第3話 万引き犯
凶悪犯ばかりを話してきたが、そんな凶悪犯ではなく、それ以外に、別に人を殺すわけでも、強盗したりという、相手に危害を加えるというわけでもない犯罪も、世の中にはたくさん存在している。
「つい出来心で」
というのも、少なくない。
「そのつもりはなかったのに、つい手を出してしまう」
というものだ。
おちろん、最初から計画をしてのことかも知れない。
もっといえば、その手の犯罪は、
「常習性」
というものがあるわけで、たとえば、
「痴漢」
のような、性犯罪であったり、
「万引き」
のような窃盗罪などが、その例であるだろう。
どちらも、初犯ということであれば、
「出来心で」
といえるかも知れない。
さらには、
「動かぬ証拠」
がなかったり、容疑者が、絶対に認めようとしない場合には、
「無実の可能性」
というのも高いというものだ。
「冤罪というのは、警察とすれば、絶対に起こしてはいけない」
というもので、本当であれば、細心の注意を払わなければいけないだろう。
何しろ、痴漢も万引きも、
「現行犯」
でなければいけない。
何しろ、計画性がないものなのだから、あとから、その証拠を探すといっても、出来心であれば、その証拠を見つけることはできない。
そうなると、まわりの一般市民が見つけたり、店主、あるいは、
「万引きGメン」
や、
「見回りの警官や刑事」
が見つけるしかないということになる。
それでも、人がごった返している中で、
「本当にその人が犯人なのか?」
ということを、完璧に証明できるといえるのだろうか?
日本という国は、
「疑わしきは罰せず」
という原則があるくせに、現行犯の場合は、冤罪であっても、
「推定有罪」
ということにされてしまう。
確かに、犯罪の中では、万引きであったり痴漢というのは、それほど罪の重いものではないだろう。
初犯などであれば、有罪になることがなかったり、罰金で済んだりするくらいだ。
特に痴漢であれば、
「刑法犯ではなく、自治体が定める、都道府県条例」
というものに裁定があるということである。
しかし、満員電車の中で、
「この人痴漢です」
などと、皆の前で、叫ばれて、さらし者にされ、そのまま鉄道警察隊に連行されることになってしまえば、その人は、もう犯罪者でしかないということになるのだ。
そうなってしまうと、どうしようもないということになり、もし、その状況を知り合いが見ていた李、会社の人が見ていると、今度会社に出社した時に、まわりの偏見の目がすごいことになるだろう。
会社では、解雇通達を受け、家庭では、離婚問題に発展しかねない。
つまりは、
「社会的制裁」
というものが、重くのしかかってきて、本人とすれば、
「俺の人生は終わった」
ということになるだろう。
そうなると、どうなるか?
「俺を突き出したやつは、ヒーロー気取りでいるに違いない」
と思うと、復讐心は一気に燃え上がるに違いない。
「同じ目に遭わせてやろう」
として、そいつらを付け狙い、満員電車の中で、
「この人痴漢です」
といって、そいつを冤罪として、同じ目に遭わせようということになるだろう。
そうなると、その男は、自分と同じ運命をたどることになり、
「ざまあみろ」
とは思うだろうが、下手をすれば、そこからが、
「復讐の応酬」
という、
「負のスパイラル」
というものを生むことになるのかも知れない。
それを考えると、
「すべての元凶は、冤罪を生んだ、軽い気持ちのヒーロー気分だ」
ということになる。
そして、
「人間というものは、恨みを持つと、精神的に強くなるのかも知れない」
と思う。
しかし、それがいいことなのか、悪いことなのかは分からないのだ。
ただ、この痴漢というのは、実際にいるのも事実であった。
というのも、
「集団で犯行に及ぶ」
という、
「組織のようなもの」
というのが存在する。
ということである。
これは、痴漢だけではなく、万引きや窃盗にもあることだ。本来であれば、警察がマークしたり、内偵をしているのは、そういう集団犯罪の場合だろう。
もっとも、中には、窃盗や空き巣などには、
「一人でも、プロ」
という人もいて、今では少なくはなっただろうが、昔は、そういう人が結構いたということだ。
テレビドラマなどでは、
「警察の犬」
とでもいっていいのかどうか、
警察が、何か内偵を進める時の、
「情報屋」
などとして、
「裏社会を知っている」
ということで、警察と手を組んでいる人もいる。
もちろん、何かの交換条件が存在するのだろうが、本当にそんな状況があるのかどうか、謎だといってもいいだろう。
それこそ、
「昭和時代」
の捜査方法であり、今であれば、バレたりすれば、
「警察官の規定違反」
ということになり、懲戒免職も免れないだろう。
それこそ、
「コンプライアンス違反」
の問題も絡んでくることだろう。
痴漢の場合は、そういう冤罪から、泥沼を巻き起こしたり、下手をすれば、恨みが大きければ、
「殺人事件」
ということに結びついてくるかも知れない。
それを考えれば、どうしようもないスパイラルは、まるで、
「底なし沼」
か、
「アリジゴク」
を思わせる状態に引き込んでしまうであろう。
万引きについてはどうだろう?
