第4曲 「氷の女王と一人息子」

俺は高速移動する悪魔を倒し、新たな能力も身につけ、メキメキとその力を上げていった。その力はこの塔でも存分に発揮し、続く二階層、三階層と順調に踏破していった。

「ふぅ、、ここまでは今までの曲を駆使して何とか行けたな、、」

疲れも溜まっているが今の俺には回復能力がある

『天使の宴』

緑色の光とともに体が癒えていく。

「我ながら強すぎるな、この力は、、」

いつのまにか光る鍵盤を使いこなしている自分に自分でツッコミを入れたくなってくる。

「そろそろいくか…」

いよいよ四階層目である。外から確認したところ、この塔は全部で五階層、いよいよ終盤になってきている。ここまでさまざまな敵と戦ったがその一つ一つが貴重な経験となっているだろう。この塔を登り切ったのち、何が待っているのかはわからないが、努力が身を結ぶ形になれば嬉しい。

「ん…?よく見たらここら辺の階層は内装ができているな、、」

思えばそうである、初めは質素で素朴な印象すら受けたこの塔であるが、三階層突破後から、やけに内装が豪華になってきている、それはこの先の敵の強さを象徴しているのか、そんなことを思っていたら冷たい空気が肌を伝う。

「うっ、、何だここは、」

悪寒だ、この世界に来てからというもの、いつも強大な敵の前では嫌な予感がしていた。今回も当然身構えてしまう。冷たい空気の音とともに、四階層目に到達する、、

「、、、」

奥に何かあるのが見える、人影だ。

「人、、?」

またも淡い期待を寄せる、仮に人間だったとしてもこの塔の上階にいる以上、敵、それも強敵であることには違いないだろう。

「ん、、?んん、、?んんんんんん???」

なんと、この世界に来て初めての言葉だ、言葉というにはまだ早いがこの魔物が発したものは明らかに原画のような印象を受けた。

「意思疎通が取れる、、のか?」

「お前は、、ニンゲン、、!!我が息子、イヴを殺した、、!ニンゲンだな!!?」

やはり喋れる、そんな感動も束の間、どうやら穏やかではない様子だ。

「待て!!息子とは誰のことだ!そもそもここは何なんだ!」

「息子とはこの塔の一階を守りし悪魔、、ここは我が夫が作りし完全なる塔、我が子を殺した罪は重いぞっ!!!」

何ということだ、息子とは俺の片腕を飛ばしたあの小悪魔であった。さらにこの塔の主人の存在、さらには意思疎通のできる魔物、あらゆる情報が脳を駆け巡り混乱する。

「落ち着け!!あの悪魔、、イヴ、と言うのだな、、?イヴを殺したのはすまない、、しかし不可抗力だったのだ!!」

相手の王女のような佇まいを前に、思わずこちらの口調も変わってしまう、人生においてこんな会話をするとは思ってもいなかった。

「黙れ黙れ黙れ!!この塔の門番は死んではならぬのだ!!貴様にはその身を持って償ってもらう…!!!」

どうやら戦闘は避けては通れぬようだ、目の前に光の鍵盤が出現する。ピタッと一瞬相手の動きが止まるのが分かったが、すぐに動き出した。

「その光で息子を、、イヴを、、、」

「待て!落ち着け!!」

一言はかけてみる、せっかく言葉の通じる相手だ。

「息子の敵!!!」

やはり来た、一瞬にして塔が冷たい空気に染まる。

「な、なんだ!?」

ピキピキという音とともに壁や床が凍ってゆく、ハッと相手、氷の女王とでも呼ぼう、の方を見ると女王は大きな氷の鎌のような武器を持っていた。

「うぉぉぉぉ!!」

凄まじい気迫とともに息子に勝らずとも劣らない猛スピードでこちらに突っ込んでくる。

「あぶねっ!」

すんでのところで躱すが、氷の床をまるでスケートのように利用し、すぐさま次の攻撃が来る、しかも先ほどより加速している。

「待てっ!あぶねぇ!おっと!!」

何とか躱すがやはり相手はどんどんと加速していく、このままでは武が悪い。

「幻想曲!『情熱』」

氷には熱だ、きっとこの攻撃は相性抜群であろう。凄まじい熱気とともに炎が噴き出る。

「氷花、『椿』」

しかし何ということだ、発射した炎を丸々凍らせてしまった。

「はぁ!?炎を凍らす!?」

現代科学では到底あり得ない状況に思わず客が止まる、その一瞬の隙を女王は見逃さなかった。

「氷花、『白薔薇』」

花のように細かく、時に粗い氷の礫が俺の胸に当たる。

「ぐぅあああ!!」

思わず倒れてしまう、喰らったダメージが大きい、すぐさま回復しようとするが、敵はもう次の攻撃に移ろうとしている。

「氷花、『枝垂れ桜』」

凄まじい氷の乱射が始まる。

「幻想曲、『斬影』」

何とかこちらも斬撃で応戦するが捌くのがやっとだ。捌ききれない氷の柱が自らの体を貫くのも時間の問題かのように思えた、しかし次の瞬間、大きな音とともに、上階の一部が崩れ、落ちてきた、女王は俺を仕留めようと夢中になるあまり、周りに気を回せていなかった、氷の礫が周りの壁にも当たり、徐々に塔を破壊していたのだ、塔の残骸が壁になり、若干の時間が生まれた、俺はすかさず曲を変える、「幻想曲、『天使の宴』」胸が癒える、体力もじんわりと回復する。

「邪魔だッ!!!瓦礫めッ!!」

女王が瓦礫を破壊しているのを確認し俺はゆっくりと後方に回った。次の瞬間、演奏を始める。

「幻想曲、『斬影』」

斬撃を飛ばす、夢中になって飛ばす、先ほどまでと構図が入れ替わって猛攻を続ける。

「ぐぅ、、くゔ、、!」

女王も捌くのがやっとという感じだ。俺は手を休めず演奏を続けた。

「う、うおおぉぉぉ!!!」

冷気で手が痛かったがそんなことも言ってられない。やがて女王の抵抗が落ち着き、その体を斬撃が貫いた。

「キャアアアアアア!!!」

甲高い悲鳴とともに体がボロボロと崩れていく。

「待て!!」

本日幾度目かの静止だ。

「最後に教えてくれ!この世界は一体何なんだ、!」

必死に叫んだが、女王の体はやがて消えてしまった。倒してしまってからこんなことを言うのは狂気を感じさせるかもしれないが、女王の猛攻は、愛と哀しみを感じる冷たい攻撃であった。

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クリスタルピアノ @Tarnu

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