第4話 別に好きじゃないし!
翌朝、教室の席に着くとすぐに来栖が話しかけてきた。
来栖「ゴホッゴホッ…おはよう…直人」
直人「おはよう…ってどうしたの?」
来栖「へへっ…ちょっと風邪ひいたみたいだ。渡邊もなんか胃腸炎でしばらく学校来れないみたいだし、悪いが今日のカラオケ大会は中止にさせてくれ」
直人「うん、分かった。残念だけどまたの機会に回そう」
来栖「ごめんなぁ、楽しみにしていたのに。カラオケ屋の予約、こっちのほうでキャンセルしておくから」
直人「あぁ。悪い助かるよ」
来栖「あっ、それか薫ちゃんと2人で行ってくれば?1名減ったくらいだったら人数変更の手続きしなくても大丈夫だし」
直人「いやぁ、それはいいかな…」
来栖「えぇー!なんでぇ!いや、薫ちゃんと絶対喜ぶと思うぞ。あっそうだ!はい、これ。割引券もあげるから行ってきなって!」
そういって来栖は、くしゃくしゃの室料割引券を1枚渡してきた。
直人「えぇ…いらないよぉー」
来栖「ハハハ!まぁそういわず、男だったら勇気を出せ!直人!」
直人「いや、勇気を出せっつったって、別にあいつのこと何とも思って…」
ピンポーンパンポーン
全力て否定している最中に朝のチャイムが鳴り、皆一斉に席につく。来栖も静かに右手の親指を突き立てながら自席に帰っていった。
直人(くそっ、やっぱり来栖、なにか勘違いしてるだろ!薫と二人っきりでカラオケなんて、まっぴらごめんだよ!)
そういってブーブー脳内で文句をたれ、退屈な午前の授業へと突入するのであった。
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時がたつのは本当に早い。ボケーっしていたらあっという間に昼休みだ。
僕は、薫と昼食をとるために屋上に向かっていた。階段を上っている最中、朝、来栖からカラオケ屋の割引券をもらったことを思い出した。
財布にしまってある”ソレ”を、なんとなく取り出してみる。
直人(結局これどうしようか…そうだ、薫にはとりあえず「カラオケの割引クーポンあるから友達と行って来いよ!」って言って渡してしまおう)
来栖に少し悪い気はしたが。あいつが勘違いしているのが悪いと、自分に言い聞かせた。
屋上の踊り場に差し掛かった時、右ポケットにしまっているスマホが振動する。
何だろうと思いスマホを開くと、薫からのメッセージだった。
薫【おにぃゴメン!今日はバレー部の昼錬があるから屋上行けない!ちなみに今日から2週間、大会が近いせいで朝も昼も放課後もみっちり部活があるの。だからおにぃにしばらく会えなくなる…。寂しい思いさせて本当にゴメンネ!】
この文面を見て、まず真っ先に
直人(いや、断じて寂しくはないぞ?)
と脳内でツッコミを入れた。
それと同時に
直人(今日からあいつ部活で忙しくなるなら、別に無理してカラオケに誘わなくていいんじゃね?)
と思い、僕は嬉しくてその場で小躍りした。
しかし、ある重大な問題が残っていることに気が付いてしまった。
直人(あっ!でも、この割引券どうしよう…来栖に返すのもなんだか悪いし、捨てるのももったいない。かといって一人で行くのはちょっときついな…)
僕は少し考えた後
直人(あっ、そうだ!あいつらの病気が治って、またカラオケ行くときに使えばいいんじゃん!)
と、天性のひらめきをみせた。
しかし、有効期限がいつだったのかふと気になった僕は、割引券の裏面を見てみることにした。
すると残念なことに、期限は今週の日曜までだったのだ。
直人(うわっ、ヤバッ…どうしよう…)
このまま、このクーポンが紙切れになるのを見守ることしかできないのかと、僕はひとり、誰もいない屋上の踊り場で途方に暮れるのであった。
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気がつけば今日も、全ての授業が終わり放課後になっていた。まったく、一日が過ぎるのはどうしてこうも早いんだろうか…って昼もこんなことを思った気がする。
昼休みに思い悩んでいたことだが、結局答えが出ることはなかった。
そんなことはつゆ知らず、あやかさんは昨日と同じく一緒に帰らないかと僕に声をかけてきた。今回は人目を気にして、別々に教室を出て校門前で落ち合おうということになった。
校内を一人歩きながら、ふとこんなことを考える。
直人(あっ、そうだ!あやかさんをカラオケに誘えばいいんじゃね?)
