第21話 魔獣討伐

「うっし、そろそろ行くぜ」


気合を入れ一団の先頭に立つのは聖トラヴィス魔法学園1年グレン・オールドリッチ。

「火」の属性を持つ騎士志望の生徒である。


その一団は全員で9名。

結局、1ヶ月ほど訓練を重ねた後、あの食堂にいた全員が魔獣討伐に参加する事となった。


参加するメンバーを紹介すると、先頭のグレンくんに続くのが、私エリー・フォレスト。


その後方に友人のモニカ・ホールズワースと3名の取り巻き。

取り巻きは青いのがブリアナ・クリスト、

黄色いのがイヴェット・ムーン、

緑色っぽいのがミーア・リッジウェイ。

すまんな、みんな同じような雰囲気で差が良く分からないのよ。


その後に続くのがクラスの委員長キャロル・ワインバーグ。

しっかり者のお姉さんって感じだ。


最後に足音も立てずに歩いているのがケイジ・ウィンドヒル。

この男性は、前回の食堂にはいなかったと思っていたのだが……


「いましたよ。ずっと側にね」


とか怖いことを言い出す。


彼の家は代々隠密活動を得意としており、いわゆる国家所属の暗部を率いていた事もあるそうだ。

四世代ほど前の代の際に大きな戦があり、そこでもはや隠しようのないほど大功を立ててしまい、とうとう貴族として列せられて表に出ることになったんだとか。

そんな彼の家の魔法属性は「影」。

うん、そのまんまだな。

さらっさらの黒髪が印象的で、風貌も柔和な整った顔立ちしてるんだけど…なんか、まぁ、ニコニコしすぎてて、ちょっと嘘くさい。

彼の家系がそんな印象を与えるのだろうか…

おっと、いかんいかん、先入観はよろしくないよね。


ちなみにイジメに加担しなかった理由は


「加担する理由がないので」


イジメを助けてくれなかった理由も


「助ける理由がないので」


と断言する、なかなか芯の通った御仁である。


そんなこんなで到着したのは、各クラスの集合場所である魔獣の棲む森の前にある野営地。

なんかキャンプ場みたいだな。

誰だ、「お前の出番だぞ」とか言っている奴は!


すでに同学年、全4クラスが集合し、だいたい4~50人くらいになっている。

さすが各クラスで選抜された精鋭が集まっているという事もあり(うちのクラスだけ消去法だが)、なかなか壮観である。

しかも魔法属性だけでなく、その力もすごいとなると、貴族の中でも爵位が高い人が自然に多い。

つまるところ、ここに平民は私一人というわけだ。

そして、当然のように絡まれる。


「おや、貴族の中に薄汚いドブネズミが混じっているようですね」

「身の程知らずとは、このことだな」

「アーノルドさんに保護されているからって、調子に乗っちゃったのかしら」


これくらいの陰口ならまだ良い方で、具体的に


「おい、平民。立ち去れ。ここはお前がいて良い場所じゃない」


と詰め寄られてしまったりもする。


もちろん、おおっぴらではなく物陰でだ。

さすがにうちのクラスの大半がイジメが原因で停学くらったという事実の前で、堂々と嫌がらせはできないと、

いくら残念な頭でもちょっと考えればわかるのだろう。

広場から離れた鬱蒼とした場所に連れ込まれた私は、そりゃもう分かりやすく責められていた。

下手に反論してもしょうがない、ここは謝罪、謝罪、謝罪の一手だ。


「申し訳ありません」


「謝罪で済むと思うか! 立ち去れ、と言っているのだよ!」


「帰る手段がないので」


「歩いて帰れば良かろう!」


「えー」


「えー、じゃない! なんだ、その態度は!?」


おかしいな、真摯に謝罪しているのに怒られたぞ。

ううむ、これはどうしたものか。


その時、場違いにのんきな声が響く。


「なにやってんのー?」


一斉に振り向くと、そこにはいつの間にか、先ほどご紹介したクラスメイトのケイジくんが立っていた。

相変わらずニヤニヤと、何を考えているか分からない笑顔で一同を舐めまわすように見る。

すごい、いつの間にいたんだ。


ううっ、と怯む彼らに対して…


「俺にも教えて欲しいな」

「私にもね」


と、続けて現れたのは委員長キャロルさんと副委員長グレンくん!

