第9話 高揚と不安
気がつけばあっという間に2週間が過ぎていた。
この日の朝、教室に入るとあやかさんの友人たちから話しかけられた。
早見「相沢、ちょっといい?」
直人「んっ?どうしたの?」
早見「実は昨日、あやかからLINEがあったの。あやか、病状が安定して面会可能になったって」
直人「あっそうなんだ!良かった!本当に良かった!」
僕は、今までの心のつかえが取れたかのような気持ちになった。
佐倉「私たち、週末あたりにお見舞いに行くけど、相沢も早めに行ってあげてね。あやか、きっと寂しがっていると思うから」
直人「わかった!必ず行くよ。教えてくれてありがとうね」
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僕は学校が終わった後、速攻で病院へと向かった。
週末に会いに行けばよかったのだが、居てもたってもいられなかったのだ。
面会時間ぎりぎりだったが、何とか間に合った。
受付を済ませ、あやかさんのいる病棟へ向かうためにエレベーターに乗る。
狭く薄暗い空間に一人だけになると、これからあやかさんに会うことを強く意識する。その瞬間からとてつもなく緊張し、手や額には汗が噴き出してきた。
また、急いで病院まで来たために、会って何を話そうか全く考えていない。
どうしようどうしよう…
病室は3階にあるため、一瞬でエレベーターは目的の階層に到着する。
もちろん、余裕を持つ時間なんてなかった。
ガチガチのままフロアに足を踏み入れると、すぐ目の前に小さな受付があった。
そこから僕の存在を確認した看護師さんが、笑顔で話しかけてきた。
看護師「安藤あやかさんのお見舞いに来た相沢直人さんですね?一階の受付で聞いています」
直人「はっ、はい!」
看護師「では、こちらの用紙に住所と氏名をお書きください」
僕は手早く汚い字で記入を終えた。
看護師「ありがとうございます。では荷物検査するのでしばらくお待ちください」
看護師さんが受付から出てきた。右手には金属探知機のようなものを持っている。
看護師「では荷物の方、見させてもらいますね。ヒモや刃物などは持ってなさそうですね。はい大丈夫です。次に身体検査をさせてもらいますね。ちょっとお身体失礼します」
そういうと看護師さんは僕の身体をくまなくポンポンと触り始めた。
看護師「あっ相沢さん腰にベルト巻いていますね。すみません病棟内に持ち込めないのでここで預からせていただきます」
直人「あぁすみません」
看護師「では最後に、金属探知機当てていきます・・・はい大丈夫です。今、扉開けますね」
そういって厳重な二重扉の鍵を開けてもらう。
空港のように手荷物検査が厳しいのは、患者が自傷行為や他人に危害を加えないためというのは理解はしているが、それでも閉鎖病棟に入るのだけでも一苦労する。
病棟の中に入ると、正面と左側に伸びる廊下が現れた。正面の廊下は右側に病室が並ぶ作りになっていて、突き当りは病院関係者のみが入れる扉だ。
左側の廊下にはOT室というテレビや本、雑誌などがおいてある患者たちの憩いの場がある。突き当りはT字に道が分かれており、これまたズラッと病室が並ぶ。
僕は懐かしい気分になりつつ、あやかさんの病室を探す。
看護師さんからどこにあやかさんの部屋があるのか聞きそびれたため、まずは正面の廊下からしらみ潰しに見ていく。
直人「安藤、安藤…あっ、あった」
安藤さんの部屋は入口からすぐのところにあり、あっけなく見つかった。
どうやら集団部屋ではなく、個室のようだ。
僕は1つ深呼吸をして、ノックをする。
あやか「は~い」
気だるい返事が聞こえてきた。
直人「あの、相沢だけど、お見舞いに来たよ。今開けて大丈夫?」
あやか「あっ直人君!来てくれたんだぁ。いいよ、開けて」
間延びした口調に一瞬、部屋間違えたかな?とも思ったが、【安藤殿】と扉の上部に書かれているのを確認して、合っているか…と思い直した。
直人「失礼します」
僕はゆっくりと丁寧に引き戸を開けた。
真っ先に目に飛び込んできたのは、普段学校で見るときとは別人のような姿のあやかさんだった。
よれたパジャマを着てで髪はぼさぼさ、目には輝きがなく覇気というものが全く感じられなかった。
しかしあやかさんの今の姿、過去にも見たことある気がする。
そう思ったが、回想するより前にあやかさんが話しかけてきた。
あやか「わっ、本物の直人君だぁ。会えてうれしい!」
直人「ぼ、僕もあやかさんに会えてうれしいよ。どう?調子は」
あやか「うん!今は結構いいよ~。でも暇すぎて辛いかな」
直人「そうだよね。僕も入院したときに、暇をつぶすのが大変だったよ」
あやか「だよねだよね!前入院した時は、直人君がいたから楽しかったけど、今回は一人だから寂しくて…」
その言葉を聞いた瞬間。蓋をしていた記憶が蘇る。
そうだ、あの時、僕とあやかさんはこの病棟で出会っていたんだ。
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