第4話 尻按摩の真価

 ケッツは学園に通いながらも依頼をこなすつもりでいたのだが、学生は勉強と青春よとマリアに言われて依頼の件数を減らされていた。

 それでも休日前には二件、休日二日のうちの一日は四件の依頼をこなす事に決まった。

 昨日は入学式だったので午前中に学園が終わるので二件だけ予約を入れていたのだ。

(因みにマーリンは施術が終わった時にやはりアヘってしまいケッツとお話は出来なかったようだ。)


 入学した日の翌日。遅刻しないように午前七時には学園についたケッツを待っていたのはソンル伯爵家とワセイ子爵家の当主であった。

 担任のリューインはまだ来てないようだ。


「お前がリー侯爵家の出来損ないか!! よくも息子を!!」

「我が子をよくも辱めてくれたな! リー侯爵からは好きにせよと言われている! 覚悟しろ!」


 大の大人が二人で十三歳の少年に向かって脅しをかけている。周りではケッツと同じように少し早めに登校してきた学生たちが女子は心配そうに、男子はいい気味だという感じで見ていた。


 そこにようやくやって来たリューイン。


「何事だ? ソンル伯爵にワセイ子爵が二人そろって来て私の生徒に文句を言っているようだが?」


「ムッ、チェー侯爵家の出来損ないか」

「ハハハ、出来損ないが出来損ないを教えるのか? お似合いだな」


「聞き捨てならんな、ソンル伯爵、ワセイ子爵。それは私に喧嘩を売っていると見て良いんだな?」


「ワーハッハッハッ、女の身で出来損ないでありながら強気だな!」

「そうだ、喧嘩を売っているのだ! 条件はそうだな…… 私たちが勝ったならば貴様は私たちの性奴隷として過ごして貰おうか!!」


 こう言えば引き下がるだろうと思ったワセイ子爵のその言葉は火に油を注ぐだけであった。


「良いだろう。では私が勝ったならば二人の子息は学園を退学してもらおうか。誓約書を書いて貰うぞ」


「良いだろう! 我らの情けを知らずに受けるというならば誓約書でも何でも書いてやる!」


 ソンル伯爵がそう返答した時に横から声がかかった。


「では私が責任を持って審判をしよう。誓約書はここで作成しよう」


「学園長!」

「「ハベスト公爵閣下!!」」


 ケッツは驚いていた。入学式では挨拶をしていたのは見たが、兄のバッツからは行事以外で学園長を見た事が無いと聞いていたのだ。


「さあ、誓約書を作成した。両者ともに内容をよく読んでサインするように。それとケッツ·リーくん」


「は、はい。何でしょう学園長?」


「君は当事者でもあるので立会人をしてくれたまえ。良いね」


「はい、分かりました」


 リューインと二人がサインしたのを確認して学園長はケッツを含めた四人を闘技訓練場に連れてきた。


「八時から授業が始まるのでね。早めに勝負をつけてくれると有り難い。両者とも用意はいいかな? それでは、始め!!」


 学園長の合図と共に両者とも構えをとる。今回は素手での勝負だ。

 そうなるとリューインは不利だとケッツは思っていた。が、それが間違いであった事が直ぐに証明された。


「喰らえ、出来損ない! 龍王拳【絶孔爪】!」

「ヒヒヒ、裸に剥いてやる! 亀王拳【上唇角】!」


「この破廉恥貴族たちが!! 【舞脚】!!」


 リューインの脚が二人の頭を一瞬で刈り取り、二人はその場でクタリと気絶した。


「それまで! 勝者リューイン!! 誓約書によってソンル伯爵家とワセイ子爵家の子息は当学園を退学処分とする!!」


 こうして宣言通りにリューインは責任を果たしてソンル伯爵家とワセイ子爵家からの抗議に対処してみせた。

 ケッツはその事についてリューインに礼を述べた。


「気にするな。生徒を守るのは教師の役目だ。ただ一つだけお願いがある……」


 そこで言い淀むリューインにケッツは「何でも言って下さい」と伝える。


「その〜、なんだ。君のその、ジョブの尻按摩を私も受けてみたいのだが、構わないだろうか? 我が家と君の家は仲が悪いのでな、遠慮をしていたのだが……」


「ああ、それなら大丈夫ですよ。僕も実父とは仲が悪いので。ただ母に連絡を入れる必要がありますが」


「おお! 八脚拳のマリア様にか! 私が直接連絡をしても大丈夫だろうか?」


 それまで毅然とした様子だったリューインがマリアの事になると頬を染めて乙女になっている。


「はい、大丈夫です。母は気にするような人ではありませんので」


「そっ、そうか! 分かった! では連絡をして予約を入れて頂くようにしよう!!」


 何だかソワソワしているリューインを見てケッツは思った。

『そういえばさっきの【舞脚】は母の八脚拳に似た技があったな』と。

 何かしらの繋がりがあるのかも知れないと思い、今晩にでも母に尋ねてみようと考えたケッツであった。 


 学園の授業が始まる前にリューインからゴーンとドラゴンの退学がクラスメートに知らされた。

