第11話 友達っていいよね
翌日、僕は腹時計で朝食の時間ピッタリに起き、いつものように食事を平らげると、自室でゆっくりしていた。
すると、ベットの上のスマホが鳴った。
何かと思えば、来栖からのLINEだった。
来栖【やっほー!元気?突然だけど、今日の16時くらいに渡邊引き連れて病院にお見舞い行くわ。直人!首洗って待っとけよ!(笑)】
直人(相変わらずふざけた文面で送ってきたな、こいつ)
と思ったが、久々の友人からのLINEに、僕は少し嬉しくなった。
【OK、楽しみにしているわ】と返信をしたところで、僕はこう思った。
直人(いや待てよ…学校で発狂した時【さっさと失せろ!】なんて言われたけど…来栖は僕のこと本当に親友って思っているのかな…)
そう考えると、会うのが途端に怖くなってしまった。
しかし、もしかしたら統合失調症の症状でそう聞こえたのかもと、自分に言い聞かせてなんとか気持ちを落ち着ける。
横になりあれこれと考え事をしていると、突然コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
「相沢さ~ん、入りますよ」
ガラガラッ
入口の方を見ると、そこには女性の看護師さんが立っていた。
看護師「相沢さんおはようございます。今日の調子はどうですか」
直人「おはようございます。まぁ…良いっちゃ良いかもですね」
看護師「そうですか!それは良かったです!あっ今日の14時からOT室で卓球をするので、よろしければ相沢さんも来てくださいね」
直人(14時ってかのんさんとの約束の時間じゃないか…どうしようかな…)
一瞬その考えがよぎったが「あっは~い」と間延びした返事をしてその場はやり過ごした。
直人(さて、今日も楽しい一日になりそうだ)
そう思い僕は、午後に余力を残すためにガッツリ2度寝した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ピロピロピロ ピロピロピロ
13時50分にアラームを設定していたため、時間になりスマホがうるさいくらいに鳴っている。
直人「ね…ねむい…」
朝に眠った後、そこから昼食をとるために起き、食ってからまた寝るというかなりのロングスリーパーぶりを発揮したのにもかかわらず、まだ眠い。
こんなにも眠いのは病気のせいだと主治医から言われており、理解はしているのだが、辛いものは辛い。
とにかく、あやかさんに会わなくては。その一心で、重い体をベッドから起こし、洗面台に行き身だしなみを整える。
直人「こんなものでいいかな」
決してベストとは言えないが、最低限女の子に会う身なりにはなったので、部屋の外へ出る。
病室の角を曲がると、やはり彼女がいた。
僕は嬉しくなり、眠気を忘れ、自然と笑顔になる。
最初に話しかけてくれたのは、向こうからだった。
かのん「あっ!やっほー!直人くん!あれ?元気なさそう…?」
直人「やぁ、かのんさん。いやちょっと眠くてね」
かのん「大丈夫?ちゃんと昨日寝た?」
直人「あぁ…うん結構ガッツリ寝たんだけど、病気の症状でどうも眠気があるらしくて…」
かのん「そうなんだ…それは辛いね…眠いの限界な時は、無理せず部屋に戻っていいからね」
直人「うん!ありがとうね。でも寝起きで眠気が残ってるだけだと思うし、すぐ治るから大丈夫だよ」
かのん「そう?それならいいんだけど…」
直人(めちゃくちゃかのんさんに心配された…ありがたいけど気を遣わせちゃって申し訳ないな)
と思い、僕は元気を装いつつ会話するようにした。
直人「ところで、OT室でこれから卓球やるらしいんだけど、かのんさんは参加するの?」
かのん「あっうん!久しぶりに体動かしたいからやろうかな」
直人「そうなんだ」
かのん「直人くんはやらないの?眠気覚ましになるかもよ!」
直人「どうしようかな…」
かのん「あっ!体調悪いんだったら無理にする必要ないけど…でも私は直人くんと一緒に卓球ができたら嬉しいなぁ…なんて!」
僕はその言葉に正直ドキッとしたが、ポーカーフェイスでここは応答する。
直人「うーん…じゃあそこまで言うなら、いい機会だしやろうかな」
