第20話 勧誘

私たちの騒ぎに顔を突っ込んできたのは、同じクラスのグレン・オールドリッチくんだった。

逆立った明るい茶色い髪と、元気でやんちゃそうな風貌が特徴的で、持っている属性は「火」。

アーノルドさんと同じだ。


その隣には青がかった髪と切れ長の瞳が印象的な美少女が立っている。

知性を感じさせるその雰囲気は、まさに委員長。

いや、実際に委員長なのです。

名前は確か、キャロル・ワインバーグさん、属性は「水」。


しっかし、グレンは、なかなかの好男子だし、キャロルは可愛いし、何だこいつらカップルか?

見せつけてんのか、この美男美女め。


「ははは、美男美女が揃っていると、見栄えがするだろ」


あ、こいつ陽キャだな。

私が思っても口にしなかった事を、自分から口にしやがった。


「あら、クラスの委員長と副委員長が何のご用かしら?」


モニカ様がふぁっさ~と髪の毛をかき上げながら尋ねる。

そう、この二人は我がクラスの委員長さんと、副委員長さんなのである。

ちなみにモニカ様は委員長に立候補なさらなかった。


「そのような肩書がなくても、真にエレガンスな人間は自然と話題の中心となるものですわ」


んまーっ!、何て悪役令嬢のような台詞!

平然と口にしてしまう豪胆さに、しびれる、憧れてしまいますわ!


「今度の課外学習が魔獣討伐に決まってな!参加希望者を聞いて回っているんだ」


グレンくんが持っていた紙を渡してくれる。

なるほど、一クラス10人くらいを募って、魔獣討伐の体験学習をするのね。

魔獣討伐と言っても、私たちが討伐するのではなく、王国騎士団の魔獣討伐に補助として参加しその雰囲気を味わう的な、校外学習とでも言おうか。


前線で戦うのは騎士団、私たちは後方支援として炊き出しや怪我の手当て、あるいは補助魔法で討伐の援護を行うのが主な訓練内容らしい。


「俺はもちろん参加するぜ!ここで良い所を見せれば、騎士団に勧誘されるかも知れないからな!」


ガッツポーズで己の意見を述べるグレンくん。

熱い、熱すぎる。

ひっそりと生きていきたい私にとって、あまりお近づきにはなりたくないタイプの人だ。


だが彼の言っていること自体は結構、正しい。

何せ、この魔獣討伐で学生ながらに圧倒的な才を見せつけて騎士団の目に留まり、続く内乱や対諸外国戦で、次々と武勲を立てて一躍、名を全土に轟かせた生徒がいる。

その名はアーノルド・ウィッシャート。

卒業後は王国騎士団への入団が決まっており、今もなお、学生でありながら騎士と同格の扱いをされる。

騎士でありながら騎士でない、その立場から、インビジブル・ナイト……「姿なき騎士」とまで呼ばれているのだ。


つい先日、ゆえあって「インモラル・ナイト」と呼ばれるようになったのは……ごめんなさい。

でもあれは、お前も悪いんだからな!!


「でも参加者は限られるのではなくて?わたくしたちの参加を下々の者が納得できるかしら」


「ああ、その点なら安心してください」


キャロルが凍えるような目で、私を見た……え? 私?


「うちのクラスの大半は、校外活動禁止の措置が取られています。誰かさんのせいで」


うおおっと、そうであったか。

私をいじめた生徒たちは停学やら何やらで数を減らし、出席している子たちも完全に無罪ではなく、活動に制限を課されているようだ。

いや、それって私のせいじゃなくないっすか!?


「いじめられたと訴えてくれたら、私たちも動けたのに…あなたが全部、冤罪を認めてしまうので、動くに動けませんでした」


ああ、そういう事……

把握していたけれど訴えがないから委員長と言えども動けなかったのね。

それはスミマセンでした。

つまりは、ここにいる人たちは、いじめに加担していなかった選ばれし人間なのね!?

……よく考えたらハードル、低いな。


「ついでにお前、俺らを避けてただろ?」


……はい、その通りです。

なるべく人との接触を避けて生きてきました。


そのせいで二人とも、イジメのトラウマで塞ぎこんでいると思っていたらしい。

それらを考慮した上で、落ち着くまで待ってくれていたんだと。

つまり無視というよりは静観。

ただ、その間も孤立させないように、私の相手をモニカ様にお願いしてくれていたらしい。

モニカ様もモニカ様で、私の様子を逐一、委員長たちに伝えてくれていたと聞き、ちょっと感動した。

面倒見がいいなぁ!


「ふん、格下である、あなたたちの言う事をわたくしが聞いたとでも?わたくしは、わたくしの意志で動いたまでの事ですわ」


それって、逆に言えば、モニカ様はお願いされなくても私の様子を毎日、気にかけてくれたって事?


「んあ?なななな、なにをばっ、馬鹿なっ事をっ!?」


顔を真っ赤にしてぷんぷん怒るモニカ様、ポンコツ可愛い過ぎる。

周りの三人組が


「完全に裏目ってるでございますわ!」

「手がわなわなしていると、動揺が丸わかりでございます!」

「大声を出しすぎると、かえって弱くお見えになりますよ!」


とか言っているのも聞こえていないみたい。


「もう少し様子を見ようと思っていたのだけれど、連日、聞こえて来る登下校の醜聞から、遠慮は不要と判断しました」


キャロル委員長、醜聞と言い切った。

とんでもねぇ判断基準だ。

あれは先輩の責任が9割、私は1割程度だと思うのだが。


話題がアーノルドさんに及ぶと、グレンくんがやや興奮気味に話しかけてくる。


「エリー・フォレスト!アーノルドさんを紹介してくれ!俺はあの人に憧れている!俺も将来は騎士団に入りたいんだ」


はー、物好きもいるもんッスね。

あんな奴のどこがいいのか。

まぁ、顔はいいけど、それ以外に取り柄なくね?


「そんな事を言うのはエリーさんくらいでしょう。この学園にいるほとんどの男子生徒が彼を模範とし、ほとんどの女子生徒は憧れの眼差しを向けていると思いますけど」


「うっそだぁ!」


キャロルの言葉に思わず叫ぶと、たちまち周囲のご令嬢方がじろり、と睨み付けてきたので

囁くように彼女が忠告してくれる。


「不用意な事を言わない方が得策です。あなたが女子生徒にいじめられた原因に、アーノルドさんと親しくしていた……という事もあるのですから」


なんと!

いつどこでだれが、あのインモラルな先輩と親しくしていたのだろうか?


「毎日毎日、よくもあのように騒げる話題が尽きないかと感心するほどですが」


はぁ、とため息をつくキャロルに続き


「ずいぶんとイチャついていると聞き及んでいますけど」


何とモニカ様にまでその虚言は伝わっているようだ。

だがまったく身に覚えがない。

手違いはあったにせよ、先輩の方から自発的に何かしてきたかというと、最初にご一緒した際、家の前でお姫様抱っこされて……


「弾みでスカートの中に手が突っ込まれたくらいかな……」


呟いた途端、キャロルさんに水魔法で顔面に水をぶっかけられ、モニカ様の雷魔法が私を感電させた。

動けなくなった体を、そのまま取り巻き三人組に簀巻きにされた後、グレンくんによって肩に担がれ、

強制的に食堂から退去させられてしまう。

そのまま教室でグレンくんを除く女性5人から代わる代わる説教をされて、今日一日が終わってしまった。


わ、私が何をしたというの……!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る