第7話 ゲヘナの森
東真が立っている場所は、異世界「ラームガルド」の中でも最も危険とされる「ゲヘナの森」だった。ここはマイオス大陸に位置する三大勢力、ナラハ王国、アストラン帝国、ソドム共和国のちょうど中間点に位置し、さらに西にはプロセリアンド法国が存在する。このゲヘナの森は外層、中層、内層の三層に分かれており、中央に行けば行くほど凶悪なモンスターが生息する場所として知られていた。
東真がいるのは、外層から少し奥に入った中層に近い位置だった。外層はこの世界の冒険者や騎士など、生き残る術を持つ者であれば何とか戦い抜けるが、中層以降は層ごとにまるで次元が異なるような危険度を誇る場所で、特に内層に至っては熟練の冒険者でも挑むことが出来ない場所であった。
幸い東真は奇跡的に外層で戦っていたためか、レベルの低いモンスターとの対峙で生き残ることが出来ていた。
しかし今、彼の目の前に現れたのは「ブラッドグリズリー」だった。この世界でさえ最強クラスの冒険者でも1対1での対峙を避けると言われるほどの危険なモンスター。その名の通り、血に染まったような赤い毛並みと巨大な体躯を持ち、その圧倒的な体力と攻撃力で一度目を付けられた者は逃げ場がないと言われるほどだった。
「はは…これは絶体絶命かもな…」
東真の心臓は再び激しく鼓動し、体が一瞬固まった。しかし、この瞬間に躊躇していては間違いなく殺されることになるという本能的な恐怖が、彼の身体を強制的に動かした。
ブラッドグリズリーは低く唸りながら、ゆっくりと東真に向かって歩み寄ってきた。その巨大な足音はまるで地面を揺るがすかのようで、圧倒的な威圧感を東真に叩きつけてきた。
(何ていう威圧感だよ…でも…やるしかない…!」
東真は自らの中に残っている全ての力を振り絞り、【反転】の力を使う準備を整えた。しかし、相手は今までのウルフやゴブリンとは桁違いの存在。向きを変えることでどれだけ有効に戦えるか、それさえもわからない。しかし、この絶望的な状況の中でも東真はブラッドグリズリーを見定めつつ、距離を保った。
ブラッドグリズリーが一瞬、地面を踏みしめて突進の姿勢を見せた。その瞬間、東真の全身の感覚が鋭敏になり、目の前の巨大な脅威に集中する。時間がゆっくりと流れているように感じられる中、彼は【反転】を発動させるタイミングを見計らった。
(突進してきたら…攻撃の向きを変えて木へ衝突させる!)
ブラッドグリズリーの巨体が一直線に東真に向かって突進してくる。
「な!?」
【反転】を発動させようとした。しかし、ブラッドグリズリーのスピードがあまりにも速すぎて対応できず、タイミングが遅れた。ブラッドグリズリーの前足が東真に迫り、彼は避けきれなかった。
「うああっ!」
鋭い痛みが左腕を貫いた。ブラッドグリズリーの爪が東真の左手を切り裂き、血が吹き出した。痛みが全身を襲い、東真は思わず膝をついた。視界が赤く染まり、傷口からは熱い血が滴り落ちる。
(かすっただけで…これかよ!?)
東真は必死に立ち上がろうとしたが、左手の痛みは強烈で、指先まで力が入らなかった。全身の力が抜け、意識が遠のきそうになる中、彼は必死に耐えた。
ブラッドグリズリーが先ほどの反転で突進の勢いで近くの木に激突した。しかし、さすがは強力なモンスター、激突した木は倒れたが、ブラッドグリズリーは無傷ですぐに体勢を立て直し、再び東真に向かって唸り声を上げた。
「くそっ…ダメージゼロかよ…!」
東真はその場から離れつつ、再び【反転】の力を使おうとしたが、ブラッドグリズリーの圧力と素早さに圧倒され、不安が彼の中で膨れ上がっていった。逃げ場のない状況、そして相手の圧倒的な力。それでも、東真は諦めることなく次の手を模索し続けた。
(せめて…あいつに攻撃する術さえあれば…)
全身が悲鳴を上げる中、東真は再び立ち上がり、ブラッドグリズリーとの絶望的な戦いで己の限界を超えようとしていた。
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