かのん「ホント!ありがとう!」
そんな会話をしていると、時刻はとっくに2時を回っていた。
OT室にはすでに卓球台が設置されており、ぞろぞろと看護師さんや入院患者が部屋に入っていく。
直人「そろそろ始まるみたいだし、僕らも行こうか」
かのん「うん!」
部屋の中には、10人くらいの人がいた。
直人(こんくらいの人数ならあまり疲れなさそうかな)
僕は人の少なさに安堵した。人混みは苦手なのでこのくらいの人口密度だと助かる。
僕らはOT室の中の廊下側にある椅子に腰かけた。
2人の看護師さんが正面にあるホワイトボードの両脇に立ち、ルール説明を始めた。
ルールとしては、2人1組になり、10分ごとに交代。時間内であれば、試合をしてもいいし、ラリーをし続けてもいいということだった。
ペアは、組みたい相手がいれば自由に組んでもいいし、特にいなければ看護師さんがくじによって決める。
いつの時間に卓球台を使えるようになるのかは、あらかじめ決められており、僕らは14時10分に来るよう指示された。
それまではOT室から出て自由にしていてもいいとのことなので、いつもの椅子に二人で腰掛けた。
かのん「卓球するの楽しみだね!直人君は卓球やったことあるの?」
直人「中学時代、卓球部だった友達と軽くお遊びでやってたくらいかな」
かのん「ほんと!良かった~。私、ほとんどやったことないから教えてくれる?」
直人「あぁ、もちろんいいよ!でも、僕もそんなにうまくないからあまり期待しないでね」
かのん「うん!全然いいよ!ますます楽しみなってきたよ~」
そんな会話をしていると、あっという間に10分が経過した。
直人「時間だね。じゃあそろそろOT室戻ろうか」
かのん「うん!」
OT室の扉を開けて中に入ると、看護師さんが僕らに声をかけてきた。
看護師さん「あっ、相沢さんと安藤さんですね!では、このかごの中からラケットを選んでください」
そう促され、長机の上にある大き目のかごの前へと移動する。
かのん「ねぇ…これって持ち手が違うのが2種類あるけど、どっちを選べばいいの?」
直人「あぁ、自分のやりやすそうな方でいいと思うけど、個人的には持ち手が真っ直ぐになっている方が好きかな」
かのん「なるほど…じゃあ私もそっちにするよ!」
ラケットを選び終わり、僕らは自然と卓球台のほうへ移動し、それぞれ向き合う。
看護師「では20分になるまで楽しんでくださいね。何か困ったことがあったら言ってください」
直人「はい、分かりました。じゃあかのんさん、とりあえず僕からサーブを打つから、君は僕のコートにワンバウンドするように球を返してみて」
かのん「うん、わかったよ!」
直人「じゃあ行くよ!それ!」
そういって僕は、かのんさんのコートめがけて、山なりにゆるいカーブを描いて球を打った。
かのん「わわっ!えーと…おりゃ!」
かのんさんは懸命にラケットを振ったが、球にかすりもせず、ポーンと彼女の背後へと消えていった。
かのん「あ…あれ?…あははっ!ごめん直人君、失敗しちゃったよ!」
快活に笑う彼女に釣られて、僕も思わず笑ってしまった。
直人「はははっ!まぁ最初だから仕方ないよ!えっと、最後まで球の行方を目で追ってみようか。で、打てそうなら打ってみよう」
かのん「う…うん分かった…」
直人「じゃあもう一回行くよ?せーの、ほい!」
今回も、球のスピードはかなり遅く山なりだ。
かのん「落ち着いて…落ち着いて…えっと…こうかな?」
そう言って彼女は今度こそしっかりとラケットに当てることができ、球は、こちらのコートへはじき返された。
直人「おっ、かのんさんやったね!今回はちゃんとこっちに球が返ってきたよ!2回目なのにここまで出来るなんて…すごいよ!」
かのん「エヘヘ…直人君にそう言って褒められると、なんだかとても嬉しいよ」
直人「じゃあこの調子で、ラリー続けてみようか」
かのん「うん!」
そういって僕はまた山なりに球を打つ、それを易々とかのんさんが打ち返す。
僕は返ってきた球を今度は少し強めに打ち返す。
すると、それもいとも簡単にラケットに当てる。
直人(いやちょっと待て、いくらなんでも物覚え良すぎないか!?)
