第2話 2人目のストーカー

「..,え?なに...してんの?」と、言葉を失っている中、のそのそとベッドの下から這い出てくる。


「何って...誕生日サプライズ?かな?」と、いつもと変わらない屈託のない笑みを浮かべる。


 それが無性に怖かった。


「...いや、え?...ど、どうやって入って...」

「そりゃ、合鍵くらい持ってるよ?」と、ポケットから当たり前のように俺の家の鍵と同じ形状のものを取り出す。


「ちょっ、意味がわからないんだけど...」

「えー?分かってるくせに〜?パンツを盗んでいたのも私だよ?もちろん、盗聴器をしかけているから独り言も知ってるんだから。寝る時は録音したゆうくんの声を聞きながら寝落ちしてるんだよ?」


 そう言いながら、俺の机に手をかける。


「別にいいよね?だって、私たちは両思いだもん」と、机の中から一枚の写真を取り出す。


 それは運動会の時の写真であり、隅の方に俺が写っているものの、メインは走っている花塚さんだった。


 確かに小学校の時、俺は花塚さんのことが好きだった。


 可愛かったし、人気もあったし、誰にでも優しかったから。

でも、その時から知っていた。

彼女と自分では格が違う。

住む世界が違うことを。


 だからこそ、俺の初恋は長く続かなかった。

割り切ったのだ。


 それからは彼女のことを特別意識することはなかった。

でも、思い返せば違和感はあった。


「...わざわざ志望校のレベルを下げてうちの高校に来たのは...」

「そんなの決まってるじゃん。ゆうくんのそばに居たいから」


「下の階で一人暮らししているのは...」

「実家じゃ色々出来ないことがあるし、なるべく近くに住んでいたいから。本当は隣の部屋が良かったんだけど空いてなくて...。隣の住人、追い出そうかなと思ったけど、まぁ下の階のほうがむしろいいかなーって」


「じゃあ、あの脅迫の手紙も、パンツを盗んでいたのも、たまに家のゴミが消えていたのも、後ろから見張っていたのも...全部、全部、花塚さんの仕業だったって...こと?」


 すると、彼女は少し俯いた後、ゆっくりと顔を見上げてこう言った。


「...ゴミが消えていたって何?そんなの私知らないんだけど。は?何?誰?誰がそんな勝手なことしてんの?」と、どんどんと近づいて、キスをするんではないかと思うくらいの距離まで近づく。


「ちょっ!?//」

「いや、照れてる場合じゃないから。何それ。誰?私以外にも誰かいるってこと?」


 そんな話をしていると、クローゼットが開く。


【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093090003046833


 そこから1人の女の子が現れる。


 それは見たことがない青い髪で白い制服の可愛い女の子だった。


「...え?誰?」


 少女のことは知らないけど、その制服は知っている。

近所にある宮岡女子校という頭が良くて、お嬢様達が通っていると噂の学校だ。


「...初めまして...水野...沙莉です」と、無表情でそう言った。


 俺は勘違いをしていた。

そうか、ストーカーは2人いたのだ。

考えもしなかった。


「...は?誰?何してんの?ここはゆうくんの家だけど」と、自分の家かの如く主張する花塚さん。


「...あなたのことは知っていますよ。花塚さん。あなたはストーカーがなんたるかを何も分かっていない。ストーカーとは影から応援することです。なのに、脅迫の手紙を書いたり、パンツを盗んだり、迷惑な行動ばかり繰り返す、悪質ストーカーです。私は迷惑になるようなことは一切せず、ゴミ捨てを代わりにやってあげたり、部屋の掃除をしたり、そして気づかれないように細々とやってきた善良ストーカーです」


 いや、ストーカーに悪質とか善良とかないと思うけど...。と、心の中で突っ込む。


「...それはあなたの価値観でしょ?勝手に押し付けないで。てか、ストーカーしているなら分かるでしょ?ゆうくんは私のことが好きなの。だから、私の写真を持ってるんだよ。あなたのようなただのストーカーと一緒にしないでよ」

「...それは昔の話でしょ。もし現在進行形で好きなら、なんで今の写真が一枚もないんですか?」


 と、秒で反論する。

というか、俺を差し置いてなんか2人で言い争いが始まったんだけど。


「それは...照れてるからでしょ。私への好意がバレたら恥ずかしいし、昔みたいにこういう個人向けの写真は中学や高校に上がったら販売されることもないし...」

「それはあなたの想像ですよね?過去好きだったから今も好きなんて、そんなのに因果関係なんてないですよ」


 その言葉が図星だったのか、少し狼狽える花塚さん。


 すると、俺に助けを求めるように「...私のこと好きだよね?」と、潤んだ目で見つめてくる。


「...えっと...その...確かに好きだった時期もありました。けど、俺も花塚さんじゃ釣り合わないっていうか、そう思って...今はもう...好きとかではないです」と、はっきりと伝えた。


 その瞬間、大粒の涙が溢れ始める。


「なんで!なんで!私は、私はゆうくんに好きでいてもらうために、誰もが憧れる花塚愛華を演じてきたのに!なのに!なんで...!!」と、足から崩れ落ちて、土下座をするような格好になる。


「...惨めですね。ゆうくんのことが本当に好きなら分かるでしょ?ゆうくんは私みたいな文学系オタク女子が好きなんです。最近おかずもそういう女子に無理やり迫られる動画ばっかりですし、どう考えても私の方が好かれる要素は多いんです」

「...えっと、ごめんなさい。まず、初対面なので...その...好きとかはないです」というと、花塚さん同様に足から崩れ落ちる。


「...そんな。私は...学校1可愛くて、タイプも抑えてるのに...」

「...いや、可愛いとは思いますけど、何も知らずに好きになるとかはないですね...」


 てか、当たり前のようにおかずの話をされたんだが...//


「...じゃあ...現時点では私たちは五分ってことよね...」と、土下座ポーズのまま、ややしゃくりあげた声で花塚さんが言う。


「...そう...ですね」


 すると、2人同時に立ち上がり、お互いなら意味合いこう言った。


「「勝負」ですね」


 そうして、俺のいないところでなぜか勝負が始まることとなった。

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