第2曲 「疲弊の中の連戦」
「目が覚めたら元通り、なんてことはないか…」
ドラゴンとの戦いから一夜明け、この世界に来て初めての朝を迎えていた。変化したのは環境だけではない、気持ちもだ。
「最初は突然のことすぎて困惑してたけど、帰っても別にいい生活は待ってないしな、、ここでしばらく過ごすのもいいかもしれないな。」
あの両親と共にこれ以上生活するのは堪える為、この世界に対し、前向きに考えるようになってきたのだ。しかし思い残しがないわけではない、そう友人の存在だ。
「琴谷、笛口、2人とも心配させたまま突然消えてきちゃったからな…あいつらに何にも言えないのは少し心残り、かな。」
琴谷も笛口も高校からできた友達だがまるで古くからの仲であるかのように関わってきたし、笛口には恋愛感情さえ抱きそうになったこともある、日本に帰りたい理由といえばこの2人ぐらいであった。
「まあ、とりあえずここで生きていくしかないしな、前に進もう。」
皮肉なことに、この世界に出会い、戦闘をしたことで、自分に自信が持てるようになってしまった。いいことなのだが、なんだか癪な気分だった。
「さて、進むといってもどこに行けばいいのか、人はいるのかな、?」
改めて辺りを見渡す。
「………」
何かいる様子はない、当然人もだ。見えるのは自然のみ、遠くに山や川も見えるが、人里らしきものは見えない。
「しばらくは人間には会えなさそうだな。
しかし最初の頃も思ったけど、すごい自然だよな、現代とはまったく違う、恐ろしいドラゴンはいるけど、自然だけはいいところだ。」
そんな呑気なことを言っていると、目の前に巨大なゴリラが2頭現れた。
「ゴルゥゥ…」 「ゴガァァ!」
その体には鎧を纏っており、腰には大剣が一本刺してある、武装した巨大なゴリラだ。思わず面食らってしまった、昨日のドラゴンから、もう恐ろしいものにしか出会えていない。
「な、なんだよこいつらは…昨日もそうだけど、まず勝てる気がしないんだよな…」
ゴリラたちはゆっくりと動いており、いつでも攻撃してきそうな雰囲気を持っている、恐ろしい顔で睨んでくるため、腰を抜かしそうになるが、なんとか踏ん張る。
「くそ、戦うしかないか!昨日の鍵盤出てこい!」
出てこない、しーんとし、変わらずゴリラはこちらの様子を伺っている。
「な、なんで出てこないんだ!?まずいぞ…このままじゃ、あのゴリラたちに殺される…?」
こちらが何もできないと理解したのか、ゴリラ2体は大剣を引き抜き、襲いかかってきた。
「ゴガァァァァ!!!」
「ゴギャァァァ!!」
「まずいまずいまずい、、とりあえず逃げる!!」
すると目の前にあの光の鍵盤が現れる。襲われることで発動するのか、それとも使用者の気持ち次第なのか厄介な能力である。
「出た!こいつでもう一度あの炎を!」
前日の青白い炎を想像し、ゆっくりと弾き始める、ゴリラはもう迫っていたが、幸いまだ猶予は残っていた、
『ピアノ幻想曲、情熱』
これは昨日考えた、この曲と技?につけた曲名だ。血が熱くなる感覚から名付けた、我ながらこんな小学生のようなセンスが体に残っていたとは、情けない。
「ゴガッ!!」 「ゴグォ!!」
轟音と共に青白い炎が勢いよく吹いた。
しかし驚くべきことに、ゴリラ2体の装着しているアーマーによって炎は防御されてしまった。
「何!?そんな、この炎が効かないなんて!!」
炎によってゴリラの動きは一時的に止めたものの、反対に攻撃できないのではしょうがない。どうしようかと頭を悩ます。
「情熱が効かない、?そんなの聞いて無さすぎる、、」
当然ゴリラもそう長々と待っているわけもなく、次の攻撃体制に入る、勢いよく突進攻撃を繰り出してきた。
「うぐっ!」 「はっ!!」
