第19話 ランチタイムにお触りを

「本当にこれ、何に使いますの?」


「なんだろうねぇ…」


私の唯一といって良い学友であるモニカさんと、仲良くランチを食べながら、ぼやく。

今も私の手から伸びる光は周辺を包んでいるけれど、何が起きたわけでもない。

目の前のご飯が美味しくなるわけでもなければ、まずくなるわけでもない。

完全に人畜無害の光が念じた対象物にまとわりつくだけなのだ。


一方で私は、対象物をイメージする能力は高いらしく、光を自由自在に付与する事が出来た。

しかも普通の学生は、2つ3つの対象に付与魔法をかければ疲れ果ててしまうらしいが、私は大講義室だろうが、10人、20人相手だろうが、光らせる事ができる。

これが私に埋蔵されている魔力量が多いのか、単なる光なので消費魔力が少ないのかは議論の余地があるんだろうけど、それはさておき、びっくりするほどジャンジャン光らせ続けることも可能なのだよ。


……ま、「だから?」って事なんですけど。

おかげで陰では「大道芸魔法」とか言われているんだとかナントカ……

うーん、反論したくても反論できない。

それで役に立つ事って……


「キャンプファイヤーではなくて?」


「それを言わないでええええええええええ!」


モニカ様のご指摘はもっともなれど、胸にぐさりと突き刺さる。

本当に役に立たない魔法だな。

でも『イシュ物』でのエリーは、そんなキャンプファイヤー魔法なんて使ってなかったぞ。

それはもう、聖女の魔法で、バッタバッタと魔獣を薙ぎ倒しては、戦闘系攻略対象の心をかっさらっていったもんだ。


「落ち着きなさい。もし使い道がないようでしたら、わたくしの屋敷の庭園に飾って差し上げますわ」


オブジェですか!?

まぁ、それもまた一興ですが。


「きっと庭の湖の中央に添えたら映えるでしょうね…。雪景色だと、さらに光の帯が雪の結晶に反射して美しく舞い落ちてきて…」


あ、これダメだ。

湖中で溺れるか、極寒の中で凍死するやつだ。

そんな未来が垣間見えたので、強引に話題を変える私であった。


「冒険者とかになれないかな?ほら、ダンジョンを潜るのに、光って有効だったり……?」


「松明とどう違うの?」


「ソウデスネー」


まぁ、消えない松明ってのも使い道がないわけじゃない。

さらにいうと、私の場合は松明より、かなり大きい光が生み出せる。


「だからと言って、松明係を連れていくほど、冒険者たちも余裕はないでしょう?」


「デスヨネー」


真っ当なご意見である。

そんな奴を連れて行ってパーティーの食費やら給料を払うくらいだったら、

回復や後方支援に長じた「月」属性の仲間を連れて行った方がマシだろう。

私個人が圧倒的に有用な能力持ちだとしたら、ワンチャンあるかもだが。

……それでも、固有魔法を持たない私は、どこかの段階で切り捨てられるだろう。

そこまで思いを馳せて、改めて思った。


はー、やだなー。

不遇職持ち主人公の逆転異世界ストーリーじゃあるまいし、切り捨てられるのは悲しいよ。

よく心が持ち直せるよね、あの世界の主人公たち。

私なら見返してやろうって立ち上がる前に、8話分くらい平気で愚痴をこぼす自信がある。もう打ち切りまっしぐらだね。


だからだろう、この世界で友達がほとんどいないのは。

この世界が『わた王』の世界であれば、私は悪役聖女である。

だから、いずれはみんなに嫌われてしまう可能性が高い。


…正直に言っちゃうと、私のもうひとつの人生、大森えりの生涯は結構、トラウマになっている。

楽しかった幼少期と、両親が死んで独りぼっちになった時期のギャップが大きすぎて何かを失うのが、強烈に怖いのである。


念のため言っておくと、楽天家の方だと思うのですよ、私。

でも、あの仲の良かった人が一人、また一人といなくなっていく怖さ。

どこに行っても受け入れてもらえなかった寂しさ。

あれはもう、二度と経験したくないな…


だからせっかく別の世界に来たのは良いとしても、

せめてここではひっそりと、おとなしく、誰にも除け者にされずに、恨まれずに生きていきたい。


入学早々、赤毛の真正でアレな先輩に恨まれたのは、まぁ、ご愛敬だ。

一人や二人、普通に生きていても恨まれもするだろう。

そう、なるべくね、なるべく。

もっともアーノルドさんに敵意剥き出しにされてるのも、悲しくはあるけれど。

こちとら仲良くしてやってもいいってのに、素直じゃねーんだよなぁ、あの人。


だからこそ、目の前にいるモニカ様はイレギュラーなのだ。

作るはずのなかった友達に、率先してなってくれたのだから!!

いずれ嫌われるにしても、こんな稀有な方は大切にせねば…っ!


「おほほほ、どうしたのかしら?そのように呆けた顔をして、わたくしの美貌に釘付け、という事かしらね?どうしてもというなら、賤民である貴女にも触らせてあげて良いのよ?」


典型的な悪役令嬢っぽいところも、なんかもう愛おしい。

思わず、うっとりとして溜息が出てしまう。

私はモニカ様の頬に思わず手を伸ばし、艶々のお肌を撫でながら呟いた。


「どうしてこんなに可愛らしいのかしら……」


「ふええええええええ!?


モニカ様が大声をあげて飛びずさってしまった。

あれ? なんかまずかった?


「だだだだ、誰が触って良いと言いまして!!」


おかしい。

触っていいって言ったのはモニカ様のはずなのだが。

見れば取り巻き三人組までどん引きしてやがる。

うーん、貴族の世界って難しい。


そんな賑やかなランチタイムの中、私たちに話しかけてきた男子がいた。


「何を騒いでいるんだ?」

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