仄
「うまっ」
「美味いな」
外の定食屋で昼食を摂る。
腹ごしらえと会議の情報共有を兼ねている。
伊達寺にとっては情報共有はついでみたいなものだろうが。
唐揚げ定食を頬張りながら会議の資料を渡す。
資料を軽く叩きちゃんと見ろよというメッセージを送った。
サクサクの唐揚げは中はジューシーで噛む度に旨味が溢れる。
この濃い味が堪らないのだ。
相棒は資料を眺めながら焼き魚定食に舌鼓を打っている。
肉厚な鯖の塩焼きを口に含み満足そうに頷いている。
ぼさぼさの茶髪が軽く揺れた。
幸せの肉塊を嚥下して資料を指す。
「私達に出来ることはとにかく現場に出ることだ。陀付の出没エリアはある程度絞れてきてる。片っ端から捜索するぞ」
相棒と視線を交差させる。
その煌めく瞳を見るにこっちの熱意が届いている様だ。
安心して唐揚げを摘まみ口元へ運ぶ。
伊達寺はデーモンの事になると頼りになるからな。
「この魚めちゃうまです。ん?何ですかこの紙」
どうやら何も届いていなかった様だ。
唖然として唐揚げを落っことしてしまった。
皿に落っこちた旨味の凝縮体は躓(つまづ)いた様に転がった。
+++
「デーモンを探すつったって具体的に如何(どう)するんですか?」
腹ごしらえを終えた二人は街路を歩いていた。
この近くが目標のデーモン、陀付の推定生息範囲である。
範囲が絞れてきているとは云え、人二人で探すには余りにも広い。
何か方法を考える必要が在った。
「其れについては考えがある。取り敢えず今日は下見だな。もし陀付が見つかれが儲けものだ」
「なるほどなるほどおっと失礼」
人が多すぎて頻繁にぶつかってしまう。
歩くだけでも気が滅入りそうだ。
「人通りが多いな。伊達寺、気を付けて歩けよ」
「はい!」
どっ。
衝撃が肩を刺激した。
「う」
伊達寺は歩行者の男性と派手にぶつかってしまった。
瘦せ型の男性はそのまま地面に倒れてしまう。
「あ~~すみません」
倒れた男性に歩み寄る。
「ううう」
特に怪我はしていないようだが呻いたまま動かない。
「大丈夫ですか?」
先輩に指示を仰ごうと周囲を見渡す。
すると倒れ込んだ男性のカバンからじゃらじゃらと何かが飛び出しているのに気付いた。
様々な形の鋏だった。
「凄い量だな」
全て形の異なる鋏。十数個くらいあるのではないだろうか。
心配して何人かの人間が寄って来る。
その中の一人が鋏を拾おうとした。
「大丈夫です!」
急な大声に周りの動きが止まった。
「ひっ」と云う悲鳴が微かに聞こえた。
「あ……いや。大丈夫です」
男性は鋏を搔き集めてよろめきながら立ち上がった。
心配する声を払いのけながらゆらゆら歩き去って行った。
「えー」
伊達寺が驚きを漏らす。
何とも生ぬるい空気だけが残った。
結局何だったのだろう。まあそういうこともあるか。
人々は暫く疑問に浸っていたが何事も無かったかのように歩き出した。
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