第14話 メンター

「お前が新入りか?」


筋骨隆々の男はトーマに向かって声をかけた。その眼差しは鋭く、長年の経験を物語っていた。男はギルドの長であるメンターだった。


「なるほど…ステータスはすごいが、スキルがなぁ…でも実力は見てみないとわからんもんだ。」


彼はトーマのステータスが規格外であることを確認し、しかしスキルが【反転】であることをもったいないと感じていた。


メンターはそう呟くと、トーマに向かって顎をしゃくった。


「お前、俺と少し手合わせしてみないか?実力を確認してみたい。」


トーマは一瞬だけ考えたが、むしゃくしゃしているのもあり、すぐに頷いた。


「いいぜ。どこでやるんだ?」


「ついてこい。奥に訓練場がある。」


メンターはトーマをギルドの奥へと誘導した。リアナはその様子を心配そうに見つめていた。


「トーマ、大丈夫なの?あのギルド長は元B級の冒険者で、かなりの実力者よ。」


トーマは振り返り、リアナに安心させるように笑った。


「大丈夫だ。それに、実力を試すのも悪くない。」


リアナはそれでも不安だった。トーマの実力は盗賊を圧倒しているからかなりのものであり、全てのステータスがS、身体能力だけならA級クラスではあったが、メンターはB級であるがスキルは【アサシン】。スピードと不意打ちで相手を圧倒するスキルであり、防具をつけていない武闘家のトーマにはかなり不利である。ただ、トーマの覚悟を感じ取り、それ以上何も言わなかった。


ギルドの奥にある道場に着くと、メンターはトーマと向かい合い、軽く腕を回しながら準備を整えた。


「よし、始めるか。まずは挨拶代わりだ。」


そう言うと、メンターはトーマに向かって強烈な威圧感を放った。その圧力は空気を重くし、普通の人間なら立っているのも難しくなるようなものだった。しかし、トーマはその威圧感の中で


「ふあぁ…」


あくびをした。


トーマのあくびに、メンターは少し苛立ちを感じた。


「面白い奴だ…じゃあ、少し本気で行くぞ。」


次の瞬間、メンターは驚異的なスピードでトーマの背後に回り込んだ。そしてこれで終わらすためにトーマの首に手刀を打ち込もうとした。しかし、その手刀がトーマの首に届く直前、メンターの手刀がトーマの首への方向から上空に向かって宙を切った。そして自分の胴体をがら空きにしてしまった。そんな状態のメンターにトーマは


「…あいつブラッドグリズリーの方が速かったぜ。」


「…なっ…!」


トーマはメンターの胴体に向かって正拳突きを放ったが、その拳は寸前で止まった。トーマの拳が止まる寸前、メンターは自分の死を確信し、全身に冷や汗が流れた。




その様子を見てトーマは静かに拳を下ろした。メンターは何が起こったのか理解できず、動揺した表情でトーマを見つめた。


「お、お前…何をしたんだ…?」


トーマは肩をすくめて答えた。


「ただ…【反転】させただけさ。」


そのままメンターに背を向け、トーマは道場から立ち去ろうとした。メンターは全身の震えが止まらず、その場に立ち尽くしていた。


「…こいつは、本物かもしれん…」


メンターはその場で呟きながら、トーマの背中を見送った。彼の中で、トーマに対する評価が一変していた。

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