置き引きやスリなどというものであれば、
「犯罪集団」
というものが存在するが、
「万引き」
ということになれば、少し様相が変わってくる。
前提として、あくまでも、
「そういうパターンが多い」
ということで、よくあるのが、
「中学生などが、苛めの一環として、虐めている相手に万引きをさせる」
というものもあり、また、
「受験や友達関係でストレスをためた中学生などが、そのはけ口を見つけることができず、つい、万引きに走ってしまう」
ということ、さらに、
「主婦などが、家庭のストレスからか、つい盗んでしまう」
というパターンである。
初犯の場合は、
「苛め」
が絡んでいる以外の、単独犯ということであれば、人によっては、
「自分が万引きを働いた」
という意識すらないくらいになっているかも知れない。
それだけ、世の中には、ストレスをためるだけの
「住みにくい環境」
というものがあり、そこに、
「生活格差」
というものがあることで、ストレスが生まれ、
「そのストレスを解消できず、精神を病んでしまう」
という人もたくさんいて、最近では、
「精神疾患に悩んでいる人」
というのが、たくさんいるということである。
「うつ病」
であったり、
「パニック障害」
あるいは、
「発達性障害」
に代表されるものもあれば、
「双極性障害」
のように、
「相当な種類の薬を飲み続けなければいけない」
ということで、その副作用に悩んでいる人もたくさんいるのである。
社会は、そういう人たちに対して、まだまだ偏見の目で見ている人もいるだろう。
「社会適用能力がないから、精神疾患になった」
と、口では言わないが、そう思っている人もかなりいることであろう。
それを思うと、
「人間の信頼関係なんて、一皮むけば、ろくなものではない」
ということになるだろう。
だから、自分がヒーローになりたいということで、人を簡単に、犯罪者として突き出すことができるのだ。
普通であれば、
「間違いだったらどうしよう?」
と思わないのだろうか?
思わないということは、
「その人が犯罪者であろうがどうであろうが、それは関係ない。俺がヒーローになれればそれでいいんだ」
としか思っていないからだ。
「もし、逆の立場だったら」
と少しでも感じたとすれば、そんなことは絶対にできないはずである。
そういう、
「偽善者のような連中が、本当は犯罪を生んでいるのではないか?」
ということで、そいつらが、復讐を受けたのだとすれば、それこそ、
「自業自得だ」
ということになるだろう。
だが、万引きの場合は、
「苛め」
というものが原因ではないという場合は、
「出来心」
というものか、あるいは、
「常習性によって、やめられなくなっているか?」
ということであろう。
「出来心」
ということであれば、十分に立ち直ることもできるだろう。
しかし、その時に、
「万引き」
というものと、自分の中にある欲望が結びついて。それが常習性に変わるということもお十分にあり得ることだ。
だから、
「最初は、無意識だった」
ということになるだろうが、二回目以降も、そういう人は無意識に犯罪を繰り返すということになるかも知れない。
そういう人は、
「万引きを楽しい」
と思ってやっているのだろうか?
