第2話 千客万来
翌早朝である。マリア付きの侍女とメイドたちがケッツの部屋前に行列を作っていた……
なので何時もより起きるのが遅いケッツなのだが、マリア付きの筆頭侍女が痺れを切らしてケッツの部屋の扉をノックした。
「ケッツ様、お願いがございます! どうか起きて下さいませんか!」
少し大きな声で言う筆頭侍女の名はノラ·シャウ。シャウ子爵家の次女であり二十二歳だ。
その声でケッツは目が覚めた。
「う〜ん、その声はノラだよね? どうしたのこんな朝から? 母上のお世話は大丈夫なのかい?」
「はい、マリア様のお世話は全て終わっております。私たちはマリア様の許可を得てケッツ様のお部屋に来ております」
「うん? 私たち? ノラ以外にもいるのかな?」
「はい、私の他にもミセル·ヨーとアネタ·ルイ、ムーン·ライ、ユーカリ·オオシマが来ています。どうか私たちをお部屋に入れて下さいませんか?」
どこか必死な様子のノラの言葉にまだ少し眠いのになあと思いながらケッツは部屋の鍵を開けて扉を開けた。
すると、先ほどノラが言った侍女とメイドがドドッという勢いで部屋に入り、最後に入ったユーカリが鍵を掛けた。
何だか物凄い圧を感じて一歩下がるケッツ。しかしノラは母マリアから学んだ八脚拳の足捌きをもってケッツに迫ると
「私たちにも【
と叫びその場で土下座したのだった…… ケッツが驚いた事に他の者たちもそれに合わせて土下座している。
二分後である。とりあえず落ち着いてとノラたちを立たせたケッツは理由を聞いてみた。
「理由はマリア様です!!」
「マリア様が、マリア様が若返りなされたので!」
「その理由を教えていただきました!!」
「ケッツ様! 私たちは長くマリア様にお仕えして、もう結婚の望みもございませんが!」
「女であることをやめた訳ではありません!」
「「「「「お願い致します! お金ならば今までに貯めた貯金からお支払いしますのでっ! 足りなければ必ず貯めてお支払いしますっ!!」」」」」
謎は全て解けた。昨日、ケッツの手により体の病巣や悪いと思われる部分を按摩で癒し、更には新陳代謝を良くし若返りのツボを押した事により、母マリアが見た目も内面も十代の少女になっているのをノラたちは目の当たりにしてしまったのだ。
そして、ノラたちの言う通りマリアに長く仕えてきたこの者たちは、ノラ、ミセルが二十二歳。アネタ、ムーン、ユーカリが二十一歳と貴族としての結婚適齢期を過ぎていた。
それは決してこの者たちの怠慢などではなく、五人全員が母マリアより八脚拳を学び、自分よりも強い殿方でないとという理想を掲げていた為であった。
母マリアの八脚拳は当代随一と言われる程で、未だにジョブ拳聖となったナッツも勝てた事がないほどである。
そんな母に教えを受けたこの者たちもまた、中々の使い手であり、生半な男では勝てるはずも無かった。
乙女な理由を聞いてケッツは決意した。
「うん、それじゃ一人ずつ施術していくよ。今回は僕のジョブのスキルアップに協力してくれるっていうことでお代は取らないよ。でも次からはちゃんとお代を頂くからね。実は家を出たら按摩師として生計を立てるつもりだから、その時には一人五千レンをお代としてもらうつもりなんだ。でもみんなは母上付きだから一人四千レンにまけておくよ。次からだから今はお金を出さなくて良いってば!」
ケッツの言葉に早とちりしたミセルとアネタがお金を出そうとするのを慌てて止める。
「それじゃノラからで良い? 僕のベッドで悪いけどうつ伏せになってくれるかな?」
「はい! 喜んでーっ!!」
喜び勇んでベッドに飛び込むノラ。実はショタコンであるのは仲間だけが知っている事実だ。
『スーッ、ハーッ!! ああ、ケッツ様の
そんなマリアの内心を知らずに優しくノラの
理由を考えて思い至ったのは、
『そうか、この侍女服のスカートの生地が分厚すぎるんだ!』
だった。昨日マリアは就寝前のナイトドレスだったのでとても薄い生地であった事に気づいたのだ。
しかしケッツは言い淀んでしまう。十二歳の少年に女性に下着になってくれと言うのは確かに言いづらい事だろう。けれどもそれではノラたちの望む結果は得られない。そこで意を決してケッツはノラたちに向かって言った。
