ぜひお越しください!



 魔王の威圧感が、薄暗い洞窟の中に響き渡る。




 勇者は、自分の剣をしっかりと握りしめ、身体の震えを抑え込もうと必死だった。魔王の力が目の前に現れ、その異様な雰囲気が、勇者の心に不安を植え付ける。




「いったい、どれほどの力を秘めているのだ…!」




 魔王は、自らの魔力を解放し、周囲の空気がゆがむ。赤い光が彼の周りに渦を巻き、まるで夜空に浮かぶ星々がその力に反応しているかのようだった。




「愚かな勇者よ、そんな小さな剣で私に挑むとは! これが私の真の力だ!」




 その瞬間、魔王は手を一振りし、空間が歪み、岩が崩れ落ちる。勇者は避けようとするが、体が動かず、恐怖が全身を支配する。




「く、これが魔王の力…」






 「そこの君!諦めるのはまだ早いぜ!」






 そこには、いかにもフィットネス好きそうな男が現れた。彼は力強いマッスルボディを披露し、笑顔で手を広げている。




「??」




「スーパージムなら、たった三ヶ月でこのマッスルボディ! 充実した設備!広いシャワー室!そして、なんとサウナまで!」




 勇者は目を丸くした。


「オーマイガーなんてこった!」


「でも高いんだろ……?」




 男は自信たっぷりに続ける。


「月額、たったの3,980円!」




「うわ!まじかよ!」


 勇者の心が揺らぐ。




「しかも入店するたび『プロテインバー無料券』がもらえる!」


「これはいくしかねえな!」




 だが、勇者は少し悩んだ。


「でも仕事が忙しいしなぁ……」




 男は笑顔を崩さず、再び強調した。


「ノープロブレーム!例えばこんな使い方もできる!」




「え?どういうこと?」




「『あ、そうだシャワーだけ浴びて帰ろ』とか、『プロテインバーだけ食べて帰ってもいいのかなぁ?』なんてこともできる!」




 勇者は驚いた表情で言った。




「おお!」




 その時、魔王がじっと二人を見つめていた。




「さあ、君も今すぐスーパージムへ!今ならノースフェースのバッグもらえちゃう!?」




 魔王は、勇者とそのフィットネス仲間が楽しそうに会話する様子を見て、呆然と立ち尽くしていた。彼の表情は、驚きと困惑に包まれている。




「え、俺は?」




********************




 薄暗い洞窟の中、冒険者たちは緊張感を抱えながら進んでいた。


 湿気を含んだ冷たい空気が肌を刺す。




 すると、ひとりが不意に罠を踏んでしまい、周囲が急に静まり返った。




「やばい、何か起こる!」




 その瞬間、耳をつんざくような音が響き、天井がゆっくりと落ち始める。重い岩が少しずつ迫ってきて、彼らの心に恐怖を植え付ける。




「そこの君!諦めるのはまだ早い!」




 冒険者たちは驚いて振り返ると、陽気な男が立っていた。男はトレーニングウェアを身にまとい、まるでどこかのジムの宣伝をしているかのようだ。




「なんと今なら入会金が無料だ!」


「でも、月々の支払いが高いんじゃないの?」




 男は自信満々に胸を張る。




「月額2,980円!やっすうううい!」




 彼の声に、冒険者たちの興味がわいてくる。男はさらに続けた。




「充実したトレーニング機器!選べるプロテインバー!そして、なんとサウナまで!」


「まじで!?行かなきゃ!」




 別の仲間が目を輝かせたが、すぐに不安を口にする。




「でも仕事が忙しいんだよね〜」




 男は明るい表情を崩さずに言った。




「そんなの気にしないで!こんな使い方もOK!プロテインだけ飲んで帰っても、シャワーだけ浴びても、なんだったら仮眠だっていけちゃうんです!」




「ええええぇ!?なんだってええええぇ!?」




 冒険者たちの興奮が高まるが、冷静に考える者もいた。




「でも初心者には厳しいんじゃないの?」




 男はニッコリと笑って答える。




「いいえ!24時間体制でトレーナーが待機!あなたのレベルに合わせたトレーニング方法を提案いたします!」




「今ならノースフェースのバッグもプレゼント!無くなり次第終了!」




 その時、天井が一段と低くなり—




 ——ドシン!




 全員、天井に潰された。




********************




 仲間の一人が強敵の一撃を剣で受け止めた。




 強烈な衝撃が彼の体を揺らし、周囲の冒険者たちが心配そうに声を上げる。




「俺がなんとかする!お前らは先へ!」




 仲間の一人が目を大きく見開き、必死に叫ぶ。




「必ず生きて戻ってこいよ!」




「安心しろ!あぁ大丈夫だ!」その言葉に自信を込めて応じる仲間だが、表情は不安に満ちていた。




 だが、敵は容赦なく攻撃を続ける。




「グゴゴゴゴ!死ねい!」




 仲間はその声に身をすくめながら、冷静さを保とうとしていた。心の中で独り言をつぶやく。




「ふっ……すまんな、どうやらここが俺の死に場所らしい」




 彼は周囲を見渡した。後ろには逃げ道がなく、反撃に転じる余裕もない。剣を握りしめながら、ただ耐えるしかない状況だった。


 敵の攻撃が再び迫り、彼は力を振り絞って剣を構えるが、次第に力が抜けていく。




「もう後ろにも引けない。もう終わりだ……」




 「——そんなことってありますよね〜!でも大丈夫!スーパージムで体を鍛えればたった三ヶ月で、こ〜んなボディに!」




 その時、突然、別の冒険者が元気よく叫ぶ。




「ムキムキィ!」




 その声にみんなが振り返る。彼は興奮した様子で続ける。




「充実したトレーニング機器!プロテインの在庫も豊富!そして、なんとサウナまで完備!」




「ええええぇ!スーパージムさん、やりすぎじゃない!?」




 仲間の一人が笑いながら疑問を投げかけた。




「でも高いんでしょ?」




 彼は自信満々に言い放つ。




「月額な、な、な、なんと!2980円!」


「まじかよ!」




 その言葉にみんなの目が輝く。彼はさらに続ける。




「初心者から上級者まで幅広く対応!24時間体制であなたのトレーニングを見守ります!」




 その時、別の仲間が首をかしげる。




「でも休みが取れないしなぁ……」


「こんな使い方はいかがでしょう!?」




 彼はニヤリと笑って提案する。




「プロテインバーだけ食べる、シャワーを浴びにくる、待ち合わせの時間潰しまで出来ちゃいます!スーパージムは来てくれるだけで大感謝!」




「ウッヒョおおおおおぉ〜!」




 仲間たちが楽しそうに盛り上がっている中、天井の隙間から光が差し込んでくる。




「今ならなんと、入会した方にノースフェースのバッグを贈呈します!無くなり次第終了です!」




「急げえええええ!待ってろよおおおおおぉ!」




 しかし、その瞬間、敵の剣が突然彼の額にめり込んだ。仲間たちの声が止まり、静寂が訪れる。




 グシャ。




 全てが暗転した。






 ——というYouTube広告を見ていたエリシアは、眉をひそめながら画面を見つめていた。




「なにこれ?」




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