第13話 冒険者ギルド

冒険者ギルドに到着すると、中は活気に満ちていた。カウンターには依頼を受ける冒険者たちが並び、依頼内容について職員と話をしていたり、報酬を受け取ったりしている。リアナは迷わずカウンターに向かい、自分の任務の報告とトーマの冒険者登録をするために受付へ進んだ。


「任務の報告に来たのと、こちらの新人を冒険者登録したいんだけど。」


リアナが受付の女性にそう伝えると、受付嬢はにっこりと微笑んで書類を取り出した。しかし、その時だった。一人の男が二人の前に割り込んできた。


「おいおい、リアナ。相変わらずやってるみたいだな。」


男は不敵な笑みを浮かべてリアナを見つめていた。その男はC級の冒険者であり、リアナのライバルとも言える存在のクルスだった。クルスはリアナと同じC級の実力を持っているが、その一方で黒い噂も付きまとっていた。


「クルス…また何か用?」


リアナは少し眉をひそめながらクルスに視線を向けた。クルスは肩をすくめ、少し挑発的な口調で言った。


「いや、ただ新しい冒険者を登録するって聞いたからな。どんな奴か見てやろうと思っただけさ。リアナ、お前の連れてる奴がどれだけやれるのか楽しみだな。」


クルスの言葉には明らかに挑発の意図が含まれていたが、リアナはため息をつきながら軽く笑った。


「ふふっ、心配しなくてもいいわ。あなたにとっては少し手強い相手になるかもしれないけどね。」


クルスはそれを聞いて一瞬表情を曇らせたが、すぐに不敵な笑みに戻った。


「そうかい、じゃあ期待しておくよ。」


リアナはクルスを軽くあしらい、その場を収めた。クルスはまだ何か言いたげだったが、リアナの毅然とした態度に押され、結局そのまま去って行った。


「まったく…いつもあんな調子なんだから。」


リアナは呆れたように呟きながらトーマに振り返った。


「ごめんなさいね、変なのに絡まれちゃって。でも気にしないで、ああいうのは無視するに限るわ。」


トーマは肩をすくめ、


「別に気にしてないさ。それより、冒険者登録を頼むよ。」


リアナは頷き、再び受付の女性に向き直った。


「それじゃあ、登録の手続きをお願いします。」


受付の女性はにこやかに笑いながら書類をトーマに差し出した。


「こちらに名前と職業を記入してください。」


トーマはペンを取り、名前の欄に「トーマ」と書き、職業の欄はなんて書けば良いか迷ったが、我が身一つで闘っていることから「武闘家」と記入した。書き終えると、受付の女性は頷いて書類を受け取り、その後ろにある棚から小さな魔水晶を取り出した。


「次に、この魔水晶に触れてください。これで現在の能力を確認します。」


トーマは魔水晶を見つめ、その存在に警戒感を覚えた。トーマにとっては悪夢の始まり、この世界を地獄へ至らしめたものであった。そして、ふと疑問が湧いたため受付に尋ねた。


「この魔水晶には種類があるのか?」


受付の女性は頷きながら説明を始めた。


「はい、種類があります。この魔水晶は現時点での能力をE~Sで表すもので、冒険者登録の際に使用します。他にも属性やスキルを測定するための魔水晶などもありますが、今回は能力のみです。」


トーマはその説明を聞いて少し安心し、頷いた。


「なるほど、分かった。じゃあ触れてみるよ。」


そう言ってトーマは魔水晶に手を伸ばし、そっと触れた。その瞬間、魔水晶が淡い光を放ち、トーマのステータスが表示された。


「名前…トーマ、レベル80、STR…S、DEF…S、INT…S、RES…S、AGI…S…」


受付の女性が次々にステータスを読み上げていく中、その場にいた冒険者たちが驚愕の表情を浮かべた。そして、最後に女性が一つのスキルを読み上げた。


「スキル…【反転】…?」


その瞬間、周囲から嘲笑が湧き起こった。


「なんだよ、反転だって?そんなスキルだなんて、笑わせるぜ!」


「まさかあの【反転】かよ、役に立たないゴミスキルじゃないか!」


嘲笑の声が周囲から次々に上がる中、トーマはナラハ王国での出来事を思い出していた。あの時も同じように嘲笑され、見下された。怒りが胸の中で湧き上がり、殺意に似た感情が溢れてきた。トーマは拳を強く握り締め、周囲を睨みつけた。その瞳には怒りの炎が宿り、威圧感が周囲に伝わった。


「…静かにしろ。」


トーマの低い声に、その場にいた冒険者たちは思わず息を飲んだ。しかし、その緊張感を破るように、屈強な中年の男がギルドの奥から現れた。


「おいおい、なんだなんだ。新人登録で揉めてるのか?」


その男は筋骨隆々の体を持ち、見た目からしてただ者ではないことが分かった。彼はトーマの方に視線を向け、にやりと笑った。


「どうやら面白い奴が来たみたいだな。」


その男の登場により、その場の緊張感が一気に和らいだ。周囲の冒険者たちも徐々に嘲笑を止め、様子を見守り始めた。

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