「あの、信じて欲しいんだけど今から頼む事は決してスケベ心から言ってるんじゃないからね。実はみんなの履いてるスカートの生地が分厚過ぎて、みんなが望むような結果を得られる按摩が出来ないんだ。だからスカートを脱いで下着になってくれないかな? もちろん、触るのは下着の上からになるけど、見えないように毛布をちゃんと掛けるから」
顔を真っ赤にしながら必死で信じて欲しいと頼むケッツにショタコンではないと自覚していた者たちまでも鼻血を堪えていた。
ノラは既に鼻血を出している……
「ひゃい!! わらひはケッツしゃまを信じまひゅ!!」
鼻血を出しながらノラが直ぐにスカートをパパっと脱いだ。因みに今世の下着は前世と同じように女性はパンティだ。
そして毛布で隠そうとするケッツに向かってノラは言う。
「ケッツ様がやらひい心でしゃわるんじゃないのをわらひは分かっておりまひゅ、でしゅのでそのままで!」
ノラは照れて顔が真っ赤なケッツをずっと見ていたいだけであった……
「う、うん、分かった。有難うノラ。信じてくれて」
『お礼キターッ! もう私いま死んでも良いーっ!!』
そんなノラの内心を知らずに改めてノラの尻に手を置くケッツ。
『ノラは腰の調子が悪いんだね。それと肝臓が悲鳴を上げかけているね。先ずは腰からだね、ここ!』
「ヒウンッ! き、きもひ良い〜!」
『良し、次は肝臓だから尻全体だ!』
「ヒャッ、アンッ、ラ、ラメッ、その手つき、ラメでしゅ〜」
『痛みは訴えてないからコレも大丈夫みたいだ。それで最後は若返りのツボだけど、母上とは場所が違うんだね。便秘気味みたいだし、整腸のツボに近いから両方一緒に押して上げよう』
「ノラ、ちょっと痛むかもしれないけど十秒ぐらいだと思うから辛抱してね」
「エヘヘ〜、らいじょうぶれすよ〜ケッツしゃま〜」
やっぱり痛いのは可哀想だと思いマリアと同じように指に気を入れるケッツ。そして一気に二つのツボを押し込んだ。
「フンッ、ハァーっ!!」
「アヒーッ! ヒャンッ、ラメ、ラメ、ラメーッ!!」
ケッツも前世の記憶があるとはいえ今は多感な十二歳の少年である。艶めかしい声と共に下着に広がる染みを見てドキドキしていた。
それを何とか押し殺してノラに向かって施術は終わったよと告げた。
けれどもノラは腰が砕けて立ち上がれない。見かねたアネタがノラを抱えてベッドから降ろして椅子に座らせた。
そして次はミセルの番であった。
ミセルも躊躇する事なくスカートを脱ぎベッドにうつ伏せになった。
「よろしくお願い致しますケッツ様!」
毅然とした様子のミセルも施術が終わる頃にはアヒっていたのは言うまでもない……
最後のユーカリまで施術を終えた頃にはケッツのジョブ【
「五人とも僕のジョブの成長に協力してくれて有難う。また体に不調とか感じたら何時でも言ってね。次からは一回につき四千レンで請け負うからね」
「「「「「ヒャイ、ケッツしゃま!!」」」」」
五人ともケッツに堕ちたのは間違いなかった……
そして、母マリアが社交に出る度にケッツの按摩のお陰だと言いふらし、話が話を呼んで貴族の奥様方ネットワークにより密かにケッツへの依頼をしてくる奥様方が増えてきた。
それらをマリアはまだ成長途中ですのでと断り続けていたが、不満が爆発しそうな一歩手前で遂に依頼を受け始めた。
その額、一回につき二万レン。しかも若返りのツボは一回目では押せないと伝え、三回目じゃないと失敗するからだという理由もつけた。
それをケッツにも知らせて決してバレないようにしなさいと言う。
マリアはマリアで侯爵家を放逐された後にケッツがお金で苦労しないようにと考え、このような形で奥様方の依頼を受ける事に決めたのだった。その心遣いが分かったのでケッツも文句を言わずに従う事にしたようだ。
こうしてご主人方はつゆ知らずに奥様方が若返っていくのであった。
ケッツの予約は半年先まで埋まっていた……
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