地場念正について
「お前はほんっとによお。前にも云ったろー?失礼なことはするなって」
「はい。なので敬語は使いましたよ」
べしっ。
「ちょっと。何で怒るんですか」
余程腹が減っているのか叩かれた所ではなく腹を摩っている。
大きな溜息をして腰に手を当てた。
「今日はラーメンなしだ」
「ええーなんでですか」
「なんでじゃねえよ。揉短班長は作戦の中枢を担う方だ。仲間であり上司だぞ。失礼なことはするな」
「えーー。でも先輩困ってたじゃないですか」
っ。
心臓が跳ねた。
伊達寺は私が困っているのを見かねて伊達寺なりの方法で助けてくれたらしい。
「そ、それでも上司に失礼なことはするな。分かったな」
動揺しつつもきっちり𠮟りつける。
田擦は出来る女性なのだ。
「はーい。反省します。これからはしません」
腑抜けた顔でぺしっと自身の頭を叩く伊達寺。
いつもの田擦なら何か突っ込んで来る筈だが何も反応が無い。
訝しんで田擦の表情を確認する。
「どうしました?先輩」
田擦は俯いたまま目だけを上げた。
「い、いや。助けてくれたことには感謝する。ありがと」
感謝はきっちり伝えておかねばならない。
田擦は真面目な女性なのだ。
「わお」
伊達寺は大袈裟に手を広げた。
「な、なんだその反応は!やめろ!にやにやするなあ!」
「別ににやにやしてませんよお。地顔です。うわあ先輩顔弄るタイプの人間だったんだ」
「やかましい!あーあ。折角一緒にラーメン行こうと思ったのにー。伊達寺がそんな反応するからやっぱりやめにしよー」
「うっわ。ずるいですねー。後出しでそういうこと云って」
「なんだと?先に意地悪してきたのはそっちだぞ」
「意地悪じゃないですよw。いいんだそういうこと云って」
「なんだよ云いたいことがあるなら云ってみろ」
わちゃわちゃ云い合いながら移動する。
普段周りの印象を気にする田擦でも今回だけは意識の外に在る様だった。
じゃれ合っている内に二人は魔的対策機関の出口まで来た。
「仕方ない。ここはじゃんけんで決めるか」
「そうですね。しゃーなしノッてあげますよ」
雰囲気が変わった。
まるで侍同士の立ち合いだ。
一瞬で勝負が決することを二人は確信していた。
拳を構える。
この一手で昼食が拉麺か否かが決まる。
——————————————————————————————————。
「「じゃんけん」」
ごっ。
伊達寺の振りかぶった手が誰かの頬を打ち据えた。
「ぶっ」
頬を打たれた男は少しだけよろめいた。
田擦の背筋が凍る。
「すみません!」
即刻頭を下げる。
こんな戯れで誰かを傷つけてしまうなんて。
自責の念が頭を支配する。
「お前も謝れ」
伊達寺の頭を鷲掴んでさらに深く頭を下げた。
一瞬の沈黙が永遠に感じる。
不味い。私は何をしているんだ。浅はかだった。もっと自分を律するべきなのに私は——。
「伊達寺?」
覚えのない声が覚えのある名を呼ぶ。
恐るおそる顔を上げると男は伊達寺の方を向いていた。
「あ。地場(ちば)」
伊達寺が顔だけを上げ乍らそう云った。
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