と、僕は驚きを隠せなかった。
そんな風にラリーをしばらく続けていると、彼女が球を空振りしてしまったため、ひとまずやめることにする。
直人「すっ、すごいよかのんさん!初心者なのにこんなにもラリーが続くなんて!もしかして運動神経いいほう?」
かのん「ありがとう!いや全然私運動できないよ~」
直人「ほんとぉ?じゃあもしかしたら卓球の才能に目覚めたのかもね」
かのん「そうだと嬉しい!てか、直人君私のこと褒めすぎ!そんなに褒められると照れちゃうよ…」
直人「あっ、あぁごめんごめん!でも本当のことだよ?じゃあとりあえず時間までもう少しラリーの練習してようか!」
かのん「うん!」
そういって僕らは、時間になるまでひたすらラリーを続けた。
ピピピピッ ピピピピッ
卓球に夢中になっていると、ふいにアラームが鳴った。
看護師「じゃあ時間になったのでお二人とも交代してくださいね」
直人・かのん「はーい」
僕らは看護師さんの指示に従い、速やかに退室の準備をする。
かのん「もう!10分って短いよ!もっと、やっていたかったのに…」
かのんさんはなんだかご立腹のようだ。
直人「確かにね。僕もなんだか消化不良だよ」
僕らは後ろ髪を引かれる思いでOT室から出ていった。
自然な流れでいつもの椅子に横並びで座ると、あやかさんの方から話しかけてくれた。
かのん「私、卓球がこんなに楽しいものだとは知らなかったよ!また直人くんとやりたいな」
直人「そうだね、僕もそう思うよ。でも1か月に1回しか開催しないらしいから、ここではもうできないかもね」
かのん「あっそうなんだ…じゃあもう直人君と卓球できないのかぁ…」
かのんさんはとても残念そうにしている。
しかし、ここで彼女からこう提案をされた。
かのん「あっそうだ直人君!学校でまた会った時にやるっていうのはどう?」
直人「おぉ!それはいい考えだね。うちの学校の卓球部、確か水曜が休みだったろうから、部室貸し切ってやれるかも」
かのん「えっ、それほんと?じゃあ二人の都合が合う時にやろうよ!」
直人「うん!もちろんいいよ!」
かのん「やった!ありがとう!また一つ退院する楽しみが増えて嬉しいよ!次やるときにはビシバシ指導お願いします!」
直人「ははっ、もう僕が教えることはないかもしれないけど、できる限り力になるよ」
かのん「うん!ありがとう!」
直人「あっ、そうそう、今日は16時に友達が面会に来るから、ごめんだけど話せるのあと1時間くらいかも」
かのん「えっそうなんだ!直人君と喋る時間が短くなっちゃうのは残念だけど、仕方ないね…じゃあ友達とのおしゃべり楽しんでおいで!ちなみにその友達って、高校の?」
直人「そうだよ!中学からの付き合いでね」
かのん「へぇ~そうなんだ!直人君って友達と仲がいいんだね!」
直人「うん、でも発病した時めちゃくちゃあいつらに迷惑かけちゃったんだ…」
かのん「えっそうなの?もしかして学校で症状が出ちゃったとか?」
直人「実はそうなんだ…あっ、僕、統合失調症っていう病気なんだけど、バイトで無理がたたってね。ある日ボカーンと学校で爆発しちゃったんだ」
かのん「…ねぇその話、よければ詳しく教えてくれないかな?」
直人「あっ、うん、いいよ。実はね…」
僕は週7でシフトに入っていたこと、バイト先でミスしてめちゃくちゃ怒られたこと、そして学校でみんなが自分の悪口を言っているような気がして頭がおかしくなってしまったことを事細かに話した。
かのんさんはその間、相槌を打ちながら親身になって聞いてくれていた。
ちなみにバイトを探したきっかけは、好きな子に振り向いてもらうためではなく、家庭にお金を入れるためだと言ってはぐらかした。
…断じて、恥ずかしかったからそう言ったわけではない。
かのん「そんなことがあったんだ…今までのことを打ち明けてくれて、ありがとう。ごめんね、辛いこと思い出させちゃったでしょ」
直人「いや。いいんだよ。むしろ、かのんさんに話せてすっきりしたというか」
