快適な海の旅をどうぞ



 夜、エリシアは国内の某所にある「イカフェリー」に乗っていた。




 2階の広場にあるソファーにリラックスして座り、テレビを見ていると、突然、天井のエアコンの吹き出し口が外れてしまった。




 次の瞬間、なんと忍者が降ってきた!




「いや、拙者は忍者ではござらんよ!」




 忍者は地面に着地するや否や、慌てた様子で言葉を発した。その言葉に、エリシアは驚きながらも、何が起こっているのか理解できずに目を見張った。


 忍者はそのまま、上から降ってきた煙玉や手裏剣、小刀を撒き散らしながら、すぐにどこかへ消えていく。煙が立ち込め、周囲が一瞬にして騒然とした。


 エリシアは状況が把握できないまま、驚きと興奮を抱えつつ、忍者の姿が消えた後の混乱した空間を見回していた。




 エリシアは「イカフェリー」の2階を歩き回っていると、ふと目に留まったのは幻の自販機、「ホットサンド自販機」だった。




 目を輝かせてその前に立ち、ワクワクしながらボタンを押した。




「これでホットサンドが食べられるなんて、最高ですわ!」




 すると、ゴトッ!という音がして、取り出し口から何かが出てきた。




 期待に胸を膨らませたエリシアが待っていると、出てきたのはアルミホイルに包まれたホカホカのホットサンドではなく、なんとピッタリ体温の忍者が取り出し口に挟まっていた。




「忍者ではござらん……」




 忍者は困惑した表情を浮かべて、もがきながら言った。エリシアはその光景に驚き、すぐに反応した。




「どけこら!いや、金返せですわ!」




 彼女は忍者を押し退けようとするが、忍者は動けずに挟まったまま、エリシアに向かって申し訳なさそうに目を合わせた。




 エリシアは車内に忘れ物があることに気づき、急いで駐車場に向かった。




 自分の車、NISSAN_RASHEENのところにたどり着くと、トランクを開けた。だが、そこには何も入っておらず、忍者がいるわけもなかった。




「そりゃそうですわね…」




 エリシアは肩をすくめ、その場を去ろうとした。




 その瞬間、彼女の目に入ったのは、タイヤ留めがあるはずの場所に寝転がっている忍者だった。




「拙者は忍者ではありませぬぞ〜」

「ああぁん!?」




 エリシアは忍者を思い切り転がしてやった。




 エリシアは再びホットサンドを食べながら、ゆったりとした時間を楽しんでいた。そんな中、船内にアナウンスが流れてきた。




「この船は伊賀行き〜、伊賀行きとなっておりまするぞ。」




 その言葉を聞いたエリシアは不審に思い、思わずホットサンドを口に運ぶ手を止めた。


 自分がどこに向かっているのか、今一度確認しようと、案内掲示板を頼りに放送室へと向かった。


 放送室の扉を開けると、そこにはまたしてもあの忍者がいた。




「拙者は忍者ではござ……」




 エリシアは忍者の言葉を遮り、すぐさま反応した。




「淡路島やろがい!」




 彼女はその場で忍者を放送室から蹴り出し、忍者は驚きの声をあげながら扉の外へ転がり出た。




 エリシアは船の甲板に出て、夜景を楽しんでいた。




 静かな海の上に輝く星々が美しく、心が癒されるような時間を過ごしていた。しかし、ふと目を向けると、手すりに何やら見慣れないものがかかっているのに気がついた。




「……フック?」




 その瞬間、どこからともなく聞こえてきた声が耳に入った。




「拙者は忍者ではござらぬぞおおおおおおおぉ!」




 驚いて下を見ると、忍者がロープに捕まって、海面を滑走している姿が目に入った。


 彼は必死にしがみつき、焦りながらもバランスを取ろうとしている。エリシアはその光景を見て、気持ち悪がるように顔をしかめた。




「もう、本当にしつこいですわね…」




 エリシアは、忍者の姿を無視することもできず、フックをそっと外すことにした。




 手すりからフックを取り外し、どこかに投げ捨てようとしたその瞬間、忍者は海面でさらに滑走を続け、エリシアの行動には気づいていないようだった。




 後日、エリシアはふと思い出して、「イカフェリー」についてネットで調べることにした。パソコンの画面に向かい、検索を開始する。




「イカフェリー…」




 数回クリックして情報を確認していくうちに、目に入ったのは驚くべき事実だった。




「数年前に運行終了しているらしい。」




 エリシアは目を丸くして、その情報を再確認した。


 自分があのフェリーに乗っていたなんて、信じられないことだった。どうやって自分がその船に乗れたのか、そして何が本当に起こっていたのか、一瞬頭の中が混乱した。




「まさか、あれは…」




 考えを巡らせながら、エリシアはパソコンの画面を見つめたまま、しばらく静かにしていた。彼女の心には、あの不思議な体験がいつまでも残り続けていた。

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