悪夢



 都内某所、高層タワーマンションの最上階に住むエリシア。




 彼女の住まいは、まさに豪華絢爛。床から天井まで広がるガラス窓からは、東京の街並みが一望できる。煌めく夜景も、朝焼けの美しさも、すべて彼女のものだった。


 キッチンにある巨大な冷蔵庫を開ければ、中には高級なドリンクがぎっしりと並んでいる。高級なラベルが光を反射し、冷たい空気が漂った。エリシアは何も気にせず、そのうちの一本を手に取った。




「ふふっ、朝から贅沢ですわね。」




 優雅な朝食は、焼きたてのクロワッサン、厳選されたフルーツ、そして濃厚なエスプレッソ。最新の家電が完璧に調理した料理は、エリシアの理想そのものだった。


 彼女は果汁100%ブドウジュースの栓を抜き、軽やかに泡を注ぎながら、余裕たっぷりに窓の外を眺めた。




「これが私の生活……全て、思い通りですわ。」




 エリシアの微笑みは、どこか冷たく、しかしどこまでも優雅だった。




 エリシアは、タワーマンションの地下駐車場に停めてある自身のメルセデスEクラスへ向かい、颯爽と乗り込んだ。エンジンの音は静かだが、力強さを秘めている。彼女はシートに身を沈め、優雅にアクセルを踏み込んだ。


 東京の街をスムーズに駆け抜けながら、エリシアは道路を支配するような余裕の表情を浮かべている。彼女が到着したのは、ビルの最上階にある自身のオフィス。大理石の床が光を受けて輝き、彼女の登場を歓迎するかのように感じられた。


 オフィスに足を踏み入れると、優秀なアシスタントがすぐに駆け寄り、矢継ぎ早にスケジュールを告げ始める。




「エリシア様、本日の予定です。10時に取引先とのオンライン会議、その後11時には新プロジェクトのプレゼン準備。そして13時にはランチミーティングが……」




 エリシアは涼しげに頷きながら、何事も完璧に掌握しているかのように振る舞った。




「ええ、分かりましたわ。すべて予定通りに進めなさい。遅れは許しませんわよ?」




 アシスタントはその言葉に緊張しながらも、迅速に指示をこなしていく。エリシアは自信に満ちた笑みを浮かべ、今日もまた、自分の支配する世界を完璧に動かしていく準備を整えた。




 エリシアはクライアントとの豪華なディナーに臨んでいた。




 シャンデリアの光が煌めく高級レストランの個室。白いテーブルクロスの上には、美しく並べられた料理が所狭しと並び、特に目を引くのは高級キャビアと贅沢なシーフードの盛り合わせだ。


 彼女はワイングラスを片手に、優雅な笑みを浮かべながらクライアントに話しかける。その言葉は一見すると和やかだが、その裏には冷静な計算が潜んでいる。




「ふふ……この件については、多少の調整が必要かもしれませんわね。」




 彼女は巧みに会話を進めながら、表には決して出せない金の話に入り込んでいく。億単位の契約金、秘密裏に進められるプロジェクト、それらがまるでゲームの一手であるかのように交わされていく。


 クライアントはエリシアの余裕たっぷりな態度に感心しながらも、その言葉の意味を慎重に考えている。ディナーの会話は、絶妙な駆け引きと取引で満ちていた。




 食事が終わる頃、テーブルの上にはわずかにキャビアが残されていた。




 しかし、それすらも掬うことなく、すべて片付けられる。エリシアにとって無駄なものはない——どんな細かい部分もすべて管理され、計算されているのだ。


 彼女は最後にもう一度ワイングラスを傾け、完璧な笑みを浮かべてディナーを締めくくった。




「では、今後ともよろしくお願いいたしますわね。」




 クライアントはその言葉に頷き、エリシアの掌で転がされるように、次の一手を握られていた。

 





 「はっ!?」






 エリシアは慌てて布団から起き上がった。




 豪華絢爛な寝室の天蓋付きベッドから飛び出した彼女は、息を荒らげて周囲を見回す。




 時刻は朝。




 ふんわりとした金色のカーテンから差し込む陽光が、宮殿の美しい部屋を照らしている。傍らには、可愛い少年の使用人が心配そうな目でエリシアを見ていた。




「エリシア様、どうなさいました?」




 少年は驚いた表情で問いかける。


 エリシアはしばらくぼうっとしていたが、すぐに冷や汗をかきながら深く息をつく。




「……悪夢ですわ。」




 彼女は額の汗を拭いながら、呆然と呟いた。




「なんて恐ろしい夢を見たのかしら……。自分が、貧乏になる夢ですわよ。たかが東京のタワマンに住んでいて、しかも自分で車を運転してオフィスに向かうだなんて……!」




 エリシアはゾッとした様子で、夢の中の自分を思い出す。




「悪い冗談ですわね……。」




 彼女はベッドから優雅に立ち上がり、宮殿の豪華な装飾品や、輝くシャンデリアを見回して安堵した。これこそが自分にふさわしい生活だ。使用人たちが優雅な朝食を準備しているのを感じながら、エリシアは少しずつ気持ちを落ち着けた。




「……まあ、夢でよかったですわ。」




 彼女は使用人の少年に微笑みを向けた。




 そして、再び贅沢な朝が始まる。



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