助けて!エリシア!



 ゴブリンは痛みに耐えながら、三人組の男たちに弄ばれていた。


 泥で作られた団子を無理やり口に押し込まれ、耳をビンタされるたびに、彼の心はますます絶望に沈んでいった。


 その時、不意に鋭い声が響き渡った。




「お待ちなさい!」




 男たちが振り返ると、そこにはエリシアが立っていた。


 金髪が風になびき、冷たい眼差しで三人組を見つめていた。


 エリシアは一言も言わず、男たちの方にゆっくりと歩み寄り、冷ややかな目を向ける。


 男たちはその威圧感に気圧され、急に態度を変えて大人しくなった。

 何かを察したかのように、彼女に頭を下げると、エリシアは軽く手を振って合図した。




「じゃ、この辺で」




 その言葉を聞くと、男たちは無言で立ち去り、何事もなかったかのようにその場を去っていった。ゴブリンはその光景に目を見張り、何が起きたのか理解できないまま、ただ呆然としていた。


 エリシアは、去っていく男たちの背中に向かって、柔らかく微笑みながら言った。




「また、電話しますわ〜」




 しかし、ゴブリンにはその言葉の意味が全く理解できなかった。彼はただ、エリシアの存在に驚きながらも、何も言えずに立ち尽くしていた。




 エリシアとゴブリンは、公園のベンチに並んで座っていた。


 ゴブリンは先日の出来事を思い出し、エリシアに抗議するために口を開いた。




「この間、あんたからもらった『魔法の通信講座ビデオ』、全然役に立たなかったぞ!何度も見て、呪文を唱えたけど、何も起きなかった!」




 ゴブリンは不満をぶつけるが、エリシアは彼の言葉にほとんど反応を示さない。彼女はスマホを取り出し、指で画面を滑らせながらゲームに夢中になっていた。




「だから、魔力がないんでしょ」




 エリシアはゲームに集中しながら、まるでゴブリンの話がどうでもいいかのように、軽い調子で返事をした。


 彼女の言葉には全く興味がなさそうなトーンがあり、ゴブリンはますます苛立ちを感じた。




「いや、そんなの聞いてないぞ!金返せ!」




 ゴブリンは怒りを露わにするが、エリシアは相変わらずゲームに夢中で、まともに相手にしない。彼女の気の抜けた態度に、ゴブリンはただ困惑するばかりだった。




 エリシアはゲームに飽きたのか、スマホをしまい、カバンをゴソゴソと探り始めた。


 そして、怪しげな小さな袋を取り出し、中を覗き込んで微笑んだ。袋の中には、黒い粒のようなものが詰まっていた。




「これはミキプル……、じゃなくて魔力の実ですわ!」




 エリシアは袋をゴブリンに見せながら、得意げに説明した。


 黒い粒は一見、何か怪しげなものに見えるが、エリシアはそれを「魔力の実」と称していた。ゴブリンは訝しげにエリシアを見つめ、さらに疑念を抱きながら尋ねた。




「どこでそんなものを手に入れたんだ?」




 その問いに対して、エリシアは一瞬言葉を詰まらせ、視線をそらしながら口ごもった。




「まぁ、……ドンキで」




 その答えにゴブリンはさらに困惑し、エリシアの説明をどう受け止めていいのか分からずに黙り込んだ。


「魔力の実」として売られているものが、本当に魔力を持っているのかどうかは全く信じられなかったが、エリシアの真剣な様子にゴブリンは何も言えずにいた。




エリシアは「魔力の実」の袋を軽く振りながら、ゴブリンに向かって甘い言葉をかけた。




「本来なら100,000Gもする代物ですわよ。けれど、今回は特別に、消費期限が近いということで……50,000Gで譲ってあげますわ」




 ゴブリンはその言葉を聞いて、迷いながらも財布を取り出した。彼の心の中では、エリシアが信頼できるのかどうかを疑いながらも、少しでも強くなりたいという気持ちが勝っていた。




「50,000Gか……」




 ゴブリンは財布の中を見つめ、しばらく悩んだ後、ついに決心して札束を取り出した。だがその瞬間、エリシアは彼の手から札束をひったくるようにして奪い取った。




「はい、これで取引成立ですわ」




 エリシアは無造作に「魔力の実」の袋をゴブリンの手元に置くと、そのまま立ち去るような仕草を見せた。


 ゴブリンは手元に残された黒い粒の入った袋を見つめ、騙されていないかという不安と、これが本当に役に立つのかという期待の間で揺れ動いていた。




 ある日、ゴブリンは再び三人組の男たちに絡まれていた。


 これまでの彼なら、ただされるがままに耐えるしかなかったが、今日のゴブリンは一味違っていた。


 エリシアから手に入れた「魔力の実」の力を信じ、彼は自信に満ちた表情で男たちを睨み返した。




「今日でお前らともおさらばだ!喰らえ!アイスニードル!」




 ゴブリンは手を突き出し、魔法の呪文を叫んだ。




 しかし、期待とは裏腹に何も起こらなかった。

 男たちは一瞬驚いた顔をしたが、すぐにその無意味さを理解し、嘲笑を浮かべた。




「なんだ、それ?」




 ゴブリンは焦りと戸惑いの表情を浮かべ、もう一度手を突き出して呪文を唱えようとしたが、何も起こらないまま男たちに囲まれ、力なく路地裏へと引き摺り込まれていった。




 その時、たまたま通りかかったエリシアがその光景を目にした。




 彼女はゴブリンの無惨な姿を見て、一瞬立ち止まったが、冷ややかな微笑みを浮かべ、半笑いで通り過ぎた。




「……ふっ」




 その一言を残して、エリシアは何事もなかったかのように歩き去っていった。

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