かのん「ほんと?それならいいんだけど…でも直人君がそんな辛い人生を送っているなんて私、知らなかったよ。私なんて君に比べれば大して苦労していないし…」
直人「そんなことないよ!精神の病気を患っているってだけですごい大変なんだから。かのんさんは、どこの誰よりもずっと頑張っているよ!」
なんだか声に熱が入ってしまった。あやかさんは少し驚いた表情をした後、言葉を続けた。
かのん「っ!!そこまで言ってくれるとなんか勇気が湧いてくるよ。ありがとう!」
かのんさんが明らかに照れている。多少なりとも彼女を勇気づけられて良かったと思った。
そして僕は、気になっていたあの事を質問してみた。
直人「うん!あっ、もし良かったらなんだけど、かのんさん自身の病気のこと教えてくれないかな。僕、少しでも君の力になりたくて」
かのん「え…あっ、うん!いいよ!病気について君が話してくれたから、私も話さなきゃね」
直人「あっ!無理して辛いことは話さなくてもいいんだよ」
かのん「分かった。でも大丈夫、直人君に分かってほしいから、できる限りちゃんと伝えるね。えーと…まず、私の病気は双極性障害なんだ。直人君はこの病気のこと知っているかな?」
双極性障害。僕は、自分の好きなミュージシャンがその病気であったため、概要は知っていた。
直人「う、うん、なんとなくは。気分に波がある病気だよね」
かのん「そうなの。この病気を発症したのは5か月くらい前かな。その頃、お父さんの仕事が忙しくなって、毎日帰ってくるのが少しずつ遅くなっていったの。お母さんはそれを心配して『ちょっとあなた働きすぎよ!業務量を減らしたらどうなの!』なんて言ったんだけど、お父さんは『うるさい!』って一切聞く耳を持たなかったんだ」
僕は必死で、彼女の独白に耳を傾けた。
かのん「次第にお互い険悪なムードになっていって、毎日深夜に喧嘩するようになったんだよね。私、それが耐えられなくって、いつの間にか眠れなくなり、食事すらとれなくなったの…」
僕は、人の辛い過去を重く受け止めたことがなかったので、なんて言葉をかけていいか迷ったが
直人「そう、それは大変だったね…」
と、言葉をかけた。
かのん「うん…最初はうつ病って診断されて入院したんだけど、隔離室で朝から晩まで叫んだり暴れたりして、双極性障害に診断名が変わったの」
直人「そうだったんだ…辛かったこと話してくれてありがとう。でも早めにに治療につながって良かった」
かのん「それもそうだね。入院するのが遅れていたら学校で躁状態になっていたかもしれないし。それに、私が入院したのをきっかけに、お父さんとお母さん和解したみたいなんだ」
直人「あっ!そうなんだ!良かった。両親が不仲なのが一番つらいことだからね」
かのん「確かに。ちなみに直人君って両親と仲いいの?」
直人「あー…まぁ普通かなぁ?まぁ特別仲がいいってわけでも、喧嘩するわけでもないからね」
かのん「まぁ、基本男の子ってそんな感じだと思うよ。ちなみに私は、お父さんの仕事が忙しくなる前、両親とすごい仲良くてね…」
最初は結構重めの会話を繰り広げていたが、最終的には家族の話などをして和気あいあいと盛り上がった。
そうこうしていると友人たちとの約束の時間に迫っていた。
かのん「あっそろそろ16時だね!そろそろ友達来る時間でしょ?今日はもうお開きにしようか」
直人「そうだね。かのんさんのほうから切り出してくれてありがとう。じゃあ、また明日もいつもの同じ時間にこの場所でいいかな?」
かのん「うん!」
そう言ってかのんさんと話していると、ちょうど、病棟出入り口から友人2人が入ってくるのが見えた。
直人「あっ、ちょうど友達が来たみたい。おーい!」
そういって僕は向こうにいる友人たちに手を振る。
かのん「あっ…じゃっ!じゃあ私、病室戻ってるね!バイバイ!」
かのんさんはなにか焦っているような感じで、そそくさと自室へ戻っていった。
直人(僕の友達に会うのがそんなに恥ずかしいのかなぁ?)
