第8話 スケルトンたちとの戦い

 ガシャガシャと動き回るスケルトンたちは、カエデの持つ魔力が付与された剣を警戒しているのか、間合いを測るように足踏みし、踏み込んでこなかった。

――動いてこないなら、こちらから仕掛ける!

 カエデは一歩踏み込み、先頭の一体を肩から腰にかけて袈裟斬りにした。熱を帯びた剣がスケルトンの胸当てを正確に割り、白骨の胴体が崩れ落ちる。


 "必要なのは力ではなく正確な位置と角度だ。"

 授業で何度も繰り返された言葉を思い出す。シグルドが繰り返し見せた動きを体に刻んだおかげで、この一撃には迷いがなかった。


 崩れ落ちた白骨がパチパチと音を立て、灰へと変わっていく。それを見た瞬間、残りのスケルトンたちが同時に突進してきた。


「まとめて相手にするのは面倒だけど……っ!」

 カエデは魔力を剣に込め、炎の輪を描くように、水平に剣を振るう。火の粉が散り、迫り来る3体の腰を陶器を砕くがごとく小気味よく弾け飛ばした。

 ――残りは4。


 その時、戦場を観察するように、群れから離れていた一体が突如として手斧をセルジウスに向けて投げる。


「危ないっ!」

 カエデは鋭く叫ぶと反射的に剣を振り上げ、飛来する手斧の軌道を正確に捉えた。剣が鈍い金属音を立て、斧は壁際に弾かれる。

 その一瞬の隙を見逃さず、三体のスケルトンがカエデに向けて斧を構える。

――正面の一体、狙いは上段から頭部。左が横薙ぎで足。右は下段から腕!


「だあああっ!」

 振り上げて崩れた体制から力ずくで、叩きつけるように右の一体に振り下ろし、真っ二つにする。

 叩きつけた刃先が地面に激突し衝撃が体を持ち上げ、その反動のまま軽く跳躍し横薙ぎを躱すと、そのまま顎を蹴り上げる。顎が砕け、頭蓋骨が宙を舞う。

 空中で剣を正面に構え直し、上段からの攻撃を受け止めると、押し返すように力を込め、わざと後ろに吹き飛ばさせる。

 そして、猫や野生動物を思わせる軽やかな姿勢制御で、音も立てず着地した。


「す、すみません! 助かりました。」

 セルジウスが腰を抜かしたような姿勢でお礼を言ってくる。

「ううん、これが護衛の仕事。 油断しないでね、まだ終わってないから!」


 残りの2体から視線を外さないよう、乱れた体制を立て直すように一呼吸を置く。

 直線的な戦闘では勝ち目がないと判断したのか、二体が間合いを測るようにジリジリと移動していく。


 "後の先を狙う相手に有効なのは、虚を交えた戦法か……"

 カエデは無意識に一体に集中し、攻略の方法を思考してしまっていた。


「カエデさん、気を付けてください! 挟まれています!」

 セルジウスの声にハッと後方の気配を探る。完全にカエデを挟み込んだ二体が、息を合わせたように同時に飛びかかってくる事がわかった。


 カエデは剣を振り上げ、付与魔法に込める魔力を増加させていく。

「はああああああ!」

 剣そのものが高まった魔力により段々と赤い輝きを放っていく。剣を握る手のひらにすら熱が伝わり、皮膚を焦がしているようにも見える。


 "決して後を作らないほどの、一撃だ。"

 上段から斜めに正面の敵を切り払う、頚椎を切断しその勢いのまま、後方の敵の腰を切り払った。同時に魔力の爆発と熱が広がる。

 最後の二体が灰すら残らずに爆散すると、だんだんと小部屋に静寂が戻って来た。

 部屋の温度が下がり、燃え残った魔力の熱が霧散していく。


 カエデが一仕事を終えたといった調子で、自然に剣を収めていると、セルジウスが呆然とした様子で固まっていた。

 カエデは彼の眼の前で手をパタパタと振り、様子を伺っている。

「おーい、セルジウスくーん、大丈夫? ……確かに数は多かったけど、そんなにびっくりした?」


 ハッと我に返ったように首を左右にふると、泡を飛ばす勢いで詰め寄ってきた。

「ちょっ!ちょっと待って下さい、付与魔法の威力を上げるなんてことが、可能なんですか!?」

「え、出来るけど……?」


「確かに古代魔法では、魔力による威力の調整が可能だったと記録にあります! しかし、そうした複雑性を排除して、使いやすくしたものがグリモワールなんですよ!」

――えぇ? シグルド先生、そこまでは言ってなかったよ! 完全に初耳なんですけど!


「いやー、師匠の教えがよかったの……かも?」


「教えがよかった、って。そんな次元で収まる話なんですか?」

 そう言いながらじっとりとした疑うような目線でカエデを見つめている。

――この話題は不味いよ、このままだと、私が勇者だって話につながっちゃう!


 カエデは気まずい気持ちをごまかすように視線を彷徨わせたあと、わざとらしく話題を変えた。

「あ、あはは。あっ! そんなことより、壁画の調査がまだ終わってなかったよね!」


 これ以上話を続けても、進展がないと見切りをつけたのだろう。セルジウスは一度ため息を付くと表情を切り替え壁画に視線を向ける。

「……はぁ、まあ良いです。……あなたの師匠にも興味が湧いてきましたが。」

――ギ、ギリギリセーフ! これって詠唱魔法を練習してたから出来る……ってことなんだよね。無事に帰れたら先生を問い詰めないと!


 カエデは改めて壁画をじっくりと観察する。

 "勇気ありし者"と思われる巨大な人物が身につけている鎧、その装飾が今戦ったスケルトンたちの鎧と類似していることに気がついた。

「セルジウスくん、この鎧って、さっきのスケルトンたちと似てない?」


 セルジウスは、眉間に皺を寄せながら壁画に近づき、しばらくその装飾を凝視していた。そして、頷いた。

「確かに似ていますね。これが単なる偶然とは思えません……。古代の勇者の墳墓、もしくは遺物がこの奥に隠されている可能性がさらに高まりました。」

「へぇ、そういうものなんだ。勇者の遺物! なんだかワクワクする響きだね。」


 セルジウスはカエデの気の抜けた返答に慣れてきたのか、カエデの実力を見て不安が減ったのか、小さくため息をつくだけだった。

「はぁ……そうですね。ここでは、新たな情報を見つけるのは難しそうですね。先に進みましょうか。」

「了解。また敵が出るかもしれない、私が先導するね。」

 そう言って、スケルトンが現れた奥の通路に向かって歩き始めた。

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