第2話
木にぶつけられたせいで肺に穴でも開いてしまったのか……。
何とか気力を振り絞って、スキルを発動する。
「【取出:回復薬(大)】」
ぽんっと俺の手に回復薬(大)が現れた。
急いで震える手で蓋を開け、回復薬(大)を口に含むと、あれだけ苦しかった呼吸が楽になった。
はー、間に合ってよかった。
俺のスキル、荷物運搬。
蒼鷹を結成した時は「剛力」しか使えななかった。重たい荷物を軽々と運べる効果しかなかったスキルだ。
パーティーランクが上がるに従い、俺のレベルも上がっていった。
荷物運搬スキルも1から上がり、今は5だ。
レベル2で荷物には盗難防止効果がつくようになった。
リュックは俺の私物だ。パーティーメンバーが持つなら盗難防止機能は働かないが、ギルドにメンバー解消届がだされたらリュックは俺の手に戻ってくるだろう。
説明しようと思ったんだけどな。素材を売ってから脱退届を出せと。
順番が逆になったら、中身ごと戻ってくる。
素材を盗まれたとか言い出しそうでめんどくさいんだよな。
それから、荷物運搬スキルが3になると、空間収納(小)が使えるようになった。
触れたものを収納空間に入れたり出したりできる力だ。両手で抱えられる程度のものしか入れられないのであまり役に立つ能力ではなかった。
荷物運搬レベル4になったら、空間収納(大)となり、一部屋分ほどの荷物が入るようになった。
本当はリュックも必要なく手ぶらで出かけられるくらいにはなったんだけれど、素材を売りに行くのはリーダーの仕事なのでトラブル防止のためにも収納鞄を使っている。手に入る素材の量は増え続け、俺の金のほとんどは高価な収納鞄を購入するための費用に費やした。
荷物運搬スキルが5になった時に使えるようになった、空間拡張を使って、収納リュックの収納空間を拡張したけど、道中討伐した魔物の素材と土ドラゴン1体入れたらそれ以上入れられなかった。
空間拡張は収納魔法で付与されてある鞄の空間を何倍かに拡張できるという能力だ。元の収納鞄の収納量が多くなければ拡張してもそれほど増えない。
つまり、また高い鞄を買わないといけないと思ってたら、追放。
手持ちのお金は少ない。リーダーに鞄の必要性を訴えても、何とかしろ!で終わっていただろう。そうなると、借金をして鞄を買い、しばらくは借金返済生活を余儀なくされたのだ。
「そっか、借金して鞄を買う前に追放されてラッキー?」
ふと追放されたショックから少し立ち直ってきた。
次の瞬間、ぽんっと手元にリュックが戻ってきた。
「あ、中身そのままだ……」
今頃あいつが盗んだとか言いがかりをつけてギルドでリーダーが騒いでいるところだろうか?戻ってギルドに行って説明しますか。
急がないと、顔と人当りがいいリーダーたちが俺のことを悪人に仕立て上げているんじゃないかと不安だ。
冒険者登録抹消なんてことになっていたら困る。
「早く、戻らないと」
とは思うものの、ここは土属性ドラゴンの巣。結構魔物が出る森の奥だ。
リーダーたちは帰還の魔法書を使ってあっさり帰ったが、俺は持ってない。
発動すると、半径3mほどの範囲にいる者全員が帰還できるのだ。一人1個持つ必要がなかった。
いつも発動するのはリーダーの仕事だったから、今日もリーダーに俺が俺の金で買って準備した帰還の魔法書は渡してしまった。
「無事に戻れるかな?」
とりあえず、戻ってきたリュックを空間収納(大)に入れて、素材解体の時に使っているナイフを握る。
ひゅんっと、飛び出してきた小型の魔物にナイフを突き刺す。
Cランクの魔物だ。
これくらいなら素材回収スキルがランク5まで上がっているので何とでもなる。
ピロロリーンと、レベルアップの音が脳内に響いた。
確認すると、荷物運搬スキルが6に上がっていた。
荷物運搬スキル1 剛力(荷物を軽々と持ち運べる)
荷物運搬スキル2 盗難防止(荷物を盗まれても戻ってくる)
荷物運搬スキル3 空間収納(小)
荷物運搬スキル4 空間収納(大)
荷物運搬スキル5 空間拡張(収納魔法が付与された鞄の拡張)
荷物運搬スキル6 陸運1←new
「陸運?なんだそれ?」
その後、陸運2、陸運3、陸運4、海運1、海運2、空輸1、空輸2……と増えていくのをナッシュはまだ知らない。
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