エリシーズ・キッチン



 エリシアは新たに料理店を開業した。


 華麗な内装が施された店内は、高級感漂う雰囲気で、オープン初日から期待に胸を膨らませる。




 そこに、ヴァイが開店祝いで訪れる。




 メタリックシルバーのボディがピカピカと輝き、ハイテンションな笑みを浮かべながらドアを勢いよく開けた。




「ウヒョおおおぉ! 店始めたんだってなぁ!?これはビッグニュースだぜ!」




 ヴァイは大声で叫びながら、エリシアに向かって手を振る。

 エリシアは少し眉をひそめながらも、微笑んで答える。




「えぇ。ようこそいらっしゃいましたわ、ヴァイ。」




 ヴァイは店内を見回しながら、どこか落ち着かない様子でキョロキョロしている。




「いやぁ、どんな料理が出てくるのか楽しみだぜ!まさかエリシアが料理店を開くなんて、思ってもみなかったからなぁ!」




 エリシアは優雅に髪をかき上げ、微笑を浮かべたまま言った。




「もちろん、すべて最高級の料理ですわよ。あなたのような乱暴者でも舌を巻く美味しさを保証いたしますわ。」




 ヴァイはニヤリと笑い、席に着く。これから始まる食事に期待を寄せながら、エリシアの店でどんな驚きが待っているのかワクワクしていた。




ヴァイはカウンターに座るなり、目を輝かせて叫んだ。




「おぉ、酒あんじゃん!やっぱ開店祝いには一杯やらねぇとな!」




 エリシアは自信たっぷりに微笑んで頷いた。




「ええ、お手のものですわよ。最高のカクテルをお作りしますわ。」




 ヴァイが注文したのはマティーニ。エリシアは華麗な手つきでシェイカーを振り、グラスにカクテルを注いで——最後に、さくらんぼを串刺しにしてグラスに飾った。


 ——コトン。


 ヴァイは一瞬黙り込んだ。目を細めて、グラスをじっと見つめる。




「……あれ?」




 ヴァイはグラスの中のさくらんぼを拾い上げ、不思議そうに首を傾げた。




「マティーニってよぉ、オリーブだったよなぁ!?これ、なんでさくらんぼが入ってんだ!?」




 エリシアは一瞬固まったが、すぐに困惑した笑みを浮かべて言った。




「えっと……あれ? そうでしたっけ?」




 彼女の完璧な自信が揺らぎ、ヴァイは苦笑いしながら頭を掻いた。カクテルのレビューが、思わぬ勘違いで始まったことに、店内はなんとも言えない空気に包まれた。


 


ヴァイはメニューを見ながら、何か揚げ物が食べたい気分だった。

写真に載っていた輪っか状の揚げ物を指さして注文する。




「これ!」




 ヴァイはテンション高く指差し、エリシアは優雅に微笑んだ。




「お待ちくださいましね〜。」




 ——ジュワァ!




 キッチンから聞こえてくる揚げ物の音に、ヴァイの期待は膨らむ。お待ちかねの揚げ物が運ばれてくると、目の前にはサクサクのイカリングが並んでいた。意外と食べる機会がないものだ。




「やっぱイカリングだぜぇ〜。ガキの頃からよぉ……」




 ヴァイは懐かしむように語りながら、一つ摘んで口に運んだ。




 ——サク……。




「……あれ?」




 ヴァイは口の中で違和感を覚え、黙り込んだ。何かがおかしい。




「エリシアちゃんヨォ?」




 ヴァイが眉をひそめて、少し困惑した表情で呼びかける。




「はい?」




 エリシアは優雅に振り返った。




「おま……」




 ヴァイは不安そうにメニューをもう一度よく見た。そして気づく。




「オニオンリング……」




 彼が食べていたのは、イカではなく玉ねぎだった。




 ヴァイはメニューに目を走らせ、興奮したように叫んだ。


「お、すき焼きもやってるのかよ!? まじでぇ〜!」


 エリシアは優雅に微笑んで頷いた。


「ええ! もちろんですわよ!最高級のすき焼きですわ。」




 テーブルにはぐつぐつと煮えたぎる鍋が置かれ、甘辛い出汁の香りが立ち上る。肉が煮える音に、ヴァイは期待を膨らませ、肉をすくい上げた。それを卵につけて口に運ぶ。




「……」




 ヴァイは一瞬黙り込んだ。その表情にエリシアは緊張が走る。もしや、肉の種類が……?




「うめえ!」




 ヴァイは満面の笑みを浮かべて、喜びの声を上げた。




「やっぱ牛肉だよなぁ!」




 ヴァイは満足げに頷き、エリシアも安心して微笑んだ。




「ええ、そりゃそうですわよ。」




 しかし、次の瞬間ヴァイは笑いながら冗談めかして言った。




「豚肉だったら店にメガ砲ぶっ放すつもりだったぜぇ〜!?」


「お、おほほほほ……」




 エリシアは乾いた笑いを浮かべたが、内心はヒヤリとしていた。危なかった——一応この店は関東エリアにあるが、エリシアはしっかり「牛肉派」でこだわりを持っていたのだ。




 ヴァイは最後のデザートにホットケーキを注文した。




「おぉ、ホットケーキか。じゃあこれ!」




 エリシアは得意げに笑いながら言った。




「お待ちくださいましね〜。天才シェフの私が作りますわよ〜!」




 ——コトン。




 ふわりと分厚いホットケーキが三段重ねになって登場した。間にはたっぷりのメイプルシロップが染み込み、上には大きなアイスクリーム……。




「おお!ホットケーキにアイス乗ってんじゃん!」




 ヴァイは興奮しながらフォークを手に取り、パクッと一口食べた。




 ——も゛っ。




 突然、ヴァイは何かに嘔吐くような仕草を見せて、ワナワナと震え始める。カウンターで洗い物をしていたエリシアは、彼の異変に気づいて顔を上げた。




「え、なんか言いましたの?」




 エリシアは不思議そうに問いかける。

 ヴァイは沈黙の後、怒りに震えながら叫んだ。




「これ……エリシアよぉ……」

「はい?」




 エリシアが小首をかしげた瞬間、ヴァイが怒声を上げた。






「バターじゃねえかよおおおおぉおおおおおぉおおお!」






 ——カチャッ。




 ヴァイの怒りが頂点に達し、彼のマシンガンが!




 ——ヒュババババババババ!




 壁に掛かっていた絵が蜂の巣にされ、穴だらけになった。




 エリシアは慌ててカウンターに隠れながら、ヴァイの怒りをどうにか収める方法を考えつつも、冷静な口調で呟いた。




「あ、言い忘れてましたわね。バターですわよ。やっぱメイプルとバターでしょ!」




 ——ガチャ。




 壁の絵が傾き、バサッと床に落ちる。ヴァイは荒い息を吐きながら、しかしバターの強烈な風味に怒りと苦笑いが入り混じった表情を浮かべていた。

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