第14話 謎な洞窟 ~いつつめ~


『雑学って? 聞かない技能だね』


『アタシもよく分からないんだけど、ギルドでポイントを振り分けてた時に、これだけカンストしてたのよ。数字が。雑学ならどれかに特化した知識でもないし、プチトリビアもあったりするじゃない? 探索者向きだなあと思ってね』


 数値99と聞き、翔や菜摘が眼を見張った。それはほぼ無敵な数字だ。百以外失敗せず、百が出たならファンブルなので、どう足掻いても最悪は避けられないから同じである。

 そして、ネットのような1D100というダイスロールのない御伽街のダイスに100ファンブルはない。

 二桁と一桁のダイスなのだ。最大の出目は99。朏の雑学99は、まさしく無敗の数値だった。


 そして今振ったダイスの結果は92。普通であれば、まず失敗の際どい数字。ひゅ.....っと音をたてて、朏の背筋に冷たい物が滑り落ちる。


 .....あっぶな。サイコロがアタシ達を殺しにきてるね。ヤバいわ。他の技能だったら、お手上げだったよ。


 何と関連した技能なのか分からないが、この雑学は彼女が見聞きしたモノ全てを思い出させてくれる上、足りない情報まで補足しくれる。

 まさに、この世界におけるWikipedia。wikiにも与太噺は山ほどあるが、それでも有難い。


 .....伊達にクトゥルフTRPGの配信してないわよっ! 身内卓のガバゲーだったけど、睡眠時間削ってまで裏打ちして、自分の妄想やご都合主義を混ぜながらシナリオ作ってきたんだからねっ! 雑学なら、人並み以上の自信あるわっ!!


 和真達の解けなかった謎を解き、アマビエの墨絵を手に入れた朏らは、疫病対策万全で乗り込んだ。

 さらに次々とダイスを決めて石像を弱体化。アマビエ強化は天元突破。




《.....薄汚れた墨絵には奇怪な物の怪が描かれている。それは見るだけで邪を払う慈愛の絵姿。名前をアマビエと言った》


 苦々しさ満載で情報を公開するGM。


『そうだ、アマビエだわっ!』


 日本の過去にひっそり顔を出した妖怪様。


 疫病に対抗する手段を得て、満面の笑みを浮かべた三人だが、朏はさらに質問を続ける。


『メタいこと聞くけど手がかりは出尽くした? もう取りこぼしている情報はない? 仕事しろ、KP』


《.....っ、.....ほぼ出ている。アマビエの墨絵があれば、瘴気の撃退は可能だ》


 .....《撃退は》?


『今のアマビエに足りないモノはないか? 申請、雑学でダイス!』


《~~~~~~~っ!》


 軽快な音が鳴り響く中、出目を確認したGMが、髪を振り乱すがごとき荒ぶりようで叫んだ。


 そこにあるサイコロの数字は00と1。


《1クリぃぃっ?! いい加減にしろぉぉーっ! ここは墓場なんだよっ! 誰も出られないセッションだっ! 死んでくれ、頼むからっ! ここは秘匿されなきゃいけないんだよぉぉーっ!!》


 .....幸運が高いせいかしらね。めちゃくちゃ出目が良いわ。


 ヒステリックにわめきたてるGMの声。それに胡乱げな顔をし、朏はチラリと翔を見た。


『ふざけろよ、馬鹿野郎様が。だいたい、その前提が崩れているのに気づきなさい。翔さんはリライブチケットを持ってるよ? ここでセッションが失敗し全滅しても、彼は死に戻り出来るから』


《.....は?》


 GMはしばし沈黙したあと、声にならない絶叫を迸らせて、朏に残りのヒントを与えた。


《なんでリライブチケット持ちがいるんだっ? そんなん、攻略組みの一部くらいしか持ってないはずだろうっ? こんな謎解きのみの初心者向けシナリオに、なんで来てるんだよぉぉーっ!!》


 まるで朏へ説明するがごとく、延々愚痴るGM様。そんな益体もない愚痴に混じって出された情報は、瘴気の正体。

 例の石像から放たれた瘴気でかかる病の実態は呪いだったのだ。体力や精神力、SAN値などをガリガリ削り、人体はおろか、その心すらボロボロに蝕んでいく残忍な罠。

 そのため、ただの墨絵なアマビエを盾にして進んでも、浄化の追い付かない僅かな瘴気で、墨絵を持つ人間が動けなくなるという。


 .....そうだよっ! 神々の設定したルールの中でも、大量の死者が出るよう作ったのにっ!!


 あれやこれやと相談する朏達を水鏡ごしに睨み付け、漆黒の髪を持つ少年は苦虫を噛み潰した。

 このシナリオは比較的単純だ。声を辿っていけば行方不明者らを発見出来るし、道なりに進むだけで目的の石像も見つかる。

 その石像の分身体をそこここに配置し、病の存在に気づいた探索者達は恐怖や焦燥感に煽られ、面白いように罠へと突撃してくれた。

 いたる場所にヒントを置いているにもかかわらず、彼らが先を急ぐよう罠を張り巡らした。

 それは功を奏し、たいていの獲物は少年が思うがまま動いてくれる。岩壁に隠された絵に気づくことも稀だった。


 .....これだって、本当は用意したくなかったのに。救いが欲しけりゃ僕に跪けば良いのさ。.....まあ、そうしたら死人の仲間入りだけどね。


 このゲームに参加する邪神には三つのルールがかせられている。


 ☆ひとつ、シナリオには必ずハッピー、ノーマル、バットなる三つのエンドを組み込むこと。

 ☆ふたつ、設定されたルールの改変や偽装、虚偽を行わぬこと。

 ☆みっつ、どんなシナリオにも人間に悪意のない地球の物の怪を潜ませておくこと。これが人間に対して悪意を持つか善意を持つかは状況に任せること。


 このルールを守ってシナリオを作る。これを外なる神々は非常に愉しんでいた。

 決められた枠内で、如何に人間どもを苦しめ足掻かせるか。嘆きや絶望を抱かせられるか。それが醍醐味ともなる、用意された遊戯盤。


 愉しんでいたところを朏達に邪魔され、憤怒の眼差しを水鏡に向ける少年。

 その視界の中で、未だに探索者達は色々相談していた。




『アタシ、SAN値は高いけど体力10しかない』


『私も体力は9ですわ』


『俺の体力は18だ。.....が、SAN値が.....』


 皆まで言わずとも分かる。発狂した翔が、新たな敵として朏達の前に立ちふさがりかねない。

 にっちもさっちも行かず、沈黙する三人だが、それを眺めていたらしいGMの気配が僅かに和らいだ。

 探索者らの葛藤を嘲笑うように、如何にも愉快そうな雰囲気。それを朏は見逃さない。


『きっとGMが知ってるよねぇ? ひょっとしたらシナリオ主なんじゃないの? うん。アマビエに隠された何かがないか、申請、雑学でダイスっ!』


《ーーーーーーーーーーっ!!》


 もちろん出目はクリティカル。高い幸運も手伝い、朏は技能で無双する。


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