と一瞬思ったが、しかし自分にそんな度胸はないと首をぶんぶんと横に振った。
直人(デ、デートに誘うのは今じゃないと思う。うん、きっとそうだ)
決して僕はただのチキンではないと自分に言い聞かせながら、校門まで小走りで向かったのだった。
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校門前につくと、すでにあやかさんが待っていた。
直人「あっ、あやかさんお待たせ!それじゃあ行こうか」
あやか「え、ええ」
あやかさんがなんだか照れくさそうだ。僕は気になってつい質問してみた。
直人「ん?どうしたの?あやかさん」
あやか「いや、昨日、直人君に下の名前で呼んで欲しいって私のほうからお願いしたけど、改めてそう呼ばれるとなんだか恥ずかしいなって…」
直人「え!?じゃ…じゃあ名字呼びに戻そうか?」
あやか「いや、そのままでいいの!私、頑張って慣れるから…!」
直人「あっ、そ、そう?」
直人(あやかさんのことだから、下の名前で呼ばれることに抵抗ないと思ってたんだけど、実はそうでもないんだな。…それに、向こうが恥ずかしがっていると、なぜかこっちまで恥ずかしいぞ…!!)
僕は羞恥心を表に出さないように注意を払いながら、会話を続ける。
直人「それにしても最近、あやかさんの方から毎日帰り道に誘ってくれるようになったよね」
あやか「え?あっ、ごめんなさい!やっぱり、私と一緒に帰るの嫌だったからしら…」
直人「いやいや、全然そんなこと思ってないよ!むしろ一緒に帰れてとても嬉しいんだ。でも、なんでかなって少し思って」
あやか「あぁ、そういうことね。そんなの、直人君と話すのが好きだからに決まってるじゃない」
その言葉を聞いた瞬間、嬉しさと戸惑いで脳がオーバーヒートしそうになった。
直人(いや面と向かって『好き』なんてフレーズ言われると、勘違いしちゃうよ!)
僕は恥ずかしさをこらえ、会話を続ける
直人「えっ!?あ、ありがとう。あはは…そんなこと言われるとなんだか恥ずかしいよ…」
あやか「あらそう?だって本当のことだもの。ちなみに直人君は、私と話すの好きじゃないの?」
直人「いやっ!僕もす…じゃなくて!えっと…あっ、あやかさんと話すのは面白いと思ってるかな」
直人(危ない危ない、思わず『好き』って言いそうになった)
あやか「ふふっ!あらそうなの。そういってくれると私としても嬉しいわ」
あやかさんはそういってにっこりと微笑んだ。
その笑顔につい見惚れてしまったが、いかんいかんと会話に意識を戻した。
直人「…ところで、あやかさん、委員会とか今日はないの?」
あやか「あぁ、それなら心配はいらないわ。なんたって委員会は毎週木曜日のお昼しか集まりがないもの。それに部活も入ってないしね」
直人「あぁ、そうなんだ」
あやか「そういえば、直人くんも学校が終わったらすぐに家に帰っているわね。もしかして、あなたも部活や委員会に入ってないのかしら?」
直人「まぁ、そうだね。でも、暇だから最近どこか部活でも入ろうかなーと思い始めてきたよ」
あやか「へーそうなの。どんなことに興味があるのかしら」
直人「うーん…バンドが好きだから軽音部とかかな」
あやか「あら、意外だわ!ちなみにどのパートをやろうと思っているの?」
直人「そうだね、歌うのが好きだからボーカルかなぁ」
あやか「いいじゃない!直人君ならきっといいボーカリストになれると思うわ」
直人「そ…そうかな…?あまり自信ないけど…てか、あやかさん僕の歌声聴いたことないでしょ!」
あやか「ふふっ、確かにそうね。でも不思議と聴かなくても私、分かるの。だって歌声って、小手先のテクニックじゃなくてその人の生き様や人となりが現れるものだから。直人くんの場合、ほかの誰にもない感性を持っているから、歌声を聴いた全ての人を魅了することができると思うわ」
直人「あっ、ありがとう…そこまで言ってくれたのあやかさんが初めてだよ…!!」
僕のことを褒めてくれるのはめちゃくちゃ嬉しいのだが、そんなことをされると、ますます好きになってしまうからやめて欲しい。
僕が照れてモジモジしていると、あやかさんがある提案をしてきた。
あやか「あっ、ねぇ!ひとつ思いついたんだけど、これから私と一緒にカラオケ行かない?」
直人「え…ええぇぇぇ!!!!」
驚いて僕はとんでもなく大きな声を出して驚いてしまった。
あやか「ふふっ!そんなに驚くことかしら」
直人「だ、だって…あやかさん二人っきりでカラオケってまるでデー…」
そこまで言いかけて、恥ずかしくなりやめた。
あやか「まるでデートだって言いたかったのでしょう?そうね、これはデートかもしれないわね」
直人「ハハハ…そうかぁデートだよねぇそうだよねぇ…」
心臓の鼓動が早すぎてぎこちない返答をしてしまった。
僕が次の言葉を言いあぐねていると、あやかさんが口を開いた。
あやか「で?どうなの?私とカラオケ行ってくれるの?…あっ、もし嫌なら遠慮なく言って頂戴ね」
直人「別に嫌じゃないよ!むしろあやかさんから誘われて嬉しいっていうか…」
あやか「ふふっ、じゃあ決まりね!早速行きましょう!」
そういうとあやかさんは僕の腕をつかみ、走り出した。
直人「ちょっ…ちょっとあやかさん!?」
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