放逐官
「えー第四種級デーモン陀付(だぶ)の捜査の進捗状況を確認したいと思います。まず我々三倉(さくら)班ですが被害者の方々に聞き込みを行いました。デーモンの特徴は紙のように薄い身体。形質を分かりやすく例えるなら……そうだな……」
小さな会議室で四人の大人が卓を囲んでいる。
伊達寺の分の椅子は無かったので奴は立っている。
姿勢が物凄く悪かった。
「やっこさんみたいっすね。折り紙の」
口を挿んだのはオレンジ色の髪を指で遊んでいる若い男。
手入れの行き届いた毛先を指に纏わせながら手元の資料を見て云った。
粗い喋り方からは自信が伺える。
「えーそうだな。揉短(もみじ)班長が云うようにまるでやっこさんの様だ。周辺のカメラの映像と一致する。我々の管轄エリアに居るうちに放逐したいと思う。以上」
かっちりした七三分けの男は椅子に座った。
黒髪が電灯の光を跳ね返している。
座った姿勢が美しかった。
「俺の番だね。あーしまった。ちょっと待ってね。老眼鏡が無いとどうも文字が見辛くて」
眉間にしわを寄せながら老眼鏡をかける中老の男。
白髪の混じった髪は胡麻塩みたいだ。
「ええとね。おお見やすい。ヰ丁(いちょう)班は周辺の調査とキャメラの映像を使って奴さんの出現エリアを絞り込んだよ」
資料をひらひらさせて示した。
「ヰ丁はんちょお。やっこさんダジャレやめてくださいよお。ただでさえヰ丁班長っていうのもダジャレっぽいんすから」
ヘラヘラと意味の分からない事を並べる揉短。
「揉短班はデータバンクで被害者の共通点とかを調べましたー。被害者に共通点は見られず聞き込みの内容からもデーモンの知能は高くないすね。賢い奴は強い人間狙うこと多いので。資料見た感じ被害者はいずれも重症を負っていますが亡くなってはいない。弱いっちゃ弱いんですけど、カメラに映った時間とか住民の言葉から移動速度が尋常じゃないみたいです。それにこんなに薄っぺらい身体なんで相当見つかり辛いと思います。なんで無闇に探すより作戦立てた方が効率良いと思います。班合同なんで人数活かした作戦を立てて次回の会議で共有しましょう。長丁場になるかもなんでお菓子とか買っちゃいます?なんちゃって」
にやつきながら舌を出す。
軽薄な態度ではあるが話の内容は重厚だ。
先を読み作戦立案を提案した。
彼のお陰でデーモンに一歩近付いた気がする。
クスリともしない三倉は此方に視線を向けた。
釣られてヰ丁も目を向ける。
立ち上がって視線を交わしながら田擦は発言した。
「我々磊磊落(らいらいらく)班は磊磊落班長が休暇中。班員二人で出現エリアの巡回を行っています。特に進捗はありません。以上です」
声が小さくなるのを何とか防いだ。だが周りの視線が痛い。
「はあかしこまりました。徐々にエリアは絞れていますのでデーモン発見は近いでしょう。各班いつでも放逐できるよう準備しておきましょう」
落胆の表情を隠しもせず三倉は述べた。
分かっている。慣れている。そういう視線は何度も浴びてきた。
呆れの様な落胆の様な諦めの様な嫌悪の様な。
自分達の班は班長のお陰で成り立っている。
班長がいない今怠け者の相棒と不器用な自分では大したことは成せない。
班長が休暇に入ってから直ぐに件のデーモン、陀付は現れた。
陀付と最初に遭遇したのは田擦だ。
老人が襲われているのを助けたのだがデーモンには逃げられた。
その後被害が拡大したので周辺のエリアを管轄している三倉班、揉短班、ヰ丁班と合同で捜査することになった。
デーモン自体の戦闘能力は高くないが逃げ足が速く放逐には手間取っている。
一刻も早く見つけ出さねばならない。
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