第12話 イニツィオ

リアナと出会った後、トーマはリアナの案内でソドム共和国の街「イニツィオ」へ向かって歩いていた。道中、トーマはリアナからこの世界の地理や常識について話を聞き、興味深そうに耳を傾けていた。


「…それで、冒険者っていうのはこの世界でいろんな依頼を受けて生計を立てているんだな。」


「そうよ。ギルドに所属して、依頼を受けて報酬を得る。だから冒険者は割と自由に生きていけるんだけど、同時に危険も多いの。」


トーマはその説明を聞いて少し考え込んだ。


「冒険者か…俺もなってみるのも悪くないかもしれないな。」


「あなたが?冒険者に?」


リアナは驚いたように眉を上げた。


「確かにあの盗賊たちを倒したけど、冒険者ってのはそれだけじゃないのよ。もっといろんな知識が必要だし、戦うだけじゃないから。」


「分かってるさ。でも、生きていくためには力も必要だ。それに、俺はもっとこの世界を知りたいんだ。」


リアナはトーマの真剣な表情を見て、少し頷いた。


「分かったわ。あなたが本気なら、ギルドに行けば登録はできる。でも、冒険者になるには試験もあるし、甘くはないわよ。」


「試験か…面白そうだな。」


トーマは少し笑みを浮かべて答えた。


二人は荒野を進みながら話し続けた。途中でゲヘナの森の話題になり、トーマは興味深そうに耳を傾けた。


「ゲヘナの森って、あそこは本当に危険なんだな。特に中層ってやつは。」


リアナは頷きながら答えた。「ええ。外層にはよく行くけど、中層には絶対に行かないし、行けるような場所じゃないわ。そこにはバジリスクやブラッドグリズリーなんていう恐ろしいモンスターがたくさん出てくるの。B級以下のパーティじゃ生き残れないし、A級パーティでようやく何とか倒せるレベルよ。」


トーマはそれを聞いてブラッドグリズリーの特徴をリアナに聞くと、ゲヘナの森でトーマと対峙した敵と全く同じと聞き驚くと同時に納得した。


(だからあんなに強かったのか…)


そして興味本位にリアナに


「もし俺がそのブラッドグリズリーを倒していたら?」


と真顔で質問した。


リアナは一瞬驚いた後、鼻で笑った。


「冗談でしょ?確かにあなたは強いけど、A級ライセンスを持つほどじゃないわ。A級ってのは一騎当千の強さを持っていて、国の騎士団長レベルの実力がなければ、あのクラスのモンスターと一対一で戦うなんて無理なのよ。」


トーマは内心で「本当は俺が倒したんだけどな」と思いながらも、リアナの言葉にうなずいた。


「そうか…そういうものか。」


リアナはトーマの反応に気づかず、話を続けた。


「まあ、とにかく無茶なことはしないことね。特にゲヘナの森の中層以降には近づかないように。命が惜しいならね。」


トーマは笑みを浮かべながら「分かった」と答えたが、その目には少しだけ挑戦的な光が宿っていた。


やがて、二人はイニツィオの街に到着した。街の入り口には検問が設けられており、衛兵が旅人たちを順にチェックしていた。リアナが衛兵に近づき、事情を説明すると、衛兵たちは彼女のC級ライセンスを確認してから、二人を街の中へ通した。


「ここがイニツィオよ。ソドム共和国でも割と大きな街で、冒険者たちが多く集まる場所なの。」


トーマは周囲を見回しながら街の様子を観察した。石造りの建物が立ち並び、人々が活気に満ちた表情で行き交っている。市場には商人たちが商品を並べ、街のあちこちから人々の笑い声や掛け声が聞こえてきた。


「賑やかな街だな…悪くない。」


「でしょ?さて、早速だけど冒険者ギルドに向かいましょう。」


リアナはトーマにそう言うと、街の中を進み始めた。


トーマもその後に続き、二人は冒険者ギルドへと向かった。

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