第5話 禁断の知識
「触れないで!」
私が本に手を伸ばした瞬間、ミラの声が響いた。その剣幕に、リリアが小さく震える。
「この本は...危険なの?」
「ええ」ミラは厳しい表情を崩さない。「バルトス機関は、図書館にとって特別な存在よ。特に、その設立に関する記録は——」
言葉の途中、彼女は唐突に黙り込んだ。何か言いかけて、止めたような様子。
私は台帳を開き、確認する。すると、「バルトス機関」の文字の周りだけ、ページが焦げたように変色していた。
「あの...」リリアが恐る恐る声を上げる。「この本が現れたのは、私のせい、でしょうか」
「いいえ」ミラは即座に否定した。「これは...図書館からのメッセージね」
「メッセージ?」
「そう。図書館には意思がある。特に古い図書館は...」
その時、廊下から足音が聞こえてきた。
「リリアお嬢様」厳めしい声と共に、一人の男性が現れる。「そろそろお戻りの時間かと」
「アーサー先輩...」
現れたのは、凛々しい風貌の青年。騎士団の制服に身を包み、腰には剣を帯びている。
「王立図書館の方々」アーサーと名乗った青年が軽く会釈する。「お嬢様の補習指導の時間なので」
「ええ、もちろん」ミラは穏やかな微笑みを浮かべた。しかし、その瞳には警戒の色が宿っている。
リリアが去った後、私は尋ねた。
「あの騎士は...」
「アーサー・グリムリーダー。魔法剣士にして、学院の教員よ」ミラは静かに答える。「...そして、バルトス機関の監視役」
私の手の中で、台帳が再び温かさを帯びた。
そして気付いた。バルトス機関の本が出現した場所——それは『星の標』が消えた、まさにその位置だった。
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