第3話 学院の依頼



「禁書を、盗まれた...?」


リリアの言葉に、ミラの表情が一瞬凍りついた。


魔法学院の図書室で起きた事件の報告を聞きながら、私は違和感を覚えていた。リリアの話す内容と、彼女の態度が微妙にちぐはぐだったのだ。


「盗難の発生から、どれくらい経っていますか?」


「えっと...三日、です」


リリアは視線を少し逸らした。嘘ではないが、全てを語っているわけでもない。前世の図書館での経験が、そう告げていた。


「その本の分類は?」私は重ねて尋ねる。


「古代魔法...に、関するもの」


その言葉にミラが身を乗り出した。「タイトルは?」


「『星の標』...だと思います」


ミラの顔から血の気が引いた。それは一瞬のことだったが、確かに見逃せない変化だった。


「リリアさん」私は慎重に言葉を選ぶ。「その本、本当に盗まれたのですか?」


リリアは小さく震えた。察していた通りだ。


「...消えたんです」彼女は俯きながら続けた。「書架から、光になって...消えていった」


「光に...なった?」


「はい。他の本が不安定になり始めた時、突然...」


その瞬間、ミラが立ち上がった。


「リリア。その本が消えた時、書架の配置を覚えていますか?」


「は、はい。魔導科の参考書と、占星術の本の間...」


「まさか」ミラは呟いた。そして私に向き直る。「藤堂さん、先ほどの分類の理論。学院で試してみていただけませんか?」


私には分かっていた。これは単なる蔵書管理の問題ではない。図書館全体に関わる、もっと大きな何かが動き始めているのだと。


「分かりました」


その時、私の腕の中で、例の台帳が微かに温かさを帯びた。まるで、何かを伝えようとするように。





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