なんとか避けつつ、対抗策を練る。
「情熱が効かないなら、、新しい技を作るしかない…?でもどうやれば、、」
ふと情熱の曲をよく観察してみた、思えば熱く、情熱的な印象があると言える。
「曲のイメージによって能力を変化させられるのか、?一か八かだ!!やるしかない!」
『ピアノ幻想曲 斬影』
ゴリラの突進が迫ってきていたが、ピタッと動きが止まった、次の瞬間、装着していたアーマーがぴしぴしと音を立て、壊れた。
「やった!!成功したぞ!!!」
炎の次に現れたのは半透明の飛ぶ斬撃のようなものだった。土壇場で作った能力にしてはよくできている。
「ゴグォ!?」
ゴリラも面食らった様子だが、気にする必要もない、間髪入れず、2撃目、3撃目と、追撃していった。
自分でも夢中になって演奏し、およそ30は放たれたであろう斬撃を前に、ゴリラ2体は倒れていた。
「はぁ、、はぁ、、」
やはりこのレベルの演奏を長時間続けるのは、体力の消費が半端ではない。勝利を叫びたいが、出るのは息だけだった。
「よし、、なんとか、、倒した、、こんな化け物がまだ出てくると思うと、気が遠くなる、、」
倒れそうになったがなんとか踏みとどまった、こんなところで倒れてしまっては、怪物たちの格好の獲物だ。
仕方ないので、またゆっくり進み始めることにした。幸いなことに食料は、昨日のドラゴンの肉が大量にある為、尽きそうにない。これがまたなかなか美味いのだ。
平和なことをしているとすぐに危険になる、この世界ではそんなことがたくさん起こる、次の敵の予感だ。
「もうよしてくれ、、今日は疲労がやばいんだ…」
そんな情けないセリフも、ここでは通用しない、岩陰から一体、また一体と人型の影のような生き物がわらわらとでてくる。
「ケヒッ」 「ケケッ」 「ケケヒ」
なんだか嫌な空気だ、気づけば、自分を囲ってすっかり包囲されてしまった。すると群れの一体が、小石程度の小さな玉を発射してきた
「いてぇ!!」
モデルガンで撃たれたようなそんな痛みだ。
その一体を皮切りに敵の攻撃が始まった、円になった敵が360度そこらじゅうから玉を打ってくる。
一発一発は大したダメージではないものの、それが一度にたくさんとなれば話は別だ、もう光の鍵盤は目の前に出現しているが、なかなか弾かせてくれない。
「いてっ、いてぇ!やめろ!」
やめろと言われても通じないことぐらい理解しているがつい口に出してしまう。ある意味、一番嫌なタイプの敵かもしれない。
立ち止まっていては埒が開かない為、走って多少の被弾を避ける。それでも少しは当たるが止まって的になるよりはマシだ。
「さて、、どうしたもんか、さっきから斬影で何体か倒してるが、ジリ貧だ、、このままじゃこっちが体力削られてそのまま死んでしまう。」
また新しい技を作ろうとも考えたが、この状況ではそれも叶わない。
「こうなったら、、情熱と斬影を組み合わせるか、、!」
0を生み出すよりは、1+1をしたほうが早いという計算だ。なんとか逃げつつ、曲を組み合わせる。
「よし、、!これで戦うしかない!!」
『組曲 道を開く燈』
心を落ち着かせ、弾き始める。自分を中心に、炎と斬撃の渦が広がる。危機に気づいた敵も多くいたが、遅かった。
一体また一体と渦に消えてゆく。最後の一体まで渦に飲み込み、鍵盤が消滅する。
「あ、危なかった、、組曲の発想がなければ、間違いなく死んでいた、、」
この世界の敵たちはどれも恐ろしく強く、強大だ、油断などできるはずもないが、一度のミスが命取りになりかねない。
まだ見ぬ人里や、この地を抜け出すヒントを見つけ出すべく、また、歩き出す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます