第3話 学園にて
予約でいっぱいだったケッツだったが、頑張って依頼をこなして十三歳となった。
遂に学園へと通う事になったケッツ。
この一年間で寄り子貴族を含めた男親やその子息たちからは落ちこぼれと見下されたままであったが、奥様方、子女たちからは美容の救世主として崇め奉られていた。
そして中にはケッツを家の長女の婿にと打診してくる貴族家も多くあったとか。打診してくる家は夫婦仲がよろしい家に限っていたが。
その尽くをマリアは保留としていたようだ。
学園へと向かう初日にマリアはケッツにこう話していた。
「いいケッツ。あなたと付合いたいと言ってくる
ケッツも母のお陰で十年は仕事しなくても食べていけるだけのお金を稼げたので、素直に分かりましたと返事をした。
ケッツがこの一年間に貯めた金額は貴族の奥様方からはおよそ四千万レン。その子女たちからは一回につき一万五千レンで請負いおよそ二千三百万レン。更には高位貴族の侍女やメイドからは一回につき一万レンで請負いおよそ一千五百万レン。
更には父とよろしくやっているセレナ以外のリー侯爵家の侍女やメイドたちは一回につき四千レンで請負い五百万レンを稼いでいた。
合計して七千三百万レンの大金持ちとなっているケッツであった。
庶民の裕福な者の年収が五百八十万〜六百五十万レンである。
なのでこの者たちと同程度の生活をするのであればケッツは仕事をしなくても十年以上は生活出来るだけのお金を既に貯めている事になるのだ。
前世の記憶があるケッツはリー侯爵家を放逐されても贅沢な暮らしをするつもりは無いので、二十年でも生活出来るかも知れない。
これから学園に通うにあたり、ケッツがそれだけの金額を稼いでいる事は貴族の子女たちは分かっている。例えリー侯爵家を放逐されたとしてもケッツが学園に通っている間も、回数は減りながらも予約を受付ているのも知っている。
つまりその貯蓄額はまだまだ増えると分かっているのだ。
お金に目が眩む子女が居ても
入学式でケッツは庶民の子と仲良くなった。何故なら学園を卒業した後はケッツ自身も庶民となるからだ。例え庶民となったとしても貴族家からの依頼は続くだろうとの目算もある。
何せケッツの按摩は永久に効果が続くものではないからだ。事実、マリアにはこの一年間で三回施術を施していた。
ノラたちも同様だ。
その事は既に貴族の奥様方にも子女たちにも、各貴族家の侍女やメイドたちにも話してあり納得して貰っている。
そんな庶民たちと仲良くしているケッツを貴族家の子女たちはヤキモキして見ていた。中には施術中のケッツの高潔な人柄に本当に惚れてしまった子女も居る。
自分たちがあられもない痴態をケッツに
『惚れてまうやろーっ!』となってもしょうがない部分もある。
ケッツはケッツで既に心は
中にはどストライクな子女もいるが、心の中で涙をのんで顔は爽やかな笑顔を浮かべながら、
「また次回の施術の予約もお願いしますね」
と毎回部屋を出ていっているのである。
貴族の子女たちは人前ではケッツの事を呼び捨てにするが、施術の時は全員が「ケッツ様」呼びである。それは子息たちからケッツを守る為にそうしようと、母親とも話し合ってケッツには知らせずに決めた事らしい。
ケッツとしては現拳聖である父よりも強い自分を傷つける事の出来る学園生など居ないと知っているのでどちらでも良い事なのだが。
学園での入学式が終わり、クラスに振り分けられたケッツは庶民が多くいるFクラスであった。男性教師たちもケッツの事を外れジョブの役立たずだと考えている者が多く、リー侯爵家当主からの意向もありそうなったようだ。
担任は女性教師であった。
「ケッツ·リー、
その担任の言葉にクラスにケッツ以外に二人いる貴族子息が抗議の声を上げた。
「ちょっと待てよ、何で俺たちが外れジョブに従わなきゃダメなんだよ!!」
「そうだ! 親の爵位じゃなく本人のジョブや能力で決めるべきだろう!!」
「ふむ、ゴーン·ソンルとドラゴン·ワセイか。この二人はそう言ってるがケッツ·リーはどう考えている?」
「先生、僕はその二人が率先してやってくれるというのならば譲りますよ」
「ケッ、やっぱり
「外れジョブは侮辱されても喧嘩も出来ないか!」
三人の言葉に担任は考える素振りを見せる。
「ふむ、私としては適任者を選んだつもりなのだが…… ならばこうしよう、ゴーンとドラゴン対ケッツで模擬戦を行い、勝ったほうをクラス長とする。三人とも異論は無いな?」
「ヒヒヒ、女の癖にいい事を思いつくじゃないか! 勿論、俺はそれで良いぞ!」
「俺もそれで良い! 俺たちが勝ったらゴーン様がクラス長だ! 副クラス長はマーリン嬢のままで良いぞ!」
二人の言葉にハア〜と呆れたような溜息を吐いてからケッツも了承した。
「それで、先生。模擬戦はいつやるのですか?」
ケッツの質問に担任はあっさりと答えた。
「今からだ!」
それを聞いた瞬間にケッツは立つ素振りも見せずにゴーンの背後にいつの間にか立ち、頸動脈を絞めて落とした。
「えっ!? えっ!? な、何をした! 卑怯だぞ!」
突然の事に動揺しているドラゴンにも容赦なく迫り、慌てて立ち上がったドラゴンの腹を突く。
その突き一つでドラゴンも気絶し、そのまま吐瀉した。饐えた匂いが充満する教室で静かにケッツは担任に言った。
「この二人の親からの抗議は責任をもって先生がどうにかしてくださるんですよね?」
荒事の後の少し気を込めた状態で担任にそう言うケッツ。
「勿論だ。私が責任を持ってソンル伯爵家とワセイ子爵家からの文句が来れば対処しよう。私の家名、リューイン·チェー侯爵家の名に誓ってそうするとも」
ケッツは少し驚いていた。リー侯爵家と並ぶ部門のチェー侯爵家の者が学園の教師をしている事に。
「フッ、そんなに驚くような事ではあるまい。私のジョブは【剣聖】ではなく【剣舞姫】、ケッツと同じく家にとっては外れジョブだ。まあ放逐はされてないがな…… 良し、これでクラス長はケッツ·リーに決定だ。副クラス長はマーリン·ライで決まりで良いな? では明日から本格的な授業となる。一限目は午前八時からだ、みな遅れる事のないように。以上、解散!!」
気絶した二人は放っておいて良いとも付け足して今日は解散となった。
教室を出ようとしたケッツに話しかけるクラスメートたち。
「やっぱり強いねぇ。今のはリー家の拳法なの?」
「いや、違うよ。僕のオリジナルだ」
「えーっ! もうオリジナルを持ってるの! 凄い才能じゃない!!」
リー家の今の当主の拳法は【羅漢金剛拳】という。
リー家では幼い頃にそれを学びながら、それぞれがオリジナルの拳法を編み出していくのが伝統だ。その事は
長男のバッツは学園の三年の時にオリジナルを編み出した。【波静鎮動拳】である。
波を静め、動を鎮めるその拳は父の【羅漢金剛拳】とは対極に位置する拳法だとケッツは見ていた。
次男のナッツはまだオリジナルを編み出していない。
ケッツも正確に言えばオリジナルを編み出したわけではない。前世の八卦掌と陳式太極拳だからだ。しかしこの世界にその拳法が無いので編み出したというしか無いだけである。
そんな庶民と仲良く雑談しながら帰るケッツを副クラス長に任命されたマーリンは乙女の目で見つめていたのだった。
『きょ、今日はケッツ様が私の施術に来られる日! 同じクラスになれたなんて運命を感じますわっ!! 今日こそは施術が終わっても確りと理性を保ってお話するのですわっ!!』
そう心の中で誓いながらマーリンも施術前に身体を清めなければと急いで帰り支度をして教室から出るのであった。
教室には気絶して放置されたままの学生が二人……
いつまでも学園から戻らない事を心配した父親から派遣された使用人により午後十九時過ぎに発見される事になるのだった。
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