デーモンの特性

 音声を切り助走をつける。

 素早く駆け出し屋上の縁を蹴る。

 全身が浮遊感に包まれ自然と高揚する。

 死の狭間を飛び越して隣のビルに飛び移る。

 屋上にしっかり手を着いて転がる。

 硬い衝撃を受け流しゆっくり立つ。


 先刻の屋上とは色が少し違うなと思った。

 まるでばねの様に次々と建物に飛び移り探知機を設置していく。

 仕事中ではあるが気分が高揚した。

 颯爽と飛び回るこの時間。

 まるで違う生き物に成れたような自由に成れたような感覚を味わえる。

 風に成ったような。風に去ったような。

 吹き走る最中気になるものを見つけ静止した。


 纏った風が解けていく。

 見ると保育園児くらいの男の子と女の子が喧嘩していた。

 男の子が何やら怒っており女の子の目がうるうるしている。


 「————」


 一瞬間だけ考えた。

 仕事中だが見過ごすわけにもいくまい。

 子供の喧嘩を止めることを選択した。

 素早く飛び降り建物の凹凸をうまく利用し着地。

 子供たちに近寄って声を掛ける。


 「こらこらどうしたの?きみたち」


 近付いて視線の高さを合わせ優しく語り掛ける。

 女の子は潤んだ目を擦りながら此方を見ている。

 男の子はむっとした表情で何かを握り締めていた。


 「ひーちゃんがうそつくのがわるいんだ」


 小さな手を女の子の方へ向ける。

 女の子はひーちゃんと呼ばれているらしかった。


 「わたしうそついてないよ。ひろくん」


 目を赤くした女の子は小さな手で服の裾を握っている。

 ひろくんと呼ばれた男の子は納得いかないようでまだまだむっとしている。

 ひーちゃんの頭を撫でながら田擦は促した。


 「まあまあ。何があったか話してくれる?」


 ひろくんは口を尖らせながら持っていた端末をむんずと掲げる。


 「ひーちゃんがうそつくのがわるいんだ。これにしょーこあるもん」


 ?今一要領を得ない。

 ひーちゃんに語り掛けてみる。


 「なにがあったか教えてくれる?」

 「デーモンがいたの。それをひろくんにいったらうそだって。おなじじかんにおなじデーモンみたって」

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