第14話 馬車の中にて
「……………。」
「……………………。」
気まずい。
もうかれこれ、30分は沈黙が続いている。
どうして私の家はこんなにも学園から遠いのか。
到着まで、まだ倍くらい時間かかるぞ。
しかし何だか先にしゃべりかけたら負けな気がする。
よし決めた。
私からは絶対に話しかけないぞ。
「……………………。」
そんな膠着状態がしばらく続いた後、とうとうアーノルドさんが口を開いた。
「おい」
よっしゃあああああああ!
そっちから話しかけてきたな!!
これで主導権はこっちのもん……「何か面白いことやれ」……はああああああああああああ!?
「何ですか、その面白い事って!私を大道芸人か何かと勘違いしていませんか!?」
「光れ」
「キャンプファイヤアアアアアアアア!!!」
ぐぬぬぬぬ、こいつめ、人が気にしている事をズケズケと。
「とりあえず、だ」
「はあ」
「お前、何をどこまで知っている」
…まぁ、やっぱりこういう話になりますわな。
さっきもラルスさんが、ちょっと突っ込んだ話をしてきたし。
それに……この世界が、どうなっているのかも私は知りたい。
どうやら『わた王』の世界だって事は分かった。
でも、この世界で、ノエリアさんがどこまでみんなを「攻略」しているのかが分からない。
少なくともクリフォード・ルートを通っているだけでなく、アーノルド、ラルスの両名は攻略しているようだ。
だが『わた王』では、そこに至るまでに大きなイベントがいくつか存在する。
ひとつめは、各攻略キャラ同士のいがみ合いと和解
ふたつめは、悪大臣が国を乗っ取ろうと画策し、謀反を起こす
みっつめは、王国を狙う隣国との戦争
よっつめは、聖女との決戦
最後に、聖女が復活させた「災厄」との最終決戦
このうち、よっつめと最後のイベントだけはこの後で発生するのだが、聖女入学までに前3つのイベントは発生しているはずだ。
いやしかし、最後の2つ、私何やらかしたらそうなるのよ。
確か……思い通りにいかな過ぎて、嫉妬に狂った挙句に「災厄」を降臨させるんじゃなかったっけ…
最悪だな、この聖女。
……つか本当に聖女か、この女。
邪神の化身とかじゃないのか、割とマジで。
それぞれのイベントはクリアしなくてもいいし、クリアするにも評価分岐が存在する。
その中でも真エンディングに到達しないと、最終的にベストエンディングには届かない。
あまりの鬼畜難易度にどれだけのユーザーが絶望に陥った事か…
そもそも、ひとつめから無理ゲーな雰囲気が漂っているよね。
「私こそ、どうして追われなきゃいけないんですか?ノエリア様が、このような真似をするとは思えないのですが」
ここは少しはぐらかそう。
それにノエリア様の話をすれば、少しアーノルドさんも乗ってきてくれるはず。
「当たり前だ。義姉さんは、お前など相手にするものか」
やはり食いついてきたな、このシスコンめ。
ここはさらにもう一押しだ。
「でしょうね。ノエリア様はとても素晴らしいお方ですもの」
「お前に何が分かる!」
すみません、調子に乗りました。
知った風な口を利いてしまいました。
「いいか、義姉さんが成し遂げてきた事はだな…」
あ、こいつ演説を始めたぞ。
ノエリア様の素晴らしさを滔々と話し始めやがった。
よし、ここはこのまま、話してもらおう。
……と、彼の演説から、ノエリア様が成し遂げた事績をかいつまんで言うと、だ。
クリフォード、アーノルド、ラルス含め、攻略キャラ全6名の好感度MAX(多分)。
国家転覆を企む悪大臣を成敗し、国政を正す。
悪大臣に呼応して進撃を企てた隣国に対し、半ば追放されていた第二王子を担いで戦闘回避。
(なお、この王子は都合よくイシュメイルに留学していた前述の攻略対象の一人だ)
その他、風の精霊のご加護を得たり、魔族討伐をしたり、産業発展のために尽力したり、貧民街の環境を改善したり、他国への援助を通じて近隣諸国との同盟を締結したり……等々。
昨年はアーノルドさんと共に東部戦線を赴いて、武功まで挙げている。
なにこれ。
ゲームに出てこないイベントまでベストエンディング到達してんじゃん。
しかも予知夢を通じて将来現れるだろう私への対策もばっちり。
何かあればイシュメイルだけじゃなく、同盟各国が私の排除へ動く手配までしてるようだ。
対エリー包囲網が完璧に築かれてやがる。
もうオーバーキル過ぎじゃないかな、これ!!
はー、クソゲー。 クソゲー決定だわー。
「無論、俺も義姉さんに誓いを捧げた。俺は貴女の剣として生き、剣として死ぬ事を誓う、と」
「はいはい、シスコンシスコン」
こじらせてんなぁ。
……でも、これで確信が持てた。
ノエリア様は、ここに至るまで壮絶な努力をしてきただろう事を。
『わた王』が開始した直後は、悪役令嬢として各攻略対象からの評価は0かマイナススタートだ。
そこから全員の好感度を上げ、さらに難易度極悪のイベントをこなし、その上、自分も磨く。
常に3つか4つ、同時攻略していかなければ成し遂げられない業績だ。
目の前にいるアーノルドさんは、その努力をきっと間近で見てきたのだろう。
だからこそ、許せないのだ。
敬愛する義姉の成し遂げてきたものを、横からぽっと出の奴に灰燼に帰されてしまうのが。
つまり聖女エリー・フォレストの存在が。
「そりゃ、嫌われるか」
思わず声に出てしまう。
やべっ、と思ったが、アーノルドさんは馬鹿なので義姉を称えるのに夢中になり、気が付いていないようだ。
ひとしきり、語り終えた後、彼はようやく自分が熱くなりすぎていたのを恥じたのか、口を閉ざす。
そうなると今度は、こっちが話しかけるしかない。
「それで」
私は率直に聞いた。
「私が死ねば、不安は拭い去れますかね?」
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