デーモンの特性2

 同時刻に同じデーモンを見たのか。しかし其れは在り得ない。

 今まで形質の同じデーモンは発見されたことがない。

 似たデーモンには遭遇したことがあるが全く同じ個体など何処を探してもいない筈だ。

 考えられるとすれば何らかの特性を持っているか。つまりそいつは第二種級以上のデーモンということだ。


 「デーモンを見たの?君たちは何ともない?」


 うんとそれぞれ無事を肯定する。


 「ぼくはどうがとったんだ!」


 えっへんと云わんばかりに胸を張る。

 動画に収めただと?下手すれば第二種級以上のデーモンを?


 「何してるの!直ぐ逃げないと!今大丈夫でも次大丈夫かは分からないんだよ!」


 思わず語気を強めてしまった。

 しまったと思った時にはもう遅い。

 二人ともぽろぽろ泣き出してしまった。


 「ごめんね。でも危ないからもうしたらダメだよ。私は放逐官だからよかったら詳しく聞かせてくれる?」

 「「ほーちくかん」」


 二人して放逐官の言葉に反応している。

 仲は良いのかも知れない。


 「えっとね。まえにデーモンをみつけたからどうがとったの。みんなにジマンしようとおもって」

 「どうがみたらおなじじかんにわたしもおなじデーモンみたの」

 「ぴったり同じ時間だった?」

 「ううん。でもほとんどいっしょ」


 殆ど、か。

 もし陀付ならば移動速度が速いから二人が近い距離に居ればほぼ同じ時刻に同じデーモンを見ることができる。

 別のデーモンが出現した可能性も在るが。

 どちらにせよその動画とやらを見なければ分からないだろう。

 結果的に云うならばこの動画は大きな効果を齎(もたら)した。


 小さな端末を三人で覗く。

 灰色の建物群のなかで小さな白い物体が現れては消える。

 遠くて細かい所迄は見えないがこの形質は恐らく私たちが追いかけているデーモン、陀付。

 其れがあちこちを移動している。一瞬間に。


 「しゅんかんいどうしてるんだよ。すごいでしょ」


 瞳を輝かせて呟くひろくん。

 瞬間移動。テレポート。

 明らかに特性持ち。

 この特性なら離れた場所でもほぼ同時刻にデーモンを見れる。

 中々見つからない訳だ。

 第四種級だと思っていたデーモンが第二種級以上だったのだから。

 ましてテレポートの特性持ち。


 改めて確認する必要は在るがこれは大きな発見だろう。

 作戦を立て直す必要が在る。

 急いで共有だ。


 「有難う二人とも。お陰で放逐が大きく進んだよ」


 めいめいに喜ぶ二人に大事な事を伝える。


 「ひろくん。男の子は女の子を泣かせるんじゃなくて守ってあげるんだよ。いいね?」


 ひろくんは頷きひーちゃんに頭を下げた。


 「ごめんなさい」

 「いいよ」


 もじもじしながら許したひーちゃんの頭を撫でる。

 手から純粋な心が伝わってくる気がした。


 「ひーちゃん。守られるだけじゃだめだよ。苦しい時は支えてあげて。間違ってたら怒ってあげてね」


 こくりと頷く。


 「よし」


 にかっと笑って立ち上がる。


 「二人とも有難う。気を付けて帰るんだよ。それじゃあね」


 手を振って別れる。

 子供たちは大きく手を振ってくれた。

 空いた手は相手の手を握っていた。

 すぐさま伊達寺に連絡を取る。


 「伊達寺。分かったことが幾つかある。一度本部にもどっ『先輩!』


 言葉が遮られた。

 端末が何やら騒々しい。


 「今デーモンと戦ってます。また連絡します!」


 ぶつっ。

 端末が無音を発する。

 込み上げる様々な感情を溜息と共に吐き出す。


 「ったく!」


 田擦は駆けた。

 遥かな太陽が通りすがりの雲に遮られる。

 滲むように辺りの世界が少し暗くなった。

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