脱出劇


 捕えられたスパイとエリシアは、頑丈な鉄の檻に閉じ込められていた。




 敵の見張りが冷たい目で二人を見下ろしながら、警告を与える。




「じっとしてるんだな。変な気を起こすなよ?いいな?」




 そう言ってから見張りは檻を一瞥し、監視を続けるつもりでいた。

 だが、その瞬間、エリシアが突然立ち上がり、檻の鉄格子を掴むと、全力で叫び出した。




「キエエエェええええ〜!」




 高音の悲鳴が檻内に反響し、見張りの男は一瞬動きを止める。鉄格子が激しく揺れ、エリシアの凄まじい声がまるで地獄の底から響くようだった。




「う、うわぁ……」




 見張りはドン引きしながら後ずさりし、顔をしかめたままその場を離れてしまった。




 見張りがドン引きしながら去っていった後、幸運にも彼はポケットから鍵束を落としていた。

鉄格子の外、わずかに手が届きそうな位置にそれが転がっている。




 スパイはその鍵束に気づき、すぐに行動を起こした。




「よし、あれがあれば脱出できる!」




 彼は檻の隙間から手を伸ばして鍵束を掴もうとしたが——。




 ——ガシャ……ガシャガシャ。




「くそ!届かねえ!」




 スパイは叫びながら、手を必死に伸ばすが、あと少しのところでどうしても届かない。鉄格子が邪魔をしてそれ以上手を出すことができないのだ。


エリシアはそんなスパイを横目で見つつ、ため息をついた。




「仕方ありませんわね。ここは私が一肌脱ぎますわ。」




 彼女は鉄格子に手をかけ、何か企むような表情を浮かべながら行動に移そうとしていた。




 エリシアはいきなり牢屋のベッドの足を掴むと、力強く回し始めた。




 ——キュルキュル。




 ベッドの足はネジ切りになっており、簡単に分解できる仕組みだった。エリシアは外れた鉄製のベッドの足をスパイに手渡す。




「はい、これでどうにかしてくださいまし。」




 涼しい顔でそう言うと、スパイは意気揚々と鍵束に挑んだ。




「おお、助かる!これならいける!」




 スパイは鉄の棒を伸ばして鍵束を引っ掛けようとするが——。




「……あれ?」




 鍵束の輪っかが思いのほか小さすぎて、鉄の棒がうまく入らない。




「くそっ!」




 彼は無理矢理引き寄せようと、鍵束を棒の端で押し転がし始めた。




 ——カコ……カコン。




 だが、鉄格子の手前には微妙な段差があり、鍵束が引っかかって動かなくなってしまう。何度試しても、段差を超えられない鍵束にスパイは歯噛みした。




「どうするんだよこれ!せっかくのチャンスなのに!」




 スパイは焦りながらエリシアに振り返った。

 エリシアは顎に手を当てながら微笑を浮かべ、考え込む素振りを見せた。




「そうですわねぇ……もう少し工夫が必要みたいですわ。」




 その様子を見たスパイは、頭を抱えながら次の手をどうするか必死に考え始めた。




 スパイは頭を切り替え、ベッドの足をもう一本使うことを思いついた。二本の棒で鍵束を挟み込むようにして持ち上げる作戦だ。




「こうだ……こうやって鍵を挟めば!」




 スパイが手を動かすと、鍵束が少しずつ持ち上がり始めた。

 エリシアは微笑みながら腕を組み、軽く頷いた。




「そうですわよ!もっと頭を使っておくんなまし。ほら、もう少しですわ!」




 スパイの額には汗が滲むが、手応えを感じている。




「いける……いけるぞ……!」




 だが、その瞬間——。




 ——ツルッ!




 スパイの手が滑り、ベッドの足の一本が鍵束を弾いてしまった。




 ——カランカラン!




 ベッドの足は無情にも転がり、檻の外へと出ていってしまった。




「あぁ!」




 スパイは叫び、檻の外で無力に転がる鉄の棒を見つめる。これで脱出の可能性がさらに遠のいた。

 エリシアは眉間に手を当て、溜め息をついた。




「もう、何をしてますの?そんな簡単なこともまともにできないんですの?」




 エリシアは溜め息をつくと、すぐに立ち上がった。






 鉄の格子の間からスルリと手を伸ばし、牢屋の扉の鍵を器用に外す。






「全く、仕方ありませんわね……。」




 扉を開けて鉄の棒を回収し、何事もなかったかのようにスパイの元へ戻る。




「はい、これを使ってもう一回ですわ。」




 彼女は微笑みながら鉄の棒をスパイに手渡した。




「今度こそ……絶対に成功させる!」




 ——カコ……カコ……。




 スパイは慎重に鉄の棒を使い、鍵束を挟むように持ち上げた。緊張感が高まる中、エリシアは腕を組みながら優雅に微笑む。




「ほらほら、焦らずに。丁寧に動かしてくださいませ。」




 スパイは汗を拭いながら、鍵束を少しずつ自分の手元へと引き寄せていく。二人の脱出劇の成否は、まさにこの一瞬にかかっていた。




 ——ツルッ!




「……あぁ!」




 再び鉄の棒が滑り、鍵束が檻の外で無力に転がる。




 ——カランコロン……。




 エリシアは額に手を当て、イラついた表情で立ち上がった。




「もう!何度同じことを繰り返すつもりですの!?しっかりしてくださいまし!」




 牢の扉を再び開けると、エリシアはまたもや鉄の棒を拾い上げ、檻の中へと戻る。

 スパイは申し訳なさそうに頭を下げた。




「あぁ、すまんすまん。どうも手が滑っちまってな……。」




 エリシアは鉄の棒をスパイに手渡しながら、少し眉を吊り上げた。




「滑るのも一度きりにしていただきたいものですわ。」




 スパイは苦笑いしながら棒を握り直し、再挑戦の準備を始めた。だが、夜はまだまだ長くなりそうだった。

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