ただ、心の中では。
「万引きを犯罪だ」
という意識がないのかも知れない。
だから、無意識にしてしまうのだろう。
「万引きをしても、誰も困る人はいない」
というくらいに考えているとすれば、それは大きな間違いだ。
「もちろん、貴重品などの高価なものを万引きするのであれば、レベルの違いから、店に大きな迷惑をかけるだろうが、数百円くらいのものを盗むのだから、別に大したことではない」
と思っていることだろう。
しかし、これは、
「お金の大小の問題ではない」
ということになる。
店側とすれば、レジをしめる時、
「1円でも違えば、何度も数えなおしをする」
というところもある。
中には、
「一円くらいなら、軽く補填すればいい」
と思うのだろうが、そんな問題ではない。
確かに、
「数百円くらいのものであれば、大したことはない」
と店側も考えるかも知れないが、それが、数人によっての犯行であれば、その額は大きなものになる。
小さな店舗で、売上が大したことのない店であれば、数千円くらいでも、損失は大きいといえるだろう。
それを考えると、
「犯罪に、大小はない」
といってもいいのかも知れない。
特に、このような
「常習性を伴う」
というものは、恐ろしいもので、本人が、
「辞めよう」
と強く思わなければ、また繰り返すことになるだろう。
何といっても、
「行動に移った時には、無意識」
ということになるのだからである。
いくら、警察や店から、
「犯罪だ」
と言われても、本人に自覚がないのだから、罪の意識がないということで、
「何を悔い改めるというのか?」
ということで、何を言われても、心に響かないだろう。
下手をすれば、それこそが、
「精神疾患のようなもの」
ということで、いくらいってもダメであれば、
「病気ということで、その治療に専念させる」
ということも大切なのだろうが、まわりが、それを分かっていないと、できることではない。
しかも、本人にも自覚がないのだから、もしまわりが、
「精神疾患があるのだから、病院で治療させないといけない」
と思ったとしても、首に縄をつけてひっぱっていくわけにもいかず、どうしようもないということになるだろう。
その間にも、店では被害が起こっていて、世の中には、そういう、
「万引き犯予備軍」
と言われるような人が、結構いるのかも知れない。
「こういう常習性があり、やめることができない人というのは、依存症というものになる人も多いだろう」
つまり、
「買い物依存症」
であったり、
「ギャンブル依存症」
あるいは、
「セックス依存症」
ということで、それらは、自分の中にある欲望を満たすことで、ストレスを解消しようというものであり、こちらも、罪の意識はないだろう。
もっとも、万引きなどのような、
「れっきとした犯罪」
ではないので、それも当然である、
ただ、欲を満たそうとすると、かならず、金が要るというのは当たり前のことで、その金をどうするかというと、貯金で足りなくなると、借金に頼るということになる。
さらに、その借金は、
「悪徳金融」
などから借りたりすると、次第に首が回らなくなり、
「家庭崩壊」
ということに繋がったり、
「風俗で稼ぐ」
ということになるかも知れない。
どちらにしても、
「堕ちていく」
ということに変わりはないのだ。
つまり、
「その時の感情にのみ、救いを求めようとすると、結局、常習となってしまい、抜けられなくなったことで、堕ちていく」
というのを、繰り返すことになる。
それは、まるで、
「麻薬」
のようなもので、そういう状況を、
「中毒」
ということになるのだろう。
そんな中において、一人の万引き犯が見つかった。
その人は、まだ中学生で、初犯ということであった。
おどおどした態度は、
「バックにいじめ問題があるのだろうか?」
ということを想像させたので、捕まえた万引きGメンは、店主に引き渡したのだが、店主とすれば、
「いくら初犯とはいえ、万引きというのは犯罪は犯罪だ」
ということで、交番へ通報することにした。
もちろん、様子を見ていて、彼に事実関係を確認しても、一言も喋ろうとしないからだった。
「このままだと、警察を呼ぶしかないんだけど?」
といっても、少年は、頭を垂れて、返事をしないどころか、顔を見ようともしない。
かなり怯えているのか、それとも、これは芝居だということなのか、
「これが芝居だというのであれば、これほど巧妙な芝居はないだろう」
