第6話 謎なゲームシステム ~中編~


「俺に分かることなら教えるし、何ならフレ登録しておこうか。シナリオに引きずり込まれた時、フレをバディに喚ぶことも出来るからさ」


「あ、御願いしますっ!」


 バディ。これは探索で分岐が発生した際に行動を共にするパートナーだという。

 大抵は顔見知りを喚ぶことが多いとか。断ることも可能なので、けっこう皆気軽に依頼してくるらしい。


「来てもらえたらラッキー程度の気持ちで。実際、行けない場合もあるしね」


「そうですよね」


 うんうんと得心顔の朏。


「.....シナリオによっては行かない人も多いんだよな。死に戻り確定の残忍なセッションもあるし、リライブチケットがない時とか.....」


「死に戻り? リライブチケットって?」


「ああ..... ん~、あまり脅かすようなことは言いたくないんだけど。.....今さらか。ここが地獄の一丁目なことは、ルールブックやシナリオ情報を読んだら分かるしなあ」


 たはは.....っと困り顔をしながら説明する翔。


 その説明は壮絶な話だった。


 かいつまむと、星の選定があったクローズドからして運試し。

 三割が即死で二割は大怪我、残り半数もほぼ無傷ではいられないという。それが御伽街を訪れる者に行われる洗礼だった。


「あ.....っぶなぁっ!」


「うん、君はかなり運が良い」


「ダイスに感謝だわぁぁ.....」


 へにょりと前倒しで萎れる朏の言葉を耳にし、翔が不可思議そうに眼を見開く。


「ダイス.....に?」


「あ。翔さんも通ってきましたよね? 星がサイコロを振らせた白い密室」


「うん。あれが何か関係しているのか?」


 ん? と御互いに首を傾げる二人。


「星が言ってませんでした? 一投目がSAN値、二投目が幸運。それを付与してくれたみたいですよ?」


「えっ? アレ、そういうのだったのか? .....気づかなかったよ。あ~っ?! それでっ?! うあ~っ! あそこで決まってたのか、俺のSAN値っ!!」


 どうやら彼は朏と違ってTRPGの知識がなかっため、星の話をスルーしてしまっていたようだ。

 そりゃそうだろう。いきなり異世界に転勤を言い渡されたあげくヘリコプターから落とされ、真っ白な密室で星の異形と御対面だ。

 リアルSAN値がガリガリ削りまくられ、発狂寸前になっていても可笑しくはない。


「えっと。今はSAN値とか分かってますよね? 聞いても良いのかな? 数値はいくつに?」


 べしゃりと蹲って脱力する翔は、両手で顔をおおいながら小さく呟いた。


「28.....」


「え.....?」


 思わず絶句する朏の視界で、彼は情けなさげに指の間から眼をのぞかせ、絶望的な声で繰り返す。


「28なんだよ..... ヤバいシナリオだと、即発狂。幸い、技能と体力で綱渡りな生還をしてるけど..... これでも増えた方なんだ。最初は21だったから」


 .....うわあ。お気の毒。


 メンタルが豆腐である。死にかかわるようなゲームなうえSAN値が現実に作用する世界。

 そんな状況へ落とされたというのに、命綱ともいえる数値が低いのは致命傷だった。


 聞けばその糞雑魚メンタルのせいで、彼は探索者仲間も少なく、周りから忌避されているという。

 元々がアスリートだし体力や腕力が高いのも難点の一つだ。考えてみて欲しい。無尽蔵に暴れる狂人を。誰だって、そんな仲間は遠慮したい。


「まあ、生還は出来てるからね。おかげでリライブチケットを消費することがなくて助かってるよ」


「そのリライブチケットってのは?」


「邪神の心付け.....? かなあ? 奴らを楽しませたらしいプレイヤーにもらえるチケット。探索者カードに勝手に付与されてるんで、確かじゃないけど、そう言われてるよ」


 戦闘不能や全滅などのバットエンドを迎えても、リライブチケットを所持した状態であれば、若干のステータス減少と引き換えに死に戻れるのだそうだ。

 無論、消費されたチケットは消える。


 .....うわあ。どこまでも遊ばれるってか? 嫌なヤツだな、邪神。.....邪神が良いヤツなわけないか。うん。


 そういった細々した説明を翔にされつつ、二人は御伽街の雑踏に溶けていった。

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