 子女たちや庶民からは安堵のため息が出ていたのでどうやら昨日の一件だけでかなり嫌われていたようだ。

 そうして何事もなく学園も終えて帰宅したケッツを今度はナッツが待っていた。


「おいおい、女の尻に隠れて揉め事を解決してもらっておいて良く家に戻れたな。父上はかなりご立腹だぜ、ケッツ」


「関係ないな、ナッツ。お前とは兄弟の縁を切らせてもらおうか。俺の兄はバッツ兄上だけだ」


「けっ、弱っちいバッツが兄上だと! この家の後継者は俺なんだよ! 俺をもっと敬えよ! そしたら雑用係で雇ってやらん事もないぞ」


 ナッツの言い分にため息を吐くケッツ。


「ハア〜、お前はバカか? 最近、バッツ兄上と手合わせはしたのか? 未だオリジナルを編み出していないお前とは違いバッツ兄上は確りとご自分の拳法を鍛えられているぞ。今のお前ではバッツ兄上の足元にも及ばないだろう」


 ケッツの言葉にナッツが切れた。


「何だと! この野郎! 言うに事欠いてバッツの方が俺より強いだとっ!! 手前てめー、弟だと思って手を出さないでいてやったがそれもコレまでだ!! 喰らえ、羅漢金剛拳【激突】!!」


 羅漢金剛拳は己の五体全てを武器と成す拳法で、その中でも基本技である激突は体当たりの技である。しかし、いきなり相手に使う技ではなく攻防の相手の隙を突いて使う技だ。そんな技をケッツが喰らう筈もなく……


「太極拳【纏絲勁】」


 静かに体を躱したケッツは手でナッツの勢いを増してやった。そのまま家の壁に激突するナッツ。


「グボラッ!! ガハッ!」


「せっかく恵まれた拳聖というジョブを得たのだ。確りとジョブを育てるんだな」


 言うだけ言ってその場を後にしたケッツであった。それを影から見ていたマリア。その瞳には哀しみが溢れていた。


『ナッツ…… どうして? こんな子では無かったのに……』


 理由を考えてみても今のマリアにはわからない。しかしやがて明らかになる理由によってマリアは決死の覚悟で我が子を守る為に闘う事となる。 



 場所は変わりケッツの自室である。ナッツに敗北を味あわせ何事もなかったかのように部屋に戻ったケッツはノラの訪問を受けていた。


「ケッツ様、尻按摩けつあんまによって私たちはこれまでに無いほど快調となりました。けれども私には尻按摩はそれだけでは無いという可能性を受けていて感じています」


 ノラのその言葉にケッツは目を見張った。


「確かにそのとおりだよノラ。実は身体能力を強化する按摩もあるんだ。その効果は二日続くらしいけど。しかしソレに気がつくなんて凄いねノラ」


『ケッツしゃまに、褒〜め〜ら〜れ〜た〜! もうアタシ、一生、ケッツしゃまについていくの!! ラメって言われてもついていくの〜!!』


 脳内お花畑になっているノラだが口をついて出るのは真面目な言葉であった。器用な女人である。


「ケッツしゃ、いえ、様。身体強化と言っても色々とございますが、いったいどのような?」


「うん、今分かってるのは例えばお尻のここ、ここをマッサージすれば胃腸の強化が出来るんだ」


 ケッツが自分の尻で場所を示すのでノラは思わずウットリとした目で見てしまう。が、それも一瞬で直ぐに真面目な目に戻りケッツに言う。


「胃腸の強化ですか? いったいどんな効果が? 戦闘に役立ちそうにないと思うのですが?」


「フフフ、ノラでもやっぱりそう思うんだね。でもね、十分に役立つんだよ。胃腸の強化を施せば勁を通さないのが分かってるんだ」


「ええーっ!? ホントですかケッツ様?」


 驚くノラにケッツは説明を始めた。


「うん、僕も半信半疑だったけど母上に頼んで僕自身に胃腸強化のマッサージをしてから、八脚拳の発勁技をお腹、胃に向かって打ってもらったんだ。何も浸透せずに僕の体に異常は表れなかったんだよ」


「そ、それならば実質無敵じゃないですか!!」


「対人で考えるならね。魔物や魔獣相手だとそうはいかないよ。まあ、耐衝撃力も上がるから全く効果が無いわけてはないけどね。でも僕もまだ分かってない事が多いから、五人にはまた協力をお願いしたいと思ってたんだ。頼めるかな?」


「ハイ! 私たちはケッツ様の為になるら喜んでーっ!! さっそく先ずは私でお試し下さい!!」


 そう言っていそいそとスカートを脱いでジャンピングでケッツのベッドにうつ伏せで飛び込むノラ。

 しかし……


「ああ、やる気になってくれてるのにゴメンよ、ノラ。今から母上と話をしなくちゃダメなんだ。だからいま脱いだスカートを履いて母上を呼んできてくれるかな?」


 その言葉にとても残念そうな顔を枕に押し付けて隠しながらも明るい声音でノラは言うのであった。


「ハイ! 喜んでーっ!!」


 




 


 

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