ということで、
「そんな巧妙なことができるやつが、こんな万引きのような陳腐な犯罪に手を染めるなんて思えない」
と感じた。
最近の中学生というのは、
「何を考えているのか分からない」
というのが、店主の率直な気持ちで、それを考えると、
「自分でも、どうしていいのか分からない」
ということになり、結局
「警察に通報するしかない」
ということになったのだ。
店主も、
「親や学校が先ではないか?」
と考えたが、
「ここに親や学校の先生に来られて、感情的になられでもすれば、こっちの存在が薄くなってしまい、収拾がつかなくなる」
と考えたのだ。
この店長は、どちらかというと、
「事なかれ主義」
なところがあり、
「面倒なことは嫌いだ」
というタイプであった。
それを思えば、
「さっさと警察を呼んだ方がいい」
と思ったのだった。
「しょうがない。警察に通報だ」
というと、少し顔を上げて、初めて店長の顔を見た。
そこには、何か救いを求めるような顔になったが、それは一瞬のことで、覚悟を決めたのか、また下を向いてしまった。
最初は震えていた身体は、もう震えていない。この状況に慣れてきたということなのだとすれば、
「最初から覚悟をしていたのか?」
それとも、
「初犯ではない」
ということになるのか、それを考えると、店長は、
「この少年がよく分からない」
と感じるようになった。
店長は、近くの交番に連絡をした。
さすがにいきなり、警察署への通報まではかわいそうだと思ったのだろう。
「お慈悲だ」
と思ったのかどうか分からないが、それは、少年には関係のないことだと少年は思っているのかも知れない。
そして、しばらくすると、
「制服警官」
がやってきた。
少年は、
「若い警官が来るものだと思っていたが、やってきたのは、自分の父親よりも老けているのではないか?」
と思えるような人が来たことで、びっくりしているようだった。
警官は、店長のいる前で少し事情を聴こうとしたが、なかなか口が重たいのは分かった。
ただ、少年も、
「事実だけに対して、口は開かないまでも、無言では答えてくれるので、警官は、質問をする形で、話を聞くという形になったのだ」
だから、実に早くその場は収まり、
「店長さん、このまま交番に連れていっても構いませんか?」
というと、店長は、最初からそのつもりだったこともあって、
「ええ、かまいません」
という了解を出した。
「警察に任せたのだから、あとは警察との話になる」
ということである。
この時点で、店側とすれば、
「事を大きくする」
というつもりはなかった。
それよりも、
「一応未然に防げたのだから、それでいい」
ということであった。
万引きGメンも、その仕事をちゃんとしてくれたということで、次がもしあれば、ちゃんと検挙してくれるという実績ができたことはよかったと思っている。
何といっても、派遣として雇っているのだから、
「どこの店にでもありえることだ」
という万引きを、ちゃんと検挙するという実績を作ってくれたのはありがたいことだったのである。
万引きによる被害は、さほどあったわけではないが、店の中には、万引きなどの犯罪に対しての警告のチラシを店内の数か所に貼っているので、とりあえずは、それが警鐘となればいいということであったが、そんな簡単なことではないようだった。
交番に連れていかれた少年は、だいぶかしこまっているようだが、最初に捕まってから、少し時間が経過したことで、そこまで怯えている様子もなかった。
警官は、諭すようなものの言い方をしてきたが、少年とすれば、
「鬱陶しい」
という思いはないようだった。
それよりも、少し、心地よさがあるくらいで、その気持ちに対して、本人が一番驚いているようだった。
というのは、
「それだけ、学校というところが、住みにくい環境にある」
ということだろう。
友達も、ろくなものではないし、先生に至っては、威張り散らしていて、そのくせ、自分のことしか考えていないという、
「大人のくせに、根性は腐り切っている」
としか思っていないのだ。
権力を振りかざしてくるくせに、ちょっと生徒が脅せば、何も言えなくなるという、明らかな、
「弱い者には威張り散らして、強いものには巻かれる」
という、実に卑怯な性格だと思っていた。
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