そんな疑問が浮かび上がってきたが、僕に気がついた来栖と渡邊がこっちに来たためすぐにそれはかき消された。
来栖「やっ!久しぶり元気してたか?まぁ、入院している時点で元気じゃないか!ハハハ!」
直人「ったく、来栖は相変わらずだな。まぁでも意外と元気だよ」
渡邊「あっそうなんだ。良かった~確かに顔色良いしね」
直人「そ、そう?ハハッそう言われるとなんだか嬉しいよ。じゃあとりあえず、僕の部屋に行って色々話ししよう。案内するよ」
そういって僕は、2人を自室に案内した。
来栖「うおっ!精神科病院の病室ってこんなに広くてきれいなの!?まるでホテルじゃん!」
渡邊「確かに。病棟に入った時点で気づいたけど、ここって全体的に清潔感があるよね」
直人「そうだね。なにしろ最近改装したばかりらしいから。あっどうぞ座って座って」
そういって、2人を丸椅子にそれぞれ座らせる。僕はベッドに腰かけた。
来栖「いやーしかし、直人とまたこうして話ができるようになって良かった。俺はもうお前と一生会えないのかと…」
直人「コラ。縁起でもないこと言うなよな。ただの精神病にかかっただけだって。薬飲んでおけば良くなるからさ」
渡邊「確かに今の直人を見ていると、あの日の騒動は嘘だったかのようだよ」
来栖「全くそうだよな、あの時はめちゃくちゃ心配したけど、ただの病気なんだって思ったら、まぁ大丈夫か!って思うようになったぜ」
直人「あはは、そう気楽に構えてくれると嬉しいよ」
会話が一息ついたところで、僕は意を決してあの質問を友人たちに投げかけた。
直人「そういえば…2人、いや特に来栖に聞きたいことがあるんだけど…」
来栖「んっなんだい」
直人「いや、全然勘違いなのかもしれないんだけどさ、僕が教室で発狂したあの日、来栖、僕の目の前に来て、とっとと失せろ!みたいなこと言わなかった?」
2人は顔を見合わせる。数秒の沈黙の後、咳払いして来栖が口を開いた。
来栖「いや、俺はあの時『大丈夫か?いったん落ち着こう?』って言っただけだぞ」
渡邊「俺もはたから見ていたけど、来栖はなだめる言葉を口にしていたよ。断言する。それに、こいつがそんなことをいう奴に見えるか?」
直人「うーん…ワンチャン見える」
来栖「おいコラ」
直人「ははは、冗談冗談。やっぱり来栖、そんなこと言ってなかったんだね。いや統合失調症の症状で、周りの人が自分の悪口を言っているように聞こえるっていう症状があるんだ。そのせいであれは幻聴なのかそうでないのか分からなかったから、来栖の口から真相を聞けて一安心したよ」
来栖「そうか、そんな症状もあるのね。確かに何もしていないのに自分の悪口が聞こえてきたら怖いわ」
直人「でしょでしょ?怖いんだよ、ホント嫌になっちゃう」
来栖「…直人、もしよかったら統合失調症の症状がどんなのがあるか、詳しく教えてくれないか?俺たち、できるだけお前の力になりたいんだ」
直人「えっ?あぁもちろんいいよ」
僕は友人たちに、自分が幻聴や妄想によりいかにこれまで苦しんでいるかを話した。
2人はただ黙って話を聞いていた。僕にとってそれが心地よくて、闘病生活が少しだけ報われたような気もした。
渡邊「なるほどな…統合失調症ってそんな辛いものなんて、俺、知らなかったよ。教えてくれてありがとうな」
直人「いや、こちらこそ聞いてくれてありがとう。なんだか言えてスッキリした」
来栖「そうか、少しでも直人の気持ちが楽になったなら良かったよ!学校に戻った時も、しんどい時は俺たちを頼ってな!」
直人「うん。分かったよ!」
渡邊「あっ、もうこんな時間か!だいぶ長いこと話してたな。じゃあ俺らそろそろ帰るね」
直人「あっ、うん、じゃあ2人とも気をつけて」
来栖「また学校で会おうな!じゃ!」
僕は病室の扉から2人が出ても、彼らが視界から消えるまで、手を振り続けていた。
どうやら僕の親友は、とんでもなくいい奴みたいだ。
そんなことを再確認し、退院して2人と遊ぶのがとても楽しみになってしまい、その日の夜は興奮してなかなか寝付けなかった。
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