの幼馴染がよかったなー」
「俺はもっとエロい幼馴染がよかったわ」
「あんた、そんな事言ってるから彼女できないのよ?」
「お前には言われたくないね!」
「毎度アリー!」
歩はタバコに火をつけ、少し離れたところで美奈はスマートフォンを触りだす。学は両手を空に伸ばして午前中の疲れをほぐした。
歩がタバコを吸い終えると三人は学の車に乗り込んだ。
学が運転をしながら数回バックミラーを覗き込み話し出した。
「まさか二人とも学校の先生になるとはな」
「俺が一番驚いてるよ」
「私も先生やるとは思わなかったわよ」
「いいよなお前は自由で」
歩がバックミラーに映る学の目を見ながら言った。
「カメラ屋もキャンプ場も結構忙しいんだぜ?」
「嘘つけよ、昼休みが三時間って暇でしかねーだろ!」
「あっ!止めて!」
突然、美奈が言った。
学はハザードをつけて路肩に車を止める。
美奈は慌ててシートベルトを外し車から降りた。
「どうした?」
歩も車から降りて何事かと状況を確認して言った。
「ほらあれ。うちの生徒たち」
美奈は反対車線まで渡ろうとしていた。反対車線の遊歩道では男女四人組の生徒が二人乗りをして大声で笑っていたのだ。
美奈は道路を渡ろうとするが、こんな時に限って車が後を立たない。
「おい、美奈いいんじゃないか?」
「いや危ないじゃない。あんたも先生でしょ」
「俺たちも中学の時やってたじゃないか」
「今は立場が違うでしょ!」
歩は美奈の肩に手をかけて言った。
「あんな瞬間がさ、きっと青春っていうんじゃないか?」
美奈は振り返る。
「え?」
「お前恥ずかしい事言うなー」
学が笑いながら言った。
「うっせーな」
すると突然、美奈は諦めた様子で車のそばへ戻った。
「まぁ今回は特別に見逃してあげますか」
「あら、珍しい」
歩はいじる様に言った。
「うっさいわねー」
学はハザードを切り再び走り出した。
「さっき聞きそびれたけど、なんで小説なんて書いてたんだよ」
学がバックミラーから歩を見て言った。
「そうだな。彼らを見てると思い出すんだよ」
ウィンドウから外の景色を眺めながら歩は言った。美奈がその声に反応して渉を見る。
「何を?」
「まぁ色々とな」
「何それ」
美奈は呆れた顔で言った。
学がバックミラーから再び二人の様子を伺う。
「歩、シートベルト」
「あーすまん」
「現実のみが、紛れも無い観測結果である」
歩はウィンドウに反射する自分に言った。
シートベルトを刺した瞬間、美奈に言われた。
「あんた、まだ厨二病終わってないんだ」
パトローネのゆらぎ。 髙倉 洋 @kou_takara
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