第3曲 「未知なる塔」
当てもなく歩くのもいいが、やはり目標物があったほうが進みやすい。そう考えた俺は遠くに見えた謎の塔を目指し、歩みを進めた。
「ようやく見つけた、人工物だ…!」
思えば人工的に作られたであろうものを見るのはこの塔が初めてだった。
「いや、人工物といっても、何か知能の高い化け物が作った可能性もあるのか…」
一抹の不安を感じつつ、塔を目指し歩いていく。
道中化け物に遭遇したが、ここまでの経験を活かし、演奏を駆使し、なんとか突破していた。明らかに強くなっている自分に嬉しいようななにか複雑な感情を抱いていた。
「ふぅ、ある程度の魔物は処理できるようになったな…この状況に慣れるってのはおかしな話だが、実際慣れてきてるのもあるしな」
“魔物”というのは例の化け物達だ、いつまでも化け物と呼んでいられないので勝手に名付けた。まあ実際お似合いだろうとそんなことを考えていたら例の塔に到着した。化け物達が“魔物”ならばこの塔は差し詰め、“魔塔”とでも呼ぼうか、そんな異様な雰囲気が塔の周囲には漂っていた。
「ようやく着いたな、、うっ、何か嫌な空気だ。」
やはり肌でも感じ取れるその重い空気が、ここまでの疲労と共に足を止める。
しかしここでゆっくり休憩、なんて訳にも行かない気がして、その足を塔に踏み入れる、中は質素で、思ったより中身は無いという印象を受けた。
「せっかくここまで来たってのに…まあまだ上があるし、登っていくか!」
そんなことを言っていたのも束の間、謎の物体が高速で頬を掠めた。
「痛ッ!」
掠めただけだったが、肌が切れ、血が出てきた。
「なんだっ!!?」
周囲を警戒する。嫌な笑い声と共に攻撃の正体が闇からその姿を現した。
「子供、?」
現れたのは現実で言う小中学生程度の体格をした、悪魔のような風貌の魔物だった。
「ケヒヒッ…」
「くそ、、こいつも会話できないクチか、」
やはり意思疎通ができる魔物はいないのだろうか。そんな淡い期待を砕かれつつ、次の攻撃が始まった。いや、始まったというより、終わったと言ったほうが適切であろう。奴の恐ろしいスピードに俺は認識すらできず、気づいた時には、右腕が宙に舞っていた。
「ぐぁぁぅ!!」
とてつもない痛みに声をあげる。
「腕っ、腕っ!?飛んだっ!まずい!」
その瞬間、目の前に光の鍵盤が現れる。しかし片腕である。
「今までの幻想曲たちは、片腕で弾けるようなもんじゃねぇ!まずいぞ…」
そんな俺の絶望感を感じ取ったのか小悪魔は不敵な笑みを浮かべる。
「ケヒッ!ケヒヒッ!!」
「くそ、やつは戦闘いや、俺を嬲ることを楽しんでいやがる、、!」
今まで様々な敵に遭遇したがこのタイプはなかなかいなかった。強いてあげるならあの人型の影であろう。何はともあれ、幻想曲が弾けないというのはかなり絶望的な状況である。
「作曲、か?これしかないのか!?片手で弾ける曲を今作り出すしかないのか、、?」
そんなことを考えていたら今にも小悪魔は飛んできそうな勢いである。またあの高速移動攻撃を喰らえば、奴の性格上絶命することはなくとも、もう一本の腕は失うだろう。
「作曲、、やるしかない!!」
急いで作業に入る。目の前に光の楽譜や音符が現れる。一つ一つ組み込んでいき、作曲していく。
「ケヒッ、?」
小悪魔が何かを感じ取ったのか攻撃体制に入る。しかしながらもう遅かった。
「作曲完了。隻腕曲『天使の宴』」
ゆっくりと弾きだす。この状況に戸惑った小悪魔は都合よく停止している。『天使の宴』はこれまでの曲と違い、自分の作り出した範囲を癒す能力。片腕で落ち着いて弾き続ける。すると失った片腕が段々とその姿を現してきた。我ながら恐ろしい能力だ。
「うぉぉ、、」
じんわりと心地のいい暖かさが覆う。
「ケケッ!?ケヒヒッ!!!」
面食らった様子の小悪魔だが、正気を取り戻し攻撃を始めた。しかし俺の腕は、もう元に戻っていた。
「幻想曲『情熱』」
曲調が一気に変わり、周囲を燃やす青白い業火が現れる。
「ゲヒッ!!」
炎は当たらずとも、その熱を感じ取ったのか小悪魔は怯む。
「うおおぉ!!」
炎を溜め込み、青白い火柱を発射する。
「ケケッ!」
小悪魔はそのスピードでそれを避ける。
「まだだっ!!」
轟々と音を立てながら火の柱がその形を変え、円状になり小悪魔を襲う。
「ギャヒッ!!!」
まともに当たれば勝利、という攻撃だったが、すんでのところで避けられる。
「うおおおおお!!!!」
まさに乱打、炎を撃ち続ける。
「ギィシャャァァァァ!!」
もはや様々な形に姿を変えていた炎が、小悪魔の胸部に当たる。まさに断末魔といえる凄まじい叫び声と共に、その体がボロボロと崩れていった。
「勝った…ようやく勝ったぞ…」
疲労で勝利を叫ぼうにも叫べない。
まだ上階が続くと思うと体がドッと重くなるのを感じた。
『天使の宴』
体を癒し、まだ見ぬ上階に足を運んだ。
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