第12話 聖トラヴィス魔法学園・生徒会報告書 その2

生徒会室にいるアーノルド・ウィッシャートは甚だ不機嫌であった。

目の前にいる敬愛する義姉と、その婚約者が、明らかに笑いをこらえているからだ。


「……笑うなら、はっきりと笑ってくれませんかね?堪えられる方が、こっちとしてはつらいんですけど」


「すまん。それで、どこまで話したんだっけ?」


「俺がシスコンと呼ばれたところまでです」


「ぶっ……!」


「クリフォード様!」


その後、必死で笑いをこらえる二人だったが、アーノルドが先の魔法披露の授業について説明し、最後に


「それから彼女にはあだ名がつきました。『キャンプファイヤー』と」


と報告した瞬間、とうとう二人とも完全に吹き出してしまったので、アーノルドも疲れ果てて着席してしまう。


「笑い事じゃないですよ。なんなんですか、あの女は」


アーノルドはノエリアの淹れてくれたお茶を飲みながら、ぶつくさと文句を言い始める。


「俺たちの敵は大いなる悪意、人心を惑わす魔女じゃなかったんですか?少なくとも俺はキャンプファイヤーと戦うために、これまで腕を磨いてきたわけじゃない」


「でもね、アーノルド。あの子が悪女じゃなければ、それはそれで良い事だと思うの。もしかしたら友達になれるかも知れないでしょう?」


「義姉さんと、あいつが!? 冗談じゃない!とてもじゃないけど、釣り合いませんよ」


「珍しいね。アーノルドがそこまで、相手の事を悪く言うのは」


クリフォードが少しばかり愉快そうに言うと、ノエリアはノエリアで首をかしげる。


「でも、エリーさん、明らかにわたくしを避けていますのよ」


「君を?」


「お茶会に招待しても拒絶され、こちらから会いに出向いても窓から逃げられました」


ノエリアから誘われるお茶会は、聖トラヴィス魔法学園でもステータスのひとつだ。

ここに招待されるのは、未来の皇妃から認められる大変な名誉な事だと認知されている。

ノエリアは事情聴取だけでなく、ここにエリーを招待すれば、今、厳しい目を向けられている彼女が救われるきっかけになるかもしれないと目論んでいたのだが……どうやら事は上手く運ばないようだ。


何か嫌われるような事をしたような覚えはない、強いて言うなら……

ノエリアが、じとーーっ、と義弟を眺めやる。


「な、なんですか?」


「わたくしが、あなたの義姉だから、かしら…」


「俺が原因ですか!?」


なるほど、と得心したのはクリフォードだ。


「ノエリアと会う事になれば、必然的にアーノルドと顔を合わせる可能性が出てくる。君と犬猿の仲ならば、面会を拒絶するのも無理はない話、か」


「俺は謝りましたよ!」


「あれ、謝ったって言わないからね」


ぴしゃり、とクリフォードに言われて黙ってしまうアーノルド。

少なからず自覚はあった。


「とにかく今のアーノルドが絡んでも、素直に応じてくれないだろう。だから違う人を遣いに出した」


「違う人を?」


「我らが監査役さ。彼にもエリーの調査を依頼していた」


ああ、と、ノエリアがポンと手を叩く。


「だから最近、こちらに顔を出していなかったのね」


「彼なら、きっと彼女について有益な報告をしてくれるはずだ。それと伝言がひとつ。アーノルド、君に来て欲しいそうだ」


「俺?」


「エリー嬢と話す機会をセッティングしてくれるんじゃないかな?」


不満げなアーノルドは口を尖らせる。


「俺に何をさせようっていうのか知りませんけどね、あの女には苦労すると思いますよ」


「大丈夫さ」


その不平に対してクリフォードが信頼した口調で答え、そして続けて断言する。


「何せ彼は、未来の王国宰相になる男だからね」

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