グレンくんに至ってはすでに好戦的な態度を隠そうともしていない。

待って、まだ早い! こっちから手を出しちゃダメよ!?


そしてクラスメイト・モニカ・ホールズワース様が、取り巻き3名と共に、なぜか高い岩の上から颯爽と参上する。

なぜ、そこから!? という全員の疑問をよそに


「弱き者を嬲るような真似、貴族に似つかわしくありませんわ!お下がりなさい、下郎!!」


と高笑いと共に、私を責めていた貴族たち数名にびしっ、と指をさす。

おお、悪役令嬢っぽい!!


「……って、わけだ、同級生諸君。同じクラスの仲間を差別されて黙っていられるほど、俺は薄情じゃねぇ」


グレンくんが凄む。

格好いいぞ、グレンくん。

できればもうちょっと早く、そうやって欲しかったかも!

ついでに私とアーノルドさんの、登下校のなじり合いにも割って入ってきて欲しい!


「くそっ…!」


貴族子弟のうち二人が、ポケットに入っていた魔術用の指揮棒を取り出そうと動く。

だが、「あ」と私が口に出すよりも早く、一瞬でケイジくんが彼らとの間合いを詰める。


「おっと、動かない方がいいよ。まだ僕は退学になりたくないからね。さすがに人を殺したら、停学じゃ済まないから」


彼らが指を動かすか動かさないかくらいのタイミングで、ケイジくんは両手に持った2本のダガーを相手の首筋に突き付けて制圧してしまう。


やだなに、クラスメイトのイケメンたちが私の為に戦ってくれるの!?

いやん、これならイジメられるのも悪くないわね。


「イジメられるのも悪くない、とか思っていないでしょうね?」


何だ委員長はエスパーか。

そういう委員長も、すでに手の中で魔法による水を出現させての臨戦態勢。

意外と好戦的なのね。


一方でモニカ様は岩の上から出現したせいで距離がありすぎてしまい、雷魔法の射程外だったようで、急いで岩から降りようとしているが、取り巻きとの間でつっかえてしまい、あわあわしている。

早く早く!

ダッシュで降りて来なくては見せ場がなくなってしまいますぞ!


「お、おぼえてやがれ!」


おお、負け犬のような捨て台詞と共に、因縁をつけてきた生徒たちが撤退していく。

ごめんなさい、モニカ様。

もう見栄を切る相手は尻尾を巻いていなくなってしまいました。


「いつもあんな具合なの?」


「ま、そうですね」


事もなげに言う私に、キャロルは呆れ顔で忠告してくれた。


「あの手合いは調子に乗るから、ちゃんと対処した方がいいわよ」


「そうは言うけどなぁ…喧嘩になっちゃうのも嫌だし」


「だったら俺に言えよ。女の子にいやがらする輩なんざ、俺がとっちめてやるぜ」


ドン、と胸を叩いて格好よくいうグレンくんだが、私に一番いやがらせするのは君の敬愛するアーノルド先輩なのだよ?

とっちめてくれるかな?

一瞬で裏切られる未来しか見えないんだけど。

そこに、はいはい、と手を叩きながらケイジがやって来た。


「さて、不埒な奴は退散したことだし、僕らも集合場所へ戻ろうか。ただでさえD組はDランクのDって言われているんだ。団体行動もできないのかって、笑われちゃうよ」


「そうなの!?」


「知らなかったのかい?」


「私たち、D組だったんだ!」


「それくらい、覚えておきなよ」


そんな風に呆れ果てられながら、モニカ様を置き去りにしつつ私たちは魔獣の洞窟前の広場へ

戻っていくのだった。


―― その一行を、遠くから眺める2つの影があった事を